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投稿者: Yufuko <yufuko@m...> Date: 2001年6月24日(日) 午前11時15分
タイトル: 『ラプソディ ―血脈の子―(上)』
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題名『ラプソディ ―血脈の子―(上)』"RHAPSODY"
著者名:エリザベス・ヘイドン Elizabeth Haydon
(岩原明子:訳)
出版社/早川書房(ハヤカワ文庫FT)
発行日/2001.04.30
ISBN4-15-020288-5
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俗説というか……いつの頃からか、長寿シリーズものでハヤカワ文庫FTの刊行
物のほとんどが埋められるようになりはじめてから、ひそかに囁かれている言葉
がある。
曰く、
「いつものアレ以外に単品で出るのは、選りすぐりの逸品であることが多い――
趣味に合う/合わないはともかく、読んでおくべきレベルのものだ」
とまあ、そんな風説があるのである。いや、風説ですらない。誰も口にしない
し、ただなんとなく暗黙の了解として、不幸にも長寿シリーズものに乗り切れな
い文庫FT愛好者のあいだで目くばせをはじめとするノン・バーバル・コミュニケ
ーションで伝えられる。いやいや、使えるというほど強くもない。互いになんと
なく察する。そんな雰囲気がある。
というわけで、番外なのでとりあえず読んどけ、の『ラプソディ』である。分
厚い。しかも上下巻だ。これが三部作の第一部だそうなので、おそらく同様かあ
るいはこれを上回る量の第二部と第三部が用意されているのだろう。
しかし、濃い(あるいは「厭な」)ファンその一のわたしは、タイトルを見て、
表四の内容紹介を見た時点でちょっとげんなりする。
タイトルの『ラプソディ』とは、主人公の名前であるらしい。
うぬー。
なぜここで「うぬー」と思うかは、もう説明しない。わかる人だけわかってく
れという後ろ向きな気分だからである。しかしとにかく「うぬー」である。
表紙をめくる。地図だ。「うぬー」な気分はさらに高まる。「ノースランド」
ってさあ……英語よね? ほかの地名もみんなそうならいいの。いいのヨ。でも
ネ、異世界ファンタジーっていうのはそもそも「そこに存在しないもの」を書く
技術なワケ。はじめからホントに在るモノはいいのヨ。だってホントに在るんだ
から。誰も「そんなの在りっこねェや、ケッ!」なんて言わないし、言われたと
しても「在るんだも〜ん、知らなかったのォ? や〜い、ば〜かば〜か」で済む
んだから。でもネ、ホントに在るわけじゃないモノを書くときには、それなりに
法則を踏まえて書かなきゃダメなのヨ!(略)だって(略)それでナニ、この「
ノースランド」っていうのは(略)ほかの地名は(略)いったいこの「フィルボ
ルグ」って(果てしなく略)。
本文に入る。青年登場。グウィディオンという名前らしい。グウィディオンで
すか? じゃあケルト系ですね? いやいいです。それでその……。えっ。次に
登場するのはエミリー? ちょっと待ってヨ。だから異世界ファンタジーってい
うのはネ(略)イメージが大切なのよ。それでたとえば(略)だって(大量に略
)どうしてなの〜ッ!
あああ、なんでダンディ・ピンク口調になるかな>自分(すみません。自サイ
トでやってる「ロマンス戦隊★ダンディV」というバカ企画のキャラが乗り移り
ました……)
と、この調子で略しつづけつつ、がんばって読んだ甲斐があった!
むっちゃくちゃおもしろいぞ、この本。名前には最後まで文句タラタラだが、
いいの、おもしろいから!
ヒロインのラプソディは「歌い手」としての修行中の身。師匠が途中で不意に
消えてしまったため修行を終えてはいないものの、かなりの実力の持ち主らしい。
彼女は〈死の風〉の異名を持つ悪党ミカエルに見初められてしまう。ミカエルの
召喚を手ひどくはねつけたラプソディは、追ってきた彼の部下から逃れるため、
道でぱったり出会った見ず知らずの男に助けを求め、彼を兄だと紹介する。名を
問われ、苦し紛れにその場凌ぎで「蛇のアクメド」と口走るが、それこそが彼を
呪縛から解き放つ行為だった。その男の名は偶然にも〈ブラザー〉――「兄」だ
ったのだ。しかも、彼は悪霊に憑かれた聖職者によって名前を押さえられ、行動
を支配されていたのだ。それが、ラプソディの嘘によって〈ブラザー〉の名から
自由になり、「蛇のアクメド」に生まれ変わってしまったのだ!
ラプソディの中に「歌い手」としての実力を感じた男、今はアクメドとなった
彼は、部下のグルンソルとともにラプソディを助け、そして彼女を強引に伴って
旅に出ることになった。それは、ラプソディには予想もつかない大冒険の始まり
であった。
歌と名前の魔法がファンタジー部分とするなら、メリディオンという謎の人物
が外から世界に干渉している風なあたりは、SFの血を感ずる。
前に、現在日本でいわれている「ファンタジー」なる言葉の流れについてあれ
これ考えたり書いたりご意見をうかがったりしたことがあって、去年のSF大会な
どでもそれについてまた考えたり聞いたりをくり返したのだが、欧米の、いや殊
に米国のファンタジーは、SFの血が濃いように感ずる。
つまり、SFが先にあり、ファンタジーはあくまでその枝として発生したという
流れである。
無論、世の中にSFしか存在しないはずはないし、あちらの書き手とて、個々人
がさまざまに複雑な読書体験を経ているだろう。ただ、メイン・ストリームとし
て「SFから派生したファンタジーの系譜」があるだろうなあと感ずる。この『ラ
プソディ』もまた、著者が無頓着に処理しているように見える要素と、逆に興味
が集中しているように見える要素があって、そのバランスが、わたしにそういう
感覚を抱かせるのだろうと思う。
しかしとにかく読みごたえあり! 長すぎるきらいはあるが、おもしろいので、
冒頭に書いた風説未満の雰囲気を感じている人は、とにかく読んでおくべし。
読みはじめたら本を置けなくなってしまい、参った参った。
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