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901

投稿者: Kana Koto  <kanakoto1@h...>
Date: 2010年7月13日(火) 午後1時24分
タイトル: 速報855号 グローバル市場への抵抗の息吹、ハイチの農民運動

 
震災を機に、ハイチに真の意味での主権を!
==================================
食糧主権という言葉がある。自分たちの文化を尊重し、社会的、経済的に自律
する農業を営み、国内で消費する食料を自らがコントロールする権利、という
意味だ。先進国が推し進める自由市場主義からの脱却をめざして、南米やアフ
リカ諸国を中心に食糧主権を憲法に明記する国々も増えてきた。日本では、食
料自給率は約40%程度。全国民が消費するカロリーの半分以上を外国からの
輸入に頼っているのが現状。食は人間が生きていく基本であるのに、半分以上
をよその国に頼らないといけないという状態では、残念ながら日本は食糧主権
を保持している国だとは言いがたい。

今年1月に大地震にみまわれたハイチは、諸外国の支援をうけて復興のさなか
にある。米国からはハイチを自由貿易市場にし、経済を復興しようという計画
もでてきた。しかしその経済復興は果たして誰のための経済復興なのだろうか?
いま、自由市場が支援という美しい衣を着て新たな餌食を我が物にしようとい
うそのまっただなかで、ハイチの農民運動が声を上げている。いまこそ、ハイ
チに食糧主権を主張するときだ、と。

(翻訳/前書:金 克美(キム・クンミ)/TUP
==================================

時計はリセットされた
シャバン・ジャン・バティストへのインタビュー第一部

ビバリー・ベル   2010年3月4日

シャバン・ジャン・バティストはパパイ農民運動(Movman Peyizan Papay、ク
レオールの頭字語でMPP)の事務局長であり、パパイ議会国家農民運動(Mouvm
an peyizan Nasyonal Kongre` Papay、[略称]MPNKP)のスポークスマンである。
先月、セントラル・プラトゥーの広大で肥沃な耕作地帯の一角にあるMPPのト
レーニングセンターでこのインタビューを行った。ここでは農民たちが環境に
よい農作を演習したり、食糧主権について学んでいる。食糧主権は小規模農家
運動がハイチおよび世界中で提唱している地産地消プログラムである。食糧主
権には、食品輸入の際に関税をかけることで国内市場を保護するとともに、土
地改革、在来種、そして技術と環境のサポートを必要とする。また、貿易と開
発政策の形成に、市民の民主的な参加が必要である。

−−−

シャバン・ジャン・バティスト:私たちはこの大惨事を機会と捉えて「時計は
リセットされた」と主張する必要があります。以前のハイチとは全くことなる
新しいハイチを建設しなければなりません。政治的主権、食糧主権を行使する
ハイチ。その実現は農業を築くことから始まらねばなりません。
私たち農民は200年以上にわたり犠牲者でした。独立を得るために戦った奴隷
は植民地主義者から土地を得るためにも戦いました。しかし独立を得たとき、
ハイチ軍の将校たちは奴隷は奴隷のままにしておき、入植者の土地の代わりに
自分たちの土地で働かせるという発想を持ちました。そのため、都市で生活す
る者と田舎で暮らす者とに、また豊かな者と貧しいものとに二分されることに
なりました。そして小さな国の中で、ポルトー・プランス共和国*と「その外
部」の共和国という二つの国ができました。「その外部」とは人口の80%を
さします。

*[ポルトー・プランス Port-au-Princeはハイチの首都]

出生証明書まで二つあるのです。ひとつは農民のものと、もうひとつは街の
人々のものです。アリスティード大統領の第一期のとき、それを一つにするよ
うに要望しました。

ほとんどすべての行政業務がポルトー・プランスに集中していました。パス
ポートが必要なら、身分証明証が必要なら、子どもを大学に行かせる必要があ
れば……行くところはポルトー・プランス共和国でした。皆が仕事を探しにく
るところもまたそうでした。「外側」にはいることができないからです。「外
側」には何もないからです。そうやって3百万人の都市になり、谷間に建てら
れた家々と、排水施設もない、ここそこに秩序なく人々が築いた一つの大きな
スラムができあがりました。その結果を私たちは1月12日に見ました。よその
国ではもっとひどい地震があっても数人を失うだけです。MPPでは災害で5人の
若者を失いました。彼らはポルトー・プランスにある大学にいたからです。教
育を受けたかったがために命を失いました。

徐々に、国家は地方を見捨て、農民者は選挙で票が必要なときにだけ利用され
る周縁に追いやられた階級として取り残されました。

そしていま私たちには、ハイチを国際社会に支配されたモデルにする、ビル・
クリントンの再建計画があります。彼らがほどこす援助は我々が望む援助では
ありません。計画は、ハイチを国際輸出市場とし、自由貿易圏の労働者市場に
するものです。彼らは相対的な利点について語りますが、その意味は、ハイチ
は単純労働力だということです。食糧援助を送ってくれるあいだはハイチ人は
労働を搾取される工場で働くことになっています。この計画は私どもの農民運
動計画に相反するものです。

これでは国の開発などできず、国民の80%を除外したもう一つのハイチをつく
ることになるのは明白です。だからこそ、我々MPPの目標の一つは、ジャガイ
モの皮むきをして働くためにポルトー・プランスに行かなければならない代わ
りに、地方を人々が住みたくなる楽園にすることです。

農村環境での雇用を生む、農民を中心にした開発は若者を地方に引き止めるで
しょう。また、地震の後に農村地域へ大量に移動した人々の一部を留め置くで
しょう。彼らの多くは「留まりたいけれど、働かなければならない」と言いま
す。ポルトー・プランスの一極集中を廃し、農業を確立することで、それは実
現可能です。田舎にできることが他にもあります。たとえば、地震にみまわれ
た場所は再建しなければならず、建設資材は農村部門でまかなうことができる
でしょう。電気があれば、学校があれば、ここで働くことができるなら、ポル
トー・プランスに行かなければならない理由は誰にもありません。

私たちは農民と家族農業を増強し農村地域で食物を生産するためのプログラム
を立ち上げることができます。現在は人口の40%が食べられるほどをやっと生
産していますが、ハイチの国土には、全国民に十分な食糧を生産し、あまつさ
え輸出もできるほどの潜在力があります。これにはハイチ人に土地を利用する
権利を与え、治安をまかせ、そして、有機農法、いわゆるアグロエコロジーを
発展させる支援から始めなければなりません。

これらに必要な政策は食糧主権の所有です。まず家族のために次いで地域市場
のために作物を育て、さらには次世代の母となる地球と環境とを尊重する形で
健康的な食物を育てていくために、国が独自の農業政策を決定する権利を持つ
ことです。

現在、ハイチは本質的に農業国であるにしても、ドミニカ共和国に完全に依存
しています。ほとんどの鶏卵、バナナや他のものもドミニカから手に入れてい
ます。同じ新自由主義(グローバリゼーションの自由貿易政策)をとっていて
も、ドミニカ共和国には確固たる自治権があります。たとえば、ドミニカは米
の自主生産を決定し、マイアミ米(輸入米)と古着の輸入を拒否しました。そ
うなるような方策を実施しました。私たちはといえば、自由貿易政策により輸
入品で自らの市場をあふれさせました。農業は破壊されてしまいました。

私たちに必要なのは食糧問題を扱う農民組織です。課題は牧牛や統合水管理、
そして有機殺虫剤および有機肥料生産を含む農業生産です。そういうことを続
けていくつもりですが、たった今現在は都市からの避難民に食糧を提供し世話
をしているため、直近の優先順位はいくつか変えなければならないでしょう。

私たちはシードバンク**の設立し、クレオールの種子を貯蔵できるサイロを持
つ必要があります。土地固有の有機的な種子は食糧主権の根幹の一部です。現
在、アメリカ大陸の国々からの、特にモンサント社***が遺伝子操作した種を
生産するためにすでに開発した大農場を持っている米国、ブラジル、アルゼン
チンからくる危機があります。もしこれらの種子がハイチに送られはじめたら、
それは200年以上も前に独立し自分たちの種を守ってきた農民の死を意味しま
す。ハイチ人にとって、地元の種子を購入するのが喫緊の課題です。農民たち
は3月15日までにマメと野菜の種を購入しなければならないと言っています。
黒エンドウなら、二ヶ月で食べられるようになります。

**[土地固有の種子を収集し保存するシステム]
***[種苗会社として世界最大の巨大企業。 近年では自社製除草剤ラウンド
アップに耐性のある遺伝子操作種ラウンドアップ・レディのトウモロコシなど
で知られる。モンサント社製の除草剤を大量散布しても、その除草剤に耐性の
ある種のみが枯れずに育つという仕組み。農家は除草剤と種子の両方を購入し
なければならない。ベトナム戦争時に、ジャングルに潜むゲリラを見つけるた
めと大量散布された枯葉剤を生産した企業としても有名]

私たちが直面している危険とはなんでしょう。それは米国国際開発庁(USAID)
や他から受けている食糧援助が国内に投げ込まれている事実です。この現在の
危機の間は食糧援助が不可欠であることには異論ありません。早急に食糧を得
なければならないという緊急事態ですが、同時に食糧生産にとっても緊急事態
です。6週間後には収穫を始める野菜をお見せできるでしょう。6ヵ月以内に食
糧援助を減らし始める必要があり、そうすれば農民の生産で国民を食べさせる
ことができます。もちろんそれには灌漑への多くの支援を必要をします。

不可欠なのは農民が自分の土地の主となり管理者になれるような農業改革です。
アメリカ人、フランス人、またはスイス人がハイチの土地の大区画を所有して
いるので、それは不可能です。土地は、そこで働く農民によって所有されなけ
ればなりません。そして彼らが死ぬときには子孫に残すことが可能であるべき
です。土地と共に、信用取引、技術補助、そして生産物を売るための市場が必
要です。

もし食糧でハイチを助けたいと望むみなさんには、ぜひ農家の生産に関するこ
とで援助してくださいと伝えています。我々には水管理が、貯水槽が、道具類
が、技術的な支援が、地方に大学を持つための援助が必要です。そして自由貿
易政策を変える必要があります。しかし、4〜5年で我々は食糧生産の主権者と
なれるはずです。
―――――――――――――――――――――――
原文 マイケル・ムーア.comより 2010年3月4日掲載
http://www.michaelmoore.com/words/mike-friends-blog/clock-set-zero

原題 The Clock Is Set at Zero
 An interview with Chavannes Jean-Baptiste, part 1

著者 Beverly Bell

ビバリー・ベルは政策研究所(the Institute for Policy
Studies)の準研究員であり、エコノミック・ジャスティス・グループ・ア
ザーワールドの主催者です。
http://www.otherworldsarepossible.org/~otrom/beverly-bell-bio

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TUP速報
配信担当 古藤加奈
電子メール: TUP-Bulletin-owner@y...

TUP速報の申し込みは:
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■『冬の兵士──イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』
(TUP翻訳、岩波書店、2009年8月18日発売)
http://www.tup-bulletin.org/
■TUPアンソロジー『世界は変えられる』(七つ森書館)
JCJ市民メディア賞受賞!!
http://www.pen.co.jp/syoseki/syakai/0480.html
■『世界は変えられるII』も好評発売中!!
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過去のTUP速報を読む:
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902

投稿者: Kana Koto  <kanakoto1@h...>
Date: 2010年7月25日(日) 午前3時10分
タイトル: 速報856号 ハワード・ジン著『爆撃』刊行のお知らせ

 
君はハワード・ジンを知っているか?

TUP:岸本和世
==============================

八月三日にハワード・ジン著『爆撃』が岩波書店から「岩波ブックレット」
788号として刊行されることをお知らせいたします。日米同時刊行の企画とし
て、原書は同月米国シティライツ社から出版されます。広島と長崎の被爆六五周
年記念のためにハワード・ジン教授が出版の準備を整えながら、今年二〇一〇年
一月二七日に八七歳で急逝されたために遺作となった『爆撃』の翻訳を皆さんに
お届けできることを光栄に思っています。

この遺著の編纂にあたったグレッグ・ルジエロさんの前書き「大小の反逆行為」
に触れられているように、本書の「序」は、ジン教授が亡くなる一か月前に書か
れた、まさに彼の最後の文章となりました。

卓越した歴史学者であると同時に、抑圧され続けている民衆と常に共に生き、平
和と正義のために闘い続けた活動家として、多くの人々からの尊敬を集めて来た
ジン教授の書かれたもののいくつかは、わたしたち共訳者が参加しているTUP
−平和を目指す翻訳者たち−の「速報」でも読むことができますので、ぜひご覧
ください。さらに、ごく最近TV放映された『アメリカで最も危険な男―ダニエ
ル・エルスバーグとペンタゴン・ペーパー』のエルスバーグが記した「ハワード
の思い出」(TUP速報八四六号)もぜひお読みください。エルスバーグさんはイ
ンタビューアーの問いに答えて「わたし自身のヒーローはまず第一に“ハワー
ド・ジンだ”」と述べています。彼があのペンタゴン・ペーパーを持ち出して預
けたのは、このジン教授だったのです。

ジン教授の数多い著作の内、十数冊が邦訳出版されていますが、その代表中の代
表である著書『民衆のアメリカ史』は、ルジエロさんの前書きにもあるように、
原著の販売数が百万冊を超える評判の大作です。ただし、それの邦訳本は題名が
「アメリカ史」というわたしたち日本人にとっては外国の歴史に関する書物と見
える上に、上下巻二冊で約一四〇〇頁という分量と値段も手伝ってか、日本では
その書もジン教授の名前もあまり多くの人に知られているとは言えないように思
えます。

しかし、「ベトナムに平和を!市民連合」(「ベ平連」)の吉川勇一さんが記され
た追悼文にあるように、ジン教授は一九六六年、米軍の全面的な参戦によってベ
トナム戦争が本格化して間もなくの六月、北海道から沖縄までの連続縦断講演旅
行や東京での「ベトナムに平和を!日米市民会議」を通して、ベ平連のみでな
く、当時のベトナム反戦運動に関わった人々に最大の影響を与えた米国人
でした。ジン教授が帰国直後に書かれた『魚と漁師−日米反戦講演旅行について
−』には、この旅行での諸大学で行った学生や教師たちとの対話やそのほかの人
々との出会いを印象深く報告され、当時日本に湧き上がったベトナム反戦への高
まりを米国のそれの低調さと比較し、(さらには、今日もいまだに続いている沖
縄基地問題にも暗に言及しながら)、米国民衆の目線に身を置きつつ「われわれ
(米国人)は日本人のように一度も、自分自身の行為を認め、頭をたれ謝罪し、
平和な生活を約束したという経験がないのだ。ことばを換えて言えば、われわれ
は一度も悪事をとがめられたことがないのである」と記されている言葉に、今日
のわたしたち日本人がいつの間にか陥っている経済人間の平和ボケに対する預言
的な警告を聴き取りつつ、本書を味わいたいと思います。

一九九四年に出されたジン教授の自伝的回想録『動く列車の上では中立でいられ
ない』(邦訳『アメリカ同時代史』明石書房)は、あの九・一一の悲劇直後に
「序文二〇〇二年」という四頁の文章を加えて再版されたのですが、わたしたち
にとって気が付いた特に印象深いことは、その最初の二頁で六三行の中に一三回
も「BOMB(爆撃)という、本書の題名になっている文字があることです。もちろ
ん、なぜ「爆撃」が題名とされたのか、そのわけは本書を読まれれば直ちに了解
されるでしょうが、ジン教授がご自身の体験をとおしてまさに次のような思いを
込めて、アメリカの人々のみでなく、為政者を含む世界のすべての人への遺言と
されたと言っても過言ではないでしょう。それは、ある近刊書でオーストラリア
の歴史学者テッサ・モーリス−スズキが「彼(ブッシュ)がやったのは、『わた
したちは素晴らしい自由をもってますから、爆弾を落としてあなたにも自由を与
えます』」と言っているような、世界の権力者たちが常に抱いている幻想を打ち
破ろうとする爆弾宣言の書だと思っています。

皆さんに広く読んでいただけますように。

書名:爆撃
著者:ハワード・ジン
翻訳:岸本和世、荒井雅子
出版:岩波書店
発行日:2010年8月3日
価格:560円(税込み588円)
ページ数:72ページ
協力:TUP 

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電子メール: TUP-Bulletin-owner@y...

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■『冬の兵士──イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』
(TUP翻訳、岩波書店、2009年8月18日発売)
http://www.tup-bulletin.org/
■TUPアンソロジー『世界は変えられる』(七つ森書館)
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903

投稿者: Kana Koto  <kanakoto1@h...>
Date: 2010年8月1日(日) 午前1時16分
タイトル: 速報857号 米国のゲーツ国防長官、防衛予算に関して発言

 
膨らむ防衛予算に防衛のトップが危機感を表明
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜
アメリカの現国防長官ロバート・ゲーツ氏は、最近の演説において高額化する一
方のアメリカの防衛予算に警鐘を鳴らしている。ここで紹介するのは5月3日の
ネイビーリーグ主催のエキスポでの演説。ネイビーリーグは、アメリカの海洋戦
力を擁護し、アメリカの安全保障のために海洋戦力が果たす役割を人々に伝える
活動を行っている。世界最強を誇るアメリカの軍隊。その軍隊を支えるのに、途
方もない資金(アメリカ国民の税金)がつぎ込まれてきている。そんな余裕はも
はやこの国にはない、と長官は訴える。
アメリカの軍隊が今後どのような展開を見せるのか、それに伴ってアメリカの軍
産複合体がどのように展開していくのか。どちらも日本への影響は多大である。

凡例: [訳注] 訳注は文末にあります。
(前書き・訳:樋口淳子/TUP 軍事用語訳協力:山崎久隆/TUP)  
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
〜

(2010年5月3日、メリーランド州ナショナル・ハーバーにあるゲイロード
・コンベンション・センターで開かれた「ネイビーリーグ 海―空―宇宙エキス
ポ」でのロバート M.ゲーツ国防長官の演説)

お話をする機会をいただいて、ありがとうございます。わが国の海洋戦力と国外
での取り組みに対し、1世紀以上にわたり、確固とした、時には熱烈な支持を下
さっているネイビーリーグの皆様に感謝します。

 今日、私はこの場に立ててうれしく思います。陸軍、空軍、海兵隊の軍関係団体
に対して演説をしたことはありますが、ネイビーリーグの年会に参加するのは今
回が初めてです。幸先のいいスタートを切るため、触れておくべきことがありま
す。国防総省はその歴史で初めて、米軍の2つの最高地位に、2期連続して海洋
戦力の将校を置くことになりました− 海兵隊出身の統合参謀本部議長と海軍出
身の副議長、続いて、海軍出身の統合参謀本部議長と海兵隊出身の副議長です。
想像するに、みなさんは、ようやくきちんとなった、と感じられているのではな
いでしょうか。

今年のエキスポのテーマは「グローバルな対応:海と陸での取り組み」。我々の
軍隊が前例のないレベルで実践している世界各地での取り組み、特に海洋任務を
考えれば、これ以上に適切なテーマは思いつきません。

その取り組み方は世界中で展開されているさまざまな活動に見ることができ、ア
ルフレッド・セイヤー・マハン[1]もきっと気になって安らかに眠れず、草葉の
陰から覗き見をしているに違いありません。アフリカ・パートナーシップ・ステ
ーション[2]を通じてギニア湾で協力体制を構築し、東南アジアの最重要規定航
路の安全を確保するために友好国や同盟国と共同訓練を行い、ジブチでは井戸を
掘り、学校を建設し、アフリカの角周辺の海賊行為という脅威に対抗するための
多国間活動を率い、貧民や貧窮した人々を助けるために病院船を急派し、メキシ
コ湾での原油流出などの危機では援助活動を行い、また、最近ではハイチ地震に
見られるような自然災害への取り組みなど、わが軍人たちの深い思いやりと良識
とを証明する活動です。

そして、もちろん、戦争です。米中央軍[3]作戦地域に約25隻の艦船と2万人
を超える海軍軍人が配備され、まさに海軍は交戦中です。私は、イラクやアフガ
ニスタンを訪問するたびに、地上に配備された多くの海軍軍人のことを考えさせ
られます。過去数年、真価を認められていない重要な物語の一つです。何万人も
の海軍軍人が戦域に立ちました。地方再建部隊を指揮する将校、経理事務員、河
川警備艇乗員、工兵、ネイビーシールズ(米海軍の特殊部隊)と衛生下士官、そ
して「デビル・ドクター」[4]たちです。彼らは作戦になくてはならない存在で
あり、地上部隊にのしかかる重圧を和らげるために貢献しています。しかも、確
実に、不満を言うことなく任務を行っているのです。

それから、言うまでもなく、海兵隊の役割です。海兵隊が戦争に与えるインパク
トは戦況を変化させる原動力になっています。まず、イラク戦争ではアンバール
県。情勢を180度変える鍵になりました。現在は、アフガニスタン戦争の要と
なっている南部地方。3月、私は最前線に位置するナウザードという町で海兵隊
員と会う機会がありました。強圧的なタリバンの支配のもと、4年近くの間、ゴ
ーストタウンだった町です。そこへ海兵隊大隊が乗り込み、犠牲を払いながらの
何ヶ月もの厳しい任務の結果、町は少しずつ生き返っています。他の地域にとっ
て模範的作戦となっています。

海兵隊は事実上第2の陸軍地上部隊としてもう何年もの間活動してきています。
コンウェイ大将がかつて指摘したように、さまざまな戦闘遠征に参加して鍛えら
れた若い海兵隊員たちがいますが、彼らは艦船内での任務の経験はほとんどなく
、海岸での上陸演習となると皆無です。しかし、海から遠く離れた陸上で彼らが
行う重要な仕事は当面、なくてはならないでしょう。

今触れた仕事や任務の多くは、ほんの10年ほど前には考えられなかったでしょ
うが、我々の海洋戦力として今後継続するものです。ただ、この国が海軍、海兵
隊、沿岸警備隊の制度をつくり、維持してきた理由を我々は常に心に留めておか
なければなりません。「優れた海軍が費やした金は国をより安全にし、将来の戦
争を防ぐだけでなく、同時に、外国との交易のためのきわめて重要な援助となる
」と言ったのは、そうです、陸軍元帥のユリシーズ・グラント[5]です。事実、
この国はかつて何年にもわたって洋上で威嚇され、脅威を受けたことで、通商航
路を護ること、軍事力を誇示すること、仮想敵を抑止すること、そして必要なら
ば、洋上であるいは敵国の港湾や海岸で仮想敵を攻撃する能力を持たなければな
らないということを早い時期に学びました。これらの主要な能力や技術が、注意
が行き届かなかったり無視されることで衰退してしまうことがあってはなりませ
ん。

そのことは、地上部隊がもっぱら中東や中央アジアでの軍事行動に専念する中、
わが国の抑止的、戦略的軍事力の中心が空軍と海軍に移っている現状を考慮すれ
ば、ますます重要です。そこで、これから数分間、わが国の海洋戦力が戦闘に励
み、今後数十年間にこの国が必要とする能力に投資しようとする際に直面する課
題に関し、次の3つの主な疑問に焦点をあてながら、展望を述べてみたいと思い
ます。
◇ 最初に、海洋戦力を司る新世代の指揮官にどのような資質を期待するべきか
?
◇ 2番目に、海軍―海兵隊チームはどのような新しい能力を持つことが必要と
なり、どの能力がおそらくは不要となるのか?
◇ 3番目に、対費用効果が高く、効率的で、かつ現実に対応する購入計画を確
実に作成するには?

まず初めに、わが国が世界中で直面する安全保障に関する複雑な課題を踏まえれ
ば、将来の海洋戦力はつまるところ、兵器の質よりも、むしろ指揮官の資質によ
って左右されることになるでしょう。1ヶ月前、私は海軍兵学校の将校候補生に
、この国の海洋戦力で傑出する何人かを挙げながらこの点について話をしました[
6]。次の指導者たちを挙げました:
◇ ビクター・クルラック中将(海兵隊)
先見の明を持ち、揚陸艇ヒギンズボートの開発に大きな影響を与えた。彼は後に
、ベトナム戦争での対ゲリラ活動が人々に理解されるために力を尽くした。
◇ チェスター・ニミッツ海軍大将
若き将校時代に、第二次世界大戦およびその後何十年にもわたって非常に効果的
に利用された空母の護衛のための輪形陣の開発に貢献した。
◇     ハイマン・リッコーバー海軍大将
非凡な創造的才能と忍耐力で、原子炉は大きすぎるうえ極めて危険であるため潜
水艦に搭載することはできない、という通念を覆した。
そして最後に、
◇     ロイ・ボーム
第二次世界大戦が終結してから、後にネイビーシールズに発展した特殊コマンド
を新しくつくり、率いた。ボームの遺産である組織は毎夜、アフガニスタンをは
じめ、世界の各地でわが国にとって最も脅威となる敵を追跡している。

 私が将校候補生にこれらの指揮官たちのことについて話をしたかったのは、そし
て今日ここで触れているのは、指揮官たちが常に正しかったからではありません
。また、すべてにおいて彼らがお手本とされなければならないから―穏やかに言
ってですがーでもありません。彼らのような指揮官が人を動かしてしまうのは、
彼らは、世界や技術が変化していることを認識する展望と洞察力を持っており、
それらの変化が意味することを理解していた、そして、組織からのしばしば激し
い抵抗にもかかわらず力強く前進したからです。  

戦争の歴史を通じて、こういった傑出した人物が具現する資質は重要であり、戦
局を左右するものとなっています。しかし、技術が発展するスピード、そして非
対称型戦法[7]を使った近代の軍隊から高度な武器を使用するテロリストのグル
ープまで、機敏さと適応性を備えかつ破壊力を持つ敵が存在しうることを考慮す
れば、私は敢えて、今世紀の最初の数十年にそのような資質が今まで以上に必要
とされると強調します。米軍はきわめて多様な状況や争いに対処するため、可能
な限りの融通性を備えていなければならず、わが国の将校たちはそんな軍隊を率
いるのです。

第2に、成功のためには、海洋戦力はしかるべく組織され、しかるべく能力を備
えていなければなりません。わが国の現有戦力を概観するに、展望を述べるとこ
ろから始めるのがいいかと思います。というのは、軍隊の中でも海軍は、艦隊が
保有する全艦船数によって判断される軍の規模の大きさに対し一貫して最大の関
心を寄せていますから。

冷戦終結後、合衆国の戦闘艦隊の規模は縮小していますが、重要なのは、世界の
他の海軍はそれ以上に縮小しているということです。つまり、相対的に言えば、
米海軍はこれまでと変わらず強力です。

拡大する地球規模の任務と責任の数々−軍隊の存在を誇示することから人道的救
援まですべてーに照らしてリスクと必要条件を判断するにあたり、現状況を確認
しておきましょう。
◇ 米国は11隻の大型原子力空母を保有する。大きさと攻撃力において、1隻
でも同レベルの艦船を保有する国は他にない。
◇ 米海軍は、ヘリや垂直離陸ジェット機用の海上基地の役割を果たせる10隻
の強襲揚陸艦を保有する。米海軍以外でこのような強襲揚陸艦を保有するのはす
べて、米国の同盟国あるいは友好国の海軍であるが、3隻より多く保有する海軍
は無い。米海軍は、米国以外の国々が保有する合計の2倍の艦載機を海上輸送で
きる。
◇ 米国は57隻の攻撃及び巡航ミサイル搭載原潜を保有し、それもまた、他の
国々が保有する数をすべて合わせた数よりも多い。
◇ 79隻のイージス艦は、およそ8000基の垂直ミサイル発射装置(ミサイ
ル・セル)[8]を搭載する。全体のミサイル攻撃力では、米国はまず間違いなく
、米国に続く世界最大の20カ国の海軍の合計より勝っている。
◇ ある最近の推定では、総艦隊能力としての米国戦闘艦隊の排水量は、総じて
米国に続く少なくとも13カ国の海軍の総計を超えており、そのうちの11カ国
は米国の同盟国あるいは友好国である。
◇ さらに、20万2千人の頑強な海兵隊員は、世界に存在する同種の軍隊の中
で最大の軍事力であり、その規模は世界中のほとんどの陸軍に勝る。

わが国は公海の上空で、海上で、海中で凌駕するもののない立場を保っています
が、やはり、今後のための準備は必要です。これまでの時代が証明しているよう
に、今までにない富、軍事力、野望を持ち、世界の舞台に新しく現れた勢力の中
枢が戦略上の風景を変えつつあります。歴史から学ぶことがあるとすれば、これ
から数十年先の国の方針は予想も約束もできない、ということです。数十年とい
うのは、次世代の艦船を開発し建造するのに必要な時間で、その工程は、レンガ
を一つひとつ積み上げ、窓を一つひとつ作り、何十年もかけられた中世の教会の
建築にたとえられます。

わが国の海軍は新しい挑戦、新しい技術、そして新しい任務を念頭において編成
されなければなりません。というのは、これも我々が苦い経験とともに歴史から
学んだことですが、軍事力に関しては、適応性を欠くと生き残れないことがしば
しばだからです。第二次世界大戦時、わが国とイギリスの海軍はどちらも、海軍
航空部隊の能力が戦艦を時代遅れにしてしまう、その変化の速さに驚かされまし
た。しかしながら、20年にわたる試験と試験航海を経た結果、どちらの海軍も
航空母艦による作戦への移行に十分備えることができました。同じような海での
革命が今、進行中かどうか、真剣に考えなければなりません。

仮想敵は、伝統的にわが国が圧倒的に優位であることをよく心得ています。そう
だからこそ、本格的な海軍改革計画がいくつかの国で進行中であるにも関わらず
、誰も、第一次世界大戦前の大建艦競争時代(ドレッドノートレース)のように
、艦船建造競争でアメリカ合衆国に挑戦して自身を破産に追い込むようなことは
しないのです。

それよりも、仮想敵はわが国の強みを制するための武器に投資しています。つま
り、軍事基地、空海の資産、そしてそれらをつなぐネットワークというわが国の
軍事力誇示のための主要な資産に対して威嚇する可能性を示しつつ、我々の自由
な軍事行動を否定するものです。

わが国の戦闘艦隊の打撃範囲と攻撃力をくじくため、他国が非対称型戦法につい
て検討していることは我々の知るところです。非正規戦闘では、2006年、非
国家組織のヒズボッラーがイスラエル海軍に対し、対艦ミサイルを発射したこと
が挙げられます。また、イランは、中東地域で米海軍力に対抗し、弾道ミサイル
と巡航ミサイル、対艦ミサイル、機雷を併用し、その地域に多数の高速艇を展開
しています。

より高度な接近阻止システムにおいては、わが国は精密誘導兵器で事実上、他国
の追随を許してきませんでしたが、とりわけ水平線を越えたところから攻撃可能
の超水平線精密対艦巡航ミサイルと弾道ミサイルの出現により、その地位を脅か
されています。これは、航空母艦やその他の数十億ドル(数千億円)もする大型
の大洋水上戦艦にとって特に問題です。というのは、たとえば、フォード級空母
に最新鋭の航空機がフル装備された場合、総額150億ドル(約1兆4千億円)
から200億ドル(約1兆8千億円)の価値のある戦闘艦船が危険に晒されるこ
とになりかねないからです。また、数々のステルス原潜を含め、ますます洗練さ
れつつある水中戦闘システムにもわが国は向き合うことになるでしょう。以上は
すべて、西太平洋で60年近くわが国海軍が享受してきた聖域の終わりを告げか
ねません。

今後目指すべき方向性の一つとして、より画期的な戦術と共同取り組み方式があ
げられます。海軍と空軍が統合して空海戦闘に携わる構想は非常に有望な進展で
あり、それにより、わが国軍隊による抑止力のために、20世紀の終わりごろに
エアランド・バトル(Air-Land Battle)[9]が成し遂げたのと同じことを21世
紀の初めに成すことが可能かもしれません。

一方で、紛争に関わる活動の全容を見渡して奥深く攻撃する能力を持つシステム
へと投資先を変更するために、何を、どのぐらい購入するのか、再検討すること
も必要です。たとえば、
◇ 長距離無人戦闘機や、情報収集、監視、偵察の能力向上のためにもっと力を
注ぎ、海軍の戦闘、燃料補給、攻撃範囲を拡大
◇ 新しい、海からのミサイル防衛
◇ 敵の戦闘ネットワーク内奥深くで、より多くの任務を行えるよう潜水艦の役
割を拡大
などが挙げられるということになります。潜水艦の攻撃力を増強し、より小型の
潜水艦や無人水中軍事拠点を検討することも必要でしょう。

このような変化は、海軍が、低強度の紛争領域に属する任務―新しい海軍作戦構
想に反映されているように、無くなることのない必須項目ですがーをより多く遂
行するように要求される場合でも起こっています。どんな任務でも、それが武装
抵抗勢力に対抗する任務であろうと、海賊行為対策あるいは治安支援であろうと
、新しい任務を行うのには、どのような武器一式を購入するかについて新しい見
地から考えることが要求されます。具体的に、海軍には数とスピード、浅い水域
で行動できる能力が必要となります。というのは、特に21世紀の戦争の性質と
して、戦闘を遂行するのに、ネットワークのつながりをますます駆使し、より小
型でより拡散力のある武器と部隊が必要となるからです。我々が去年学んだよう
に、AK−47ライフルやRPG(携行式ロケット砲)を振り回す若造連中の海
賊を追いかけ、1撃を加えるのに、10億ドル(約9百億円)もする誘導ミサイ
ル駆逐艦は必ずしも必要ではありません。

それに対し海軍は、より特殊な戦闘能力、小型沿岸巡視艇、河川警備小艦隊、高
速輸送双胴船への投資という回答を出しました。昨年の予算では、開発上の問題
があるとは言え、用途が広く、大量生産が可能で、海軍の外洋水上艦にとっては
深度が十分でないかあるいは入れても危険すぎるような場所に進航できる沿岸戦
闘艦の購入が進められました。沿岸戦闘艦購入という新しい取り組みとメーカー
間の競争で、わが国が必要とする数の艦船を建造するために、まかなえる費用の
範囲で、大規模に実現でき、継続できる方策が見つかるはずです。

再均衡を取るためのここ2−3年の努力により、現在進行中の戦争等のいわゆる
通常ではない状況において資源と組織的な支援が必要とされる方向に向いた一方
で、核を使わないハイテク能力の優先度があまりにも下がってしまった、と言う
意見があります。ただ、実際には、今会計年度、国防総省は、購入と研究開発の
総費用として、過去10年間のほぼ90%増し、1,900億ドル(約18兆円
)近くを要求しました。武装抵抗勢力に対抗する作戦、治安支援、人道的活動、
またその他のいわゆる過激ではない任務のための装備にあてられるのは、この1
,900億ドルのせいぜい10%です。私は最近の2回の予算編成において、目
に見える規模の、必要とされる変更を指示しました。もっとも、さきほど私が説
明したわが国の海軍がはるかに勝っていることを考えると、それはとても劇的と
言えるものではありません。

これらの論点は、明白に規定された必要条件と現在の装備状況 ー艦船であろう
と、航空機、あるいは何か他のものであろうと− との間の、いわゆる、「相違
(ギャップ)」についての論争を常に引き起こします。そして行き着く先は、往
々にして、すでにあるものを追加すること、あるいは既存の能力の更新という解
決策です。この方法では、限られた力しかなく、そうであるから型にはまらない
画期的な方法で米国を攻撃するしかないというさまざまな敵に我々が直面してい
る事実を無視することになります。より現実に即して言えば、恐れるべきは、我
々が追求している能力が、現実に明日の世界で必要とされる能力に一致しないと
いうことです。

そう考えると、戦略的環境の展開にともない、国防総省は常に将来計画を調整し
続けなければならないことになります。2点の大事なことが思い起こされます。

1点目は、戦闘中に多数の兵士を艦船から上陸させるのに、どんな新型装備が必
要かーつまり、遠征戦闘車(次世代水陸両用強襲戦闘車両)が提供できる能力の
ことです。第一次湾岸戦争(1991年)[10]において、海兵隊の小艦隊をク
ウェート市沖で待機させ、そのため、サダムの陸軍がサウジアラビアとの国境を
見張りながらもう一方で沿岸を監視せざるを得なかったのは、疑いもなく、ほん
とうの戦略的強みでした。しかしながら、対艦システムが進歩してますます岸か
ら離れたところに発射地点をおくことができる今日において、大規模な上陸作戦
に再度着手することが必要なのか、あるいは道理にかなっているのか、十分に考
えてみなければなりません。もっと基本に近いところで、この21世紀に現実的
に最もありそうなシナリオに対処するのに、いったいどのような水陸両用性能が
必要なのでしょうか?そしてどれほどの規模で?

2点目は、航空母艦。国防総省の計画では、2040年までに11の空母打撃群
を保有することになっており、すでに予算に計上されています。確かに、世界の
海に我々の軍事力を誇示する必要性が無くなることは決してありません。けれど
も、わが国がすでに他を引き離して圧倒的に優勢であることを考えてみてくださ
い。また、敵が持つ対艦能力が向上していることも考えてみてください。2つ以
上の空母打撃群を保有する国が他に無い状況で、今後30年間に11の空母打撃
群を持つことが、ほんとうに必要でしょうか?今後の計画はすべて、これらの現
実を踏まえてのものでなくてはなりません。

それに関連して、3点目そして最後の課題としてあるのが予算です。私はかつて
、わが国には大きな戦争が起これば軍備を縮小する傾向がある、と警告したこと
がありました。それは今でも懸案のままです。しかしながら、これまでもそうで
したが、防衛予算の長期予想は、国家の戦略的能力もさることながら、国の全体
財政の健全性に本質的に関係します。

その点において、我々はいくつかの厳しい現実を受け止めなければなりません。
米国の納税者と議会は、当然、赤字を心配します。しかるに、納税者が支払った
税金の管理人としての国防総省の仕事には改善されなければならない点が数多く
あります。

さて、問題のその部分は国防総省の手の届かないところにあることは、私を含め
誰でも知っていますし、その状態がもう長く続いています。私が気に入っている
話の一つに、初代アメリカ合衆国陸軍長官であったヘンリー・ノックスの話があ
ります。彼は米国艦隊の創設を任せられました。そして、米国議会から必要な支
援を受けるために、とうとう、6つの州の6箇所の造船所で6種類のフリゲート
艦を建造してしまいました。世の中には決して変わらないことがあるものです。

今期の予算案提出で国防総省は、十分な調査のもと、軍の同意を得て、統合打撃
戦闘機(F35戦闘機)の追加エンジン用の予算を取りやめることとC−17輸送
機の生産中止を求めました。こうして話している間も、エンジン追加とC−17
増産を議会が予算に復活させないように論争が交わされています。納税者が今後
数年にわたって負担することになりかねない何十億ドル(何千億円)もの不必要
な費用です。政治的意図と防衛予算をめぐる論争については、この土曜日、アイ
ゼンハワー図書館でさらに詳しく話したいと思います。[11]

そうだからと言って、国防総省と軍が購入の責任を果たさないでいいというわけ
ではありません。当初の見積もりを大幅に超えて急騰している高額の物品では、
これらの論点は特に深刻になります。現役の潜水艦と揚陸艦は、1980年代の
同種のものと比べ、3倍の価格です。しかもそれは、艦船の建造と改造のための
総予算が以前と比べると20%削減されている現況においてです。ほんの数年前
、議会予算局は海軍の造船計画に対応するには、年間200億ドル(約1兆8千
億円)以上の費用が必要だと見積もりました。それは、近年(10年ほど前)[1
2]の造船予算の2倍であり、30%ほどの財源不足でした。急上昇するこれらの
コストと引き換えに国力が比例して強化されているのだろうかと疑問に思うのは
もっともなことです。

海軍のDDG−1000(ミサイル駆逐艦)のケースがまさにそうです。海軍幹
部がその計画を縮小したときには、艦船1隻の価格は倍以上になっており、購入
予定艦船数は32隻から7隻までに減りました。現在の購入計画数は3隻です。

あるいは、次期新型弾道ミサイル潜水艦を考えてみてください。国防総省は、1
隻70億ドル(約6千3百億円)の潜水艦を12隻購入する計画のため、今後数
年の研究開発費として60億ドル(約5千4百億円)の支出をまさに今、提案し
ています。潜水艦に対する現在の必要条件は、戦略型原潜の規模と搭載能力を持
ち、攻撃潜水艦のステルス性を備えていることです。今年に入って行われた議会
公聴会で私は、2010年代後半から新型弾道ミサイル潜水艦だけで、海軍の造
船財源の大部分を使い果たしていくことになるだろうと指摘しました。

なるほど、最新の30年造船計画は正しい方向への第一歩です。メイバス海軍長
官とラフヘッド海軍大将は、妥当な予算を作り上げ、作戦への影響を抑えて混乱
を来たすことなく軍を再編成するのにたいへんな努力をしました。同時に、海軍
が革新的なエネルギー安全保障と確固とした主導権を持つことは、環境保護に寄
与するだけでなく、長期的な節約にもつながります。

そうではあっても、戦争が収束するに従い、その過酷な局面で耐えてきた陸軍と
海兵隊を再編成するための財源が必要になるということを忘れてはなりません。
また、兵士とその家族に対して長期にわたって支払い続けなければならない費用
があります。言い換えれば、造船予算は最重要事項とは言え、今想定している額
から著しく増額されることは考えにくいということです。駆逐艦に30億から6
0億ドル(約2千7百億円から5千4百億円)、潜水艦に70億ドル(約6千3
百億円)、空母に110億ドル(約9千9百億円)を必要とする海軍の費用をこ
の国がほんとうにまかなうことができるのか、最後にはそう問わねばなりません
。

本日、たくさんの点について取り上げましたが、私自身がそれらに対してすべて
回答できるなどとは言いません。ただ、私の言うことを覚えておいてください、
海軍も海兵隊も、発展する技術、新たな脅威、現実的な予算に照らして、今まで
前提としていたことを進んで再検討し疑問を投げかける用意がなくてはならない
ということを。わが国には、減少する一方の装備に高額化する技術がつぎ込まれ
ていく ― 結果、最大財政支出の一部が、浪費に終わってしまうかもしれない
兵器や艦船に費やされてしまいかねないー という現状を継続する余裕など、ほ
んとうにないのです。

最後にひとつ思うところを。わが国が保有する艦船の種類と数、また、我々がど
のようにそれらを使うかは、この200年あまりの間ずっとそうであったように
、常に変化していきます。変わってはいけないこと、不朽であるべきことは、こ
れらの艦船上や陸上で任務につく海軍軍人、海兵隊員の資質です。彼らは、身体
的勇気とともにモラルを備えていなければなりません。誠実さを備えていなけれ
ばなりません。建設的に、大胆に思考しなければなりません。彼らは、世界や技
術は絶えず変化していることを認識し、それゆえ海軍と海兵隊は時代とともに変
わらねばならないことを理解して、将来を見通す洞察力を持っていなければなり
ません。常に柔軟であり、常に適応できることが求められます。彼らの名だたる
先人たちがそうしたように、彼らは上官に対してでも、厭わずにきびしい現実を
話さなければなりません。

激烈な2つの戦争が続く中、私は過去3年半にわたり、艦船上で、イラクとアフ
ガニスタンの戦地で、海軍基地と海兵隊駐屯地で、そして海軍兵学校で、未来の
海軍と海兵隊を見てきました。これらの若者たちは、わが国の海洋戦力の未来は
たいへん明るく、彼らに任せておけばこの国は安全であるという確信を私に与え
てくれています。
ご静聴、ありがとうございました。

原文
2010年7月31日付米国国防総省ウェブサイト
http://www.defense.gov/speeches/speech.aspx?speechid=1460
原題
Navy League Sea-Air-Space Exposition
Remarks as Delivered by Secretary of Defense Robert M. Gates, Gaylord
Convention Center, National Harbor, Maryland, Monday, May 03, 2010

[訳注] 
[1] Alfred Thayer Mahan 「アルフレッド・セイヤー・マハン」
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%AB%E3%83%95%E3%83%AC%E3%83%83%E3%83%89%E3%83%BB%E3%82%BB%E3%82%A4%E3%83%A4%E3%83%BC%E3%83%BB%E3%83%9E%E3%83%8F%E3%83%B3
米海軍の理論家・軍人。海軍少将で退役した。

[2] アフリカ・パートナーシップ・ステーション 
従来はソマリアのような交通の要衝以外はほとんど関心を持たなかった米国の、
アフリカ戦略の一環として新設された。ポスト冷戦型戦略の一環で「多国間相互
協力拠点」として機能させる目的。この場合のパートナーシップとは、西アフリ
カを中心に米国と軍事協力関係を強化しようとする意味で、このような展開は米
国の西アフリカにおける資源・エネルギー確保や対テロ戦争遂行、あるいは対中
国戦略との指摘もある。

[3] 米中央軍(CENTCOM)
米軍の地域統合軍の一つ。他に太平洋軍、欧州軍などがある。1983年に作ら
れたが、米国の戦略が中東などにあまり関心がなかった時代は活動性は低かった
。湾岸戦争以後に米国による中東地域への軍事行動が増大し、大きな戦力を投じ
られるようになった。司令部はフロリダ州のマクディール空軍基地にある。現在
の司令官マティス海兵隊大将は2010年7月から就任しているが、5年前に「
(タリバンを)殺戮するのは気分が良い」などと発言し批判された。二度にわた
るファッルージャ攻撃の司令官でもあった。

[4] devil docs [デビル・ドクター]
http://www.time.com/time/world/article/0,8599,438873,00.html
2003年5月30日付け タイム(雑誌)
前方蘇生外科室と呼ばれ、戦場で医療活動を行う医師団のニックネーム

[5] ユリシーズ・グラント
南北戦争時の北軍総司令官で、第18代米国大統領

[6] 2010年4月7日に行われたゲーツ長官の海軍士官学校での演説を指す
。

[7] 非対称型戦争(戦闘)
双方の戦力や戦闘能力に大きな差があるような場合における戦略、戦術において
、相手とは異なる予測困難な手段をとることにより局面を有利に運ぼうとするこ
とを指す。
必ずしも「正規軍対ゲリラ戦」とは限らない。たとえばイラン対米軍におけるペ
ルシャ湾での作戦行動、またはタリバン対多国籍連合軍(ISAF)など。特に
装備や戦力で大きな差がある場合に優勢な相手に対して弱点や予測不可能な戦術
等により対抗する場合に、このように呼ばれる。戦場での軍事行動に限らず、広
義には社会不安を引き起こすようなテロ攻撃等も含む。

[8] ミサイル発射装置(ミサイル・セル)
垂直ミサイル発射システムに使用される個別のミサイル発射装置を「ミサイル・
セル」という。ミサイルを甲板下に格納し発射する筒を指す。細胞を意味する「
セル」に由来。2発から数発を連続的に撃つことが可能。

[9]エアランド・バトル 空地戦闘
米軍が湾岸戦争で使用した戦術で、空と陸から戦力を投入して相手の最前線から
後方支援部隊や補給基地、司令部までを一気に制圧することを目指す。湾岸戦争
では実際に100時間で主要な戦闘を終わらせている。戦車部隊に対しては、ヘ
リや攻撃機による航空攻撃が有効とされてきたが、夜間や悪天候時には期待でき
ない。しかし地上戦闘部隊では相手の火力を圧倒できないなど双方の短所を補い
合い、戦場を面で制圧するために考案されたが、大規模な戦力を動員する必要が
あるため長い準備期間とコストが掛かる。もともとはイスラエル軍がアラブ連合
軍の優勢な機甲部隊に対抗するために考案し第四次中東戦争で使用した戦術を参
考にしている。

[10]  第一次湾岸戦争(1991年)
1990年8月2日にイラクがクウェートに侵攻した「湾岸危機」に対して国連
安保理が1991年1月15日までに撤退を要求したが従わなかったため、1月
17日から2月27日までの100日余にわたり行われた米国が主力の多国籍軍
による戦闘を指す。これに対しての「第二次湾岸戦争」は2003年に始まった
イラク・フセイン政権打倒を目指す米英国軍主導のイラク攻撃を指す。

[11] 「アイゼンハワー図書館でさらに詳しく話したい」
2010年5月8日、連合国の第二次世界大戦勝利の65周年にゲーツ長官がア
イゼンハワー図書館で演説を行った。

[12] 近年(10年ほど前)
(Potential Costs of Navy’s 2006 Shipbuilding Plan)
http://www.cbo.gov/ftpdocs/71xx/doc7105/03-30-Navy_ShipBuilding.pdf
(抜粋)
According to the Navy’s estimates, funding for new construction alone
would average $13.4 billion per year between 2007 and 2011, compared with
an annual average of $10.2 billion between 2000 and 2005.
抜粋の訳:海軍の見積もりによれば、(艦船の)新建造のみに必要な経費の年平
均は、2007年から2011年は134億ドル。それが2000年から200
5年では102億ドルであった。 


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配信担当 古藤加奈
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(TUP翻訳、岩波書店、2009年8月18日発売)
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904

投稿者: Kana Koto  <kanakoto1@h...>
Date: 2010年8月8日(日) 午後2時59分
タイトル: 速報857号の訂正のお知らせとお詫び

 
TUP速報の読者のみなさま、

速報857号 米国のゲーツ国防長官、防衛予算に関して発言
の訳注[10]に修正がございました。

誤)
[10]  第一次湾岸戦争(1991年)
1990年8月2日にイラクがクウェートに侵攻した「湾岸危機」に対して国連
安保理が1991年1月15日までに撤退を要求したが従わなかったため、1月
17日から2月27日までの100日余にわたり行われた米国が主力の多国籍軍
による戦闘を指す。これに対しての「第二次湾岸戦争」は2003年に始まった
イラク・フセイン政権打倒を目指す米英国軍主導のイラク攻撃を指す。

正)
[10]  第一次湾岸戦争(1991年)
1990年8月2日にイラクがクウェートに侵攻した「湾岸危機」に対して国連
安保理が1991年1月15日までに撤退を要求したが従わなかったため、
1月17日から2月27日までの間に行われた米国が主力の多国籍軍による戦
闘を指す。大半は航空攻撃により行われ、地上戦は100時間余で終了した。こ
れに対しての「第二次湾岸戦争」は2003年に始まったイラク・フセイン政権
打倒を目指す米英国軍主導のイラク攻撃を指す。

申し訳ございませんでした。
なお、速報(ウェブ)自体には8月5日に上記修正が加えられています。

速報857号訳者 樋口淳子
905

投稿者: Kana Koto  <kanakoto1@h...>
Date: 2010年8月16日(月) 午後3時10分
タイトル: 速報858号 ハワード・ジン:アフガニスタン戦争:正義の戦争ではない

 
◎爆撃の歴史は終わりのない残虐行為の歴史だ
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
アフガニスタン戦争で死者が出続けている。7月23日国際治安支援部隊の
ミサイルでアフガニスタンの民間人52人が死亡した。7月26日に暴露された
大量の漏洩文書に、今まで発表されていなかった民間人の被害の情報があり、
事態はわかっているより深刻なことが明らかになった。駐留米軍は7月に
これまでで最悪の死者を出した。今回の速報は、反戦の歴史家ハワード・ジンが
2001年12月に書き、今年1月ジンの急逝後にコモンドリームズウェブサイトが
再掲したものだ。アフガニスタン戦争開始後まもなく書かれたこの論考に、
「正義の戦争」を徹底的に解体する、普遍的で明確な反戦の論理がある。
                      (翻訳:荒井雅子/TUP)
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

正当な大義、だが正当な戦争ではない
ハワード・ジン
2010年1月28日(木)『プログレッシブ』誌

編集者注:以下の論考は、『プログレッシブ』誌2001年12月号に掲載され、
そのすぐ後にこの「コモンドリームズ」ウェブサイトにも投稿されたものである。
911事件からわずか3カ月後だった。ラドヤード・キプリングがかつていみじくも
指摘したように、危機のさなか、「周りがみな動転して訳がわからなくなっている
ときに落ち着いて物を考える人間」を探せば見識が見いだせる。ジンの業績は
ひと言で言うにはあまりに大きく計り知れないが、「Violence doesn’t work[暴力は
機能しない]」や「Changing Obama’s Mindset[オバマの考え方を変える]」を読めば、
その時々の狂騒より先を見すえていた人間の見識と高潔さがすぐわかる。ハワード・
ジンはダニエル・エルズバーグがいうように、「私の知った中で最高の人間、人が
何になれるか、人生を何に生かせるかを示す最良の例」だった。本当にその通りである。

正当な大義、だが正当な戦争ではない(2001年12月)

現在の「戦争」について二つの道義的判断ができると考えている。911攻撃は
人道に対する罪であり、正当化されえない。同時にアフガニスタン爆撃もまた、
正当化できない犯罪である。

ところが、多くの左派も含めて、どの政治的立場からも、これを「正義の戦争」
とする声が聞こえる。長年の平和提唱者リチャード・フォークは、『ネーション』
誌に、これは「第二次世界大戦以来初めての真に正当な戦争だ」と書いている。
もう一人の長年の社会正義の支持者ロバート・カットナーも『アメリカン・
プロスペクト』誌で、これが正義の戦争でないと考えるのは、極左の人間だけだ、
と言い切った。

私は理解に苦しんでいる。戦争が民間人を日々殺害し、何十万人もの男性女性、
子どもたちが爆弾から逃れるために家を離れざるをえず、一方で、911攻撃を計画
した人間たちは見つからない可能性があり、米国に対する怒りのあまり自分も
テロリストになる人間を増やすことになるというときに、どうしてそれが真に
正当な戦争でありうるだろう。

この戦争は甚だしい人権侵害であり、得ようとするのと正反対の結果を生むことに
なる。すなわちテロを終わらせるのではなく、増殖させる。

進歩派の戦争支持者は「正当な大義」と「正当な戦争」を混同していると私は思う。
大義は不当な場合がある。米国がベトナムに権力を確立しようとしたこと、パナマや
グレナダを支配しようとしたこと、ニカラグア政府を転覆しようとしたことなどだ。
正当な大義もありうる――北朝鮮を韓国から撤退させる、サダム・フセインを
クウェイトから撤退させる、テロを終わらせる――。だが、だからと言って、
その大義のために、無差別の暴力を避けられない戦争をするのが正当だという
ことにはならない。

米国による爆撃がもたらす影響についての情報が断片的に届き始めている。爆撃
開始からわずか18日でニューヨークタイムズ紙は、「米軍がカーブルの住宅地区を
誤爆した」と伝えた。米軍機は赤十字倉庫を2度爆撃し、赤十字の広報責任者は
「今、5万5000人に食糧も毛布もなく、まったく何もありません」と言う。

アフガニスタンのある小学校教師がパキスタン国境でワシントンポスト紙
記者に言った。「爆弾が自宅の近くに落ちて幼いわが子たちが泣き始め、
逃げるしかありませんでした」

ニューヨークタイムズ紙のある報道によれば「米国防総省は、政府筋によれば老人
センターとされる施設の近くに海軍のF/A-18機1機が日曜日に1000ポンド爆弾を
投下したことを認めた。…国連はその建物が軍病院だと言った。…数時間後、
海軍のF-14機1機がカーブル北西の住宅地区に500ポンド爆弾2発を投下した」。
ある国連職員はニューヨークタイムズ紙記者に対して、ヘラートの街に対する
米軍の空襲でクラスター爆弾が使用されていたと言った。クラスター爆弾は、
サッカーコート20面に相当する範囲に致死的な「子爆弾」をまき散らした。
ニューヨークタイムズ紙記者は「米国による爆撃が誤って民間人の犠牲を
引き起こしているという話は増えつつあり、これはその一番最近のものだ」と
書いている。

米軍の爆撃を受けた小さな山村カラムに派遣されたAP通信記者は、瓦礫と
化した家々を見た。「東に40キロ離れたジャラーラーバードの病院では、医師が
カラム爆撃の犠牲者という23人を治療した。1人は2カ月になるかならずの
赤ん坊で、血だらけの包帯に包まれていた」と言う。「もう一人の子は、近くに
住む人の話によれば、家族全員が空襲で殺されたために病院にいたという。
少なくとも18の新しい墓が村のあちこちにできていた」

カンダハールの街は17日連続で攻撃を受けてゴーストタウンと化し、50万人の
住民の半数以上が爆弾から逃れるために街を離れたと報じられた。街の送電網は
破壊されていた。電気ポンプが動かないため街の水道供給は断たれていた。
ある60歳の農民がAP通信記者に言った。「命が危ないから逃げたんだ。毎日毎晩、
飛行機の轟音がごうごう聞こえて、煙と火が見えて…。どっちもくたばるがいい
――タリバーンもアメリカも」

爆撃作戦開始から2週間後のパキスタンからのニューヨークタイムズ紙報道は、
民間人負傷者が国境を越えてきていると伝えた。「一日中、30分おきぐらいに
担架で運び込まれる人がいる。…ほとんどは爆撃の犠牲者で、手足をなくして
いるか爆弾の破片がささっている。…頭と片方の足を血だらけの包帯で包まれた
幼い男の子が、アフガニスタンへ重い足取りでもどっていく年老いた父親の
背中にしがみついていた」

爆撃開始後わずか数週間でこのようなことが起き、その結果すでに何十万人もの
アフガニスタン人が恐怖に陥って家を棄て、地雷のばらまかれた危険な道路へ
追い立てられている。「対テロ戦争」は、ニューヨークへのテロ攻撃にはまったく
何の責任もない無辜の人々、男性、女性、子どもたちに対する戦争になった。

ところが、これを「正当な戦争」だという人間たちがいる。

テロと戦争には共通したところがある。殺害する側が正しい目的だと信じる
ものを達成するために無辜の人々を殺すことだ。このように並べればすぐ反対
されるのはわかっている。彼ら(テロリスト)は意図的に無辜の人々を殺すが、
われわれ(戦争をする人間)は「軍事標的」を狙うのであって、民間人は
誤って殺される「付随的被害」だ、と。

民間人が私たちの爆撃で死ぬのは本当に誤爆なのだろうか。かりに意図している
ことが民間人の殺害ではないとしても、何度も繰り返し民間人が犠牲になり続ける
とすれば、それを誤爆と呼べるだろうか。爆撃で民間人の死が避けがたいとすれば、
意図的ではなくても、それは誤爆ではない。爆撃する側に罪がないとはみなされ
得ない。テロリストと同じように確実に殺人を犯しているのである。

このような場合に罪がないと主張することの愚かさは、「付随的被害」による
死者が、最も凶悪なテロ行為による死者をはるかに上回るとき、明らかになる。
湾岸戦争の「付随的被害」は、まさに意図的なテロ行為だった911攻撃よりも多く
――米国の制裁政策の犠牲者も含めれば数十万人――の死者を出した。パレスチナの
爆弾テロによるイスラエルの死者の総計は1000人弱だ。イスラエルによる1982年の
レバノン侵攻中、ベイルート爆撃の「付随的被害」の死者数は、約6000人だった。

だが死者リストの長さを比べたりすべきではない――忌まわしい行為だ――
あたかも残虐行為によって邪悪さに違いがあるかのようだ。無辜の人々の殺害は
いかなる場合も、意図的であれ「偶発的であれ」、正当化され得ない。
私が言いたいのは、子どもたちがテロリストの手にかかって命を落とすとき、
あるいは――意図的であろうがそうでなかろうが――戦闘機から投下された
爆弾で命を落とすとき、テロと戦争は等しく許されないということだ。

「軍事標的」について考えよう。この言葉はたいへんあいまいなので、
トルーマン大統領は広島の住民を核爆弾で跡形もなく消し去った後、こう言えた。
「世界は、最初の原子爆弾が軍事基地である広島に落とされたことを心に留める
だろう。なぜなら、われわれはこの最初の攻撃において、可能な限り民間人の
殺害を避けることを望んだからである」

私たちは今、自国の政治家からこう聞かされている。「われわれは軍事標的を
狙っている。民間人の殺害を避けようとしている。だが、それは起きることが
あり、遺憾に思う」。アメリカ人は、米国が「軍事標的」だけを爆撃していると
考えてやましさを感じなくなるのだろうか。

現実には、「軍事」という言葉は、民間人も含め全種類の標的を指す。イラク
戦争中のように、米軍の爆撃機が送電インフラを意図的に破壊して、浄水施設と
下水処理施設を稼働不能にし、その結果、水の媒介による病気が蔓延したとき、
子どもをはじめとする民間人の死は偶発的とはいえない。

湾岸戦争のさなか、米軍が防空壕を爆撃して、爆弾を逃れようと身を寄せ合って
いた400人から500人の男性女性、子どもを殺害したことを忘れてはならない。
そこは通信施設のおかれた軍事標的だったと主張されたが、直後に瓦礫の中を通った
記者たちは、そのようなことを示すものはまったくなかったと言った。

爆撃の歴史――そしてこの国は誰よりも多くの爆弾を落としてきた――は、
終わりのない残虐行為の歴史だと私は言いたい。残虐行為はすべて、「誤爆」
「軍事標的」「付随的被害」といった、死と欺瞞の言葉で平然と説明される。

実は、第二次大戦でもベトナムでも、歴史的記録を見れば、敵の士気を打ち砕く
ために民間人を標的にするという決定が意図的になされていたことがわかる――
ドレスデンやハンブルグや東京の爆撃、ハノイ上空のB-52、ベトナムの田舎の
平和な村々の上空に送られた爆撃機。われわれは「過度の武力行使」を行う
ことなく「限定的軍事行動」を遂行できるのだなどと論じる人間たちは、爆撃の
歴史を無視している。戦争の勢いは制限など蹴散らしてしまう。

アフガニスタンでの道義的方程式は明白である。民間人の犠牲が出るのは確実だ。
一方、成果は不確実だ。この爆撃が何を達成することになるのか、誰にも
わからない――オサマ・ビン=ラーディンをとらえることにつながるのか
(おそらく)、タリバーン支配の終わりか(可能性はある)、アフガニスタンの
民主化か(考えにくい)、またテロに終止符を打つことになるのか(そうならない
のはほぼ確実だ)。

その一方で、私たちは住民を恐怖に陥れている(テロリストを、ではない。
テロリストは簡単に恐怖に陥ったりしない)。何十万人もの人たちが荷物を
まとめ、子どもたちと一緒に車に乗せて家を離れ、少しは安全だろうと考える
場所を目指して危険な旅に出る。

「対テロ戦争」と呼ばれる、この歯止めのない暴力で、一人の人命も失われては
ならない。

今現在起きていることに照らして、平和主義という考え方を検討してみよう。
私は自分のことをさすのに「平和主義者」という言葉を使ったことは一度もない。
というのはこの言葉は何か絶対的なものを示唆しているからで、私は絶対的な
ものは疑ってかかっている。予想外の可能性の余地を残しておきたいと思う。
目の前にある、怪物のような悪に対する、焦点を絞った小規模な暴力が正当化
される状況がありうるかもしれない(ガンジーやキング牧師のような断固とした
平和主義者でさえそう考えていた)。

しかし戦争では、手段と目的がまったく不釣り合いだ。戦争は、本質的に、
焦点のない無差別なもので、特にテクノロジーがこれほど殺傷力をもった
私たちの時代には、多くの人の死と、さらに多くの人の苦しみをもたらす
ことは避けられない。「小規模戦争」(イランイラク戦争、ナイジェリア戦争、
アフガニスタン戦争)でさえ、百万人が死ぬ。米国がパナマで行ったような
「ごく小さな」戦争でさえ、千人あるいはそれ以上が死ぬ。

ナショナル・パブリック・ラジオ(NPR)[米国の公共ラジオ局]のスコット・
サイモンは10月11日ウォールストリート・ジャーナル紙に、「平和主義者も
この戦争を支持せよ」という題の論説を書いた。サイモンは、平和主義者が
自衛は認めていること、すなわちすぐにも攻撃してくる相手に対する焦点を
絞った抵抗を認めていることを援用して、自身が「自衛」と称するこの戦争を
正当化しようとした。だが「自衛」という言葉は、一つの国全体に爆弾を
落として、自分を攻撃してきた人間以外の多数の人々を殺すときには当て
はまらない。また、目指す目的に到達できる可能性がまったくないときにも
当てはまらない。

平和主義を私は戦争放棄と定義するが、それは一つの非常に強力な論理に
則っている。戦争では、手段――無差別殺戮――は確実で差し迫っている。
一方、目的は、どれほど望ましいものでも、遠く不確実である。

平和主義は「宥和」ということではない。「宥和」というのは、アフガニスタンで
現在行われている戦争を非難する人間に対してしばしば投げつけられる言葉で、
チャーチルやチェンバレン、ミュンヘンとの関連がついて回っている。戦争を
正当化する必要があるとき、その時の状況にはどれほど的外れであっても、
第二次世界大戦との類似が都合よく引き合いに出される。ベトナムからの撤退、
あるいは対イラク戦争回避という提案に反対して、「宥和」という言葉が使われた。
「正義の戦争」のオーラは、1945年以来米国が戦ってきたすべての不正な戦争の
本質を覆い隠すために、繰り返し使われてきた。

この類似について検討してみよう。飽くことを知らないヒトラーを「宥和」
するために、チェコスロバキアは彼の手に渡された。当時ドイツは勢力を
広げつつあった攻撃的国家で、その拡大に手を貸すのは賢明ではなかった。
だが今日私たちは、宥和が必要な拡大主義勢力と相対しているわけではない。
私たち自身が拡大主義勢力であり――サウジアラビアでの部隊駐留、イラク爆撃、
世界中にある軍事基地、全海域にいる戦艦――、そのことが、ヨルダン川西岸
地区とガザ地区へのイスラエルの勢力拡大とあいまって、怒りを呼び起こしている。

ヒトラーを宥和するためにチェコスロバキアを明け渡したのは誤りだった。
中東から米軍を撤退させることは誤りではなく、またイスラエルが、占領地から
撤退することも誤りではない。そこにいる権利はないからだ。これは宥和ではない。
正義である。

アフガニスタン爆撃に反対するのは、「テロに屈する」ことにも「宥和」にも
ならない。私たちが直面する問題に、戦争以外の解決手段を見つけることを求める
ものだ。キング牧師とガンジーはどちらも行動――非暴力の直接行動を信じていた。
それは戦争よりも強力で、間違いなく戦争より道義的に擁護できる。

戦争放棄は、平和主義が戯画化されてきたように「もう一方の頬を差し出す」
ことではない。この場合には、テロリストのまねをしない方法で行動すると
いうことだ。

米国は911事件を恐ろしい犯罪行為とみなし、可能な限りの情報、調査手段を
使って容疑者の逮捕を求めることができたはずだ。国連に訴えて、テロリストの
追跡と逮捕に他国の支援を取り付けることもできたはずだ。

交渉という道もあった。(「何だって? あんな怪物どもと交渉だと?」という
ような言いように耳を傾けるのはよそう。米国は世界でもっとも極悪非道な
政府と交渉――それどころか、そうした政府を政権につけ、それを維持――
してきた。)ブッシュが爆撃機に命令を出す前に、タリバーンはビン=ラーディンを
裁判にかけることを申し出た。これは無視された。空爆開始から10日後、
タリバーンが爆撃停止を求め、裁判のために第三国にビン=ラーディンを
引き渡すことについて交渉する用意があると言ったとき、翌日のニューヨーク
タイムズ紙の見出しはこうだった。「大統領、交渉を求めるタリバーンの申し出を
拒否」。そしてブッシュはこう言ったと伝えられた。「交渉はしないと言ったら、
しないんだ」

これは、なにがなんでも戦争しようと血眼になっている人間のすることだ。朝鮮戦争、
ベトナム戦争、湾岸戦争、そしてユーゴスラビア爆撃の開始時にも、似たような交渉
可能性拒否があった。その結果、膨大な人命が失われ、人々は計り知れないほど
苦しんだ。

国際警察業務と交渉は、かつてもそして今でも、戦争に代わる選択肢だ。
でも自分を欺くのはやめよう。私たちがビン=ラーディンの逮捕や、あまり
可能性はないがアル=カーイダの全ネットワークの破壊に成功していたとしても、
それでテロの脅威が終わるわけではない。テロにはアル=カーイダをはるかに
超える集兵力がある。

テロの根本に迫るのは簡単ではない。爆弾を落とすのは簡単だ。爆撃は、誰の
目から見てもきわめて新しい状況に対する、古臭い対応である。口にするのも
忌まわしい、正当化できないテロ行為の核にあるのは、自らテロに走ることは
ないが同胞からテロリストが生まれてくる何百万人もの人々がもつ、正当な
不満である。

不満には二つのことがある。西側社会、とりわけ米国の富と贅沢と対照的に、
世界各地に深い悲惨――飢餓、病気――が存在していること。そして世界中に
米軍が駐留して、米国の覇権を維持するために抑圧的政権を支え、繰り返し
武力介入していること。

それゆえ、テロという長期的な問題に対処するというだけでなく、それ自体
公正な行動が求められる。

一日2機の飛行機でアフガニスタンに食糧を投下し、100機で爆弾を落とす
(それで国際機関のトラックの食糧配達が難しくなっている)のではなく、
102機の飛行機を、食糧を届けるのに使う。

私たちの巨大な戦争マシーンに充てられる資金を、世界中の飢餓と病気と
闘うために使う。私たちの軍事予算の3分の1で、きれいな水も下水処理施設も
もたない世界の10億の人々に、毎年、水と施設を供給できる。

サウジアラビアから部隊を撤退させる。聖地であるメッカとメディナの近くに
部隊が駐留していることは、ビン=ラーディンだけでなく(彼を怒らせるか
どうか気にする必要はない)、テロリストではない多くのアラブ人の怒りを
巻き起こしている。

イラクに対する過酷な制裁をやめる。制裁は毎週千人以上の子どもを殺して
いるが、フセインの暴力的なイラク支配を弱体化させるのには何の役にも立って
いない。

イスラエルの占領地からの撤退を強く求める。これは多くのイスラエル人も
正しいと考えていることであり、イスラエルを今より安全にすることになる。

要するに、軍事超大国であることをやめ、人道大国になろうではないか。

もっと謙虚な国になろう。そうすれば私たちは一層安全になる。世界の謙虚な
国々はテロの脅威に直面していない。

こうした根本的な外交政策の変化は到底期待できない。あまりに多くの利益を
脅かすことになるのだ。政治家の権力、軍の野望、国の膨大な軍事事業から
利益を得ている企業。

変化が起こるのは、私たちの歴史の他の時代のように、ただアメリカ市民が
――もっと情報を得て、公式政策を最初に直感的に支持した後で考え直して
――変化を求めるときだけだ。市民の意見のこうした変化は、特に政府が暴力は
機能しないと実際的決断を出すのと同時に起きれば、軍事的解決からの
引き上げにつながりうる。

それはまた、世界の中での私たちの国の役割を考え直す第一歩でもある。
そのような見直しは、アメリカ人にとっては真の安全を約束するもの、
そして他の人たちにとっては希望の始まりとなる。

ハワード・ジン(1922-2010)の著作には『民衆のアメリカ史』、『Voices
of a People’s History[民衆のアメリカ史の声]』(アンソニー・アーノブと共著)、
『A Power Governments Cannot Suppress[政府が抑圧できない一つの力]』がある。

原文
A Just Cause, Not a Just War
by Howard Zinn
Published on Thursday, January 28, 2010 by The Progressive
http://www.progressive.org/0901/zinn1101.html
http://www.commondreams.org/view/2010/01/28-7 (編集者注つき再掲)

■ハワード・ジン『爆撃』が2010年8月3日刊行されました。
(岸本和世・荒井雅子訳、TUP協力、岩波ブックレット)
http://www.tup-bulletin.org/


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TUP速報
配信担当 古藤加奈
電子メール: TUP-Bulletin-owner@y... 

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■『冬の兵士──イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』
(TUP翻訳、岩波書店、2009年8月18日発売)
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■TUPアンソロジー『世界は変えられる』(七つ森書館)
JCJ市民メディア賞受賞!!
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過去のTUP速報を読む:
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906

投稿者: Kana Koto  <kanakoto1@h...>
Date: 2010年8月19日(木) 午後2時24分
タイトル: 速報859号 グーグルは何をめざすのか

 
◎クラウド・コンピューターと諜報・産業複合体
───────────────────────
『1984』というジョージ・オーウェル著の名作小説があります。
第二次世界大戦後まもない 1949年に出版された本で、全体主義が
極端に進んだ 1984年の仮想世界が小説の舞台です。そこでは、
国家によって情報は徹底的に統制され、国民一人一人の生活の
隅々まで 24時間監視された日常が描写されています。

『1984』が書かれた当時は、言うまでもなく国民全員を24時間監視
するのは単純に技術的に想像をはるかに超えた状況でした。だから、
『1984』は架空の世界を扱った、という大前提が成り立って、
興味深く面白い風刺「小説」たり得たと想像します。

さて、60年後の今、技術革新ははるかに進みました。実はそのため、
ある意味で恐るべきことに、『1984』の世界は少なくとも技術的に
は現実味を帯びていると言えそうです。自由民権、平等といった
概念が 60年前よりずっと世界に広がっている現在、これは皮肉な
状況と言えるかも知れません。現在のところ、少なくとも公に
認められた形では、『1984』に描写された全体主義の恐怖社会は
実現してはいません。ただし、技術的には可能になりつつあると
いう現実には大いに注意を払っておくべきでありましょう。

以下、クリストファー・ケッチャム、トラヴィス・ケリー共著の
諜報・産業複合体を論じた記事を邦訳しました。
月刊『世界』(岩波書店) 8月号に掲載されたものです。

この記事では、インターネット界の巨大企業として今や知らぬもの
のないグーグル社が、技術的に何が可能で、実際に何をしてきたか
(たとえば諜報・軍事企業との協力関係)、そしてそれが個人や社会
に与える影響について、豊富な実例や証拠とともに解説、議論され
ています。ここで槍玉にあげられているのはグーグル社とはいえ、
これは原理的に同社一社だけに根ざすような単純な問題ではない、
つまり、グーグルを使わなければいい、という問題ではないと確信
します。この 7月末に「Yahoo! JAPAN の検索サービスにおける
グーグルの検索エンジンと検索連動型広告配信システムの採用、
ならびに Yahoo! JAPAN からグーグルへのデータ提供」の提携が
結ばれたことが発表された[*]のは、その端的な例でありましょう。
[*] http://i.yimg.jp/images/docs/ir/release/2010/jp20100727.pdf

結局、究極的には、この高度に技術が発展した、そしてさらに発展
しつつある現代社会においては、それら技術とどう向き合い、
何を利用し、その代償として何をどこまで切り捨てたり犠牲にする
ことを許容できるか、という課題が、私たち市民ひとりひとりに
否応なく突きつけられている、と言えそうです。気がついたら
『1984』の世界になっていた、ということのないように。

〔翻訳: 坂野正明(前書とも)/TUP〕
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
※凡例: (原注) [訳注]
※注1: 以下、1米ドル=87円として換算しています。
※注2: 『世界』にて「ステファン・アーノルド」と表記した人名
 は、米国在住の人であることから、おそらく「スティーヴン・
 アーノルド」の方がよりもっともらしいと考えられます。
 以下ではそう表記してあります。
────────────────────────

グーグルは何をめざすのか
 ―― クラウド・コンピューターと諜報・産業複合体

クリストファー・ケッチャム、トラヴィス・ケリー

2007年6月、イギリスに本拠を置くプライバシーの権利を監視する
団体プライバシー・インターナショナルは、インターネット関連の
23の企業の中でプライバシー侵害が最悪なのはグーグルだと発表
した。「悪をなさず[*1]」という人々を、マイクロソフト、アッ
プル、アマゾン、イーベイ[*2]、リンクトイン[*3]、フェイス
ブック[*3]、AOL[*4]よりも性質が悪いと結論づけたものだ。
同報告書では、他のどの会社も「プライバシー侵害への特有の脅威
という点で(グーグルの)水準に遠く及ばない」としている。報告書
でもっとも懸念されているのは、グーグルが「各利用者の生活の
詳細および日常生活における細かい選択について深く入り込む能力
を高めている」ことである。その結果は「インターネット上でのもっ
とも厄介なプライバシー環境」。事実、グーグルは現在、ネット上
の検索市場で 70パーセントのシェアを占めていると推定されて
いる。利用者の情報、たとえばどのサイトを見ているか、誰に
メールするか、ブログに何を投稿するか、どんな写真を公開するか、
どこの地図を見るか、どんなニュースを読むか、といったことに
グーグルが積極的になっている中、それはもはや単なる検索事業を
超えて、一種の「総合的情報認識[操作]」を含むものになっている。
そしてそれこそ、前ブッシュ政権で画策された悪名高い総合的情報
認識計画そのもので、プライバシー侵害に反対する活動家がまさに
恐れていたことである。

[訳注:
[*1]「悪をなさず("Don't be evil")」は、グーグル社のモットー。
[*2]イーベイはネット上で世界最大のオークション・サイト。
[*3]リンクトイン、フェイスブックとも、世界最大級のソーシャル・
 ネットワーキング・サービス(SNS)。同種のサービスとして日本で
 はたとえば mixiが有名。
[*4]AOLは米国の大手インターネットサービス会社。
]

プライバシー関連の専門家であり、またプライバシー、言論の自由、
今日のデジタル社会における知的財産に関する問題について唱道す
る NPO 電子フロンティア財団[EFF: Electronic Frontier
Foundation]の顧問弁護士でもあるケビン・バンクストンは、考え
られる可能性について警告している。「人類の歴史を通じて、
米国国家安全保障局[NSA]を除いて、単一の機関がこれほど多くの
人々のこれほど多くの機密情報を保持している例はないか、あって
もごくごく限られています」。これは、諜報機関にとって「期待で
よだれが止まらない」ような話だ、とバンクストンは言う。そして
実際そうなのだ。情報技術の専門家であり、軍事および諜報を請負
うブーズ・アレン・ハミルトン株式会社に勤務したこともあり、
またグーグルの相談役もひとたび務めたことのあるスティーヴン・
アーノルドは、2006年 1月にワシントンで開かれた諜報関係の現任
および前任の高官たちの会議での演説で、この点に触れた。筆者が
入手したこの会議の音声記録テープには、アーノルドが席上、クリッ
ク関連情報、そしてグーグルが保管する他の全ての情報が「諜報組
織にとってすばらしい機会になる」ため、米国諜報機関はグーグル
にどんどん強く秋波を送っている、と報告しているのが記録されて
いる。グーグルは「データ集積について理解することが全てだ、と
見極めた」とアーノルドは発言した。政府との関係が十分に密に
なったため、「どこの諜報機関所属の人かは言えないが」少なくと
も 3人の政府高官が、カリフォルニア州マウンテン・ビューのグー
グル本社に配属された、ともアーノルドは同席上で述べている。そ
れら配属された政府高官がそこで何をしているのかは、アーノルド
は明らかにしなかった。

グーグル社広報担当のクリスティーヌ・チェンは、
「弊社は噂や憶測に関して回答いたしません」と言う。
何人の元諜報機関役人がグーグルで勤務しているのかと別の機会に
尋ねられた時、チェンは「弊社は人事情報は公開しません」
と答えている。

この会議は、オープン・ソース・ソルーションズ・ネットワーク後
援で、ロバート・デイヴィッド・スティールが計画、開催したもの
だ。スティールは、20年前に退官するまで米国中央情報局[CIA]の
高官で、また、オープン・ソース・ソルーションズ・ネットワーク
株式会社、別名 OSS.Net の創業者で、現在も経営最高責任者であ
る。同社は教育訓練サービスを提供する株式会社で、「オープン
ソース情報の使用を促進する」ことを旗頭に、今までに 50カ国
以上の政府から仕事を請け負っている。スティールは、アーノルド
の話は爆弾発言だと受取った。米国諜報部は、今や「グーグル複合
体」の心臓部に入り込み、この民間部門の巨頭から学べることはす
べて学びつつある。CIAを辞して以来 20年間にわたりデジタル・コ
モンズ[*5]を推奨してきたスティールは、数あるグーグル批判勢力
の中でも急先鋒だ。「グーグルは人類へのまたとない貴重な福音で
もあり得ました。しかしグーグルは、デジタル・コモンズを乗っ
取りにかかっています。私個人としては、グーグルが公共に対して
潔白であることを示さない限り、同社は今や悪をなしている見なし
てゆるぎません」とスティールは言う。現在の問いは、グーグルが
実はその方針の変更を余儀なくされることがあるかどうかだ。
そして議会と諜報機関がそうなることを望むか、ということも。

[訳注:
[*5] デジタル・コモンズ: 主に学術関係の文書や記録を統一的な
 様式で一括管理する枠組で、2002年に開始された。歴史的に変遷
 はあるものの、2010年現在はバークレイ電子出版社(別名ビープレ
 ス社)が主導している。
]

グーグルのデータ収集能力は、消費者の選択にかかっている。
あなたがコンピューターを使うなかでどれほどをグーグルの手に
委ねるか、ということだ。グーグルのアプリケーションを使えば
使うほど、グーグルはあなたについていっそう深く知ることができ
る。極論すれば、グーグルの機能により、あなたの一挙手一投足が
グーグルに追跡され得る。あなたがグーグルの検索窓を使う時を
考えてみよう。何千万[*6]もの人が毎日のようにしていることだ
(グーグルは毎秒約 11000件の検索を処理している)。その時、同社
はあなたの入力したすべての検索文字列も検索の結果としてあなた
が訪問したウェブサイトも追跡できる[*7]。もしあなたがグーグル・
ツールバーを使用すれば、同社はあなたがネットサーフィンする
時間を監視できる。あるウェブサイトの各ページに 3分かけている
か 3時間かけているか、という話だ。グーグルが 2006年にユーチュー
ブを買収して以来、閲覧の趣味についても追跡可能だ。グーグルの
フレンドコネクト(FriendConnect)とオーカット(Orkut)とは、社交
関係情報を収集記録する。グーグルのニュース、ブックス、フィー
ドバナー(Feedburner)、ブロガーは、どんな文書を読むかという
習慣の記録を残す。あなたが書いた文書はグーグル・ドックス[ド
キュメント]に保存され、購買傾向とクレジットカード番号はグー
グル・チェックアウトより捕捉される。声紋や電話の傾向もまた、
グーグル・ボイスで収集される。旅行の興味や傾向やゆかりある土
地はグーグル・マップ、グーグル・アース、グーグル・ストリート
ビューで、健康状態や医療履歴、処方薬の使用はグーグル・ヘルス
で、友人や家族の写真はグーグルのピカサ上のアルバムで、そして
日々の行動はグーグル・カレンダーで、といった具合だ。そして、
グーグル・デスクトップというものもある。これはかつて、「パソ
コン内の検索」と称される一見とくに害のない機能を提供していた。
この機能は、グーグルがあなたのパソコンを走査して見つかった
テキスト文書の複製を保管することを許すものだった。言葉を替え
れば、あなたのパソコン内にあるおよそすべてのもの、ラブレター、
納税申告書、業務記録からお粗末な詩文まですべてが複製され、
彼方にあるグーグルのサーバーに保管されるものだった(この機能
は、本年[2010年] 1月より全てのコンピューター環境で停止された)。

[訳注:
[*6] 原文ママ。原文中で引用された毎秒約 11000件という数字
 から単純計算すれば、1日にグーグル検索を使用するのべ人数は
 約 10億人になる。ただし現実には一人で複数回検索をかける人が
 多いと思えば、実際の検索使用者の数は 10億人よりずっと小さく
 なると自然に予想できる。
[*7] 原文ママ。正確には、利用者が検索結果をどう使用するか
 による。すなわち、グーグル(などの検索エンジン会社)が「あな
 たが訪問したウェブサイト」を知ることができる場合も確かにあ
 る一方、それが技術的に不可能か極めて困難な場合も少なくない。
]

グーグルの検索窓ひとつを取ってみても、利用者のこのうえなく
個人的な情報の貯蔵庫である。「人々は、検索窓を最高に信頼でき
る助言者のように扱っています。グーグルの検索窓に、母親にも
伴侶にも精神科医にも司祭にも言わないようなことを書込んだり
するのです」と電子フロンティア財団(EEF)の顧問弁護士ケビン・
バンクストンは語る。あなたがごく最近入力した検索語句を思い浮
かべてみるとよい。自分の「肛門のいぼ」とか、「結婚したのに愛
せない」「自己嫌悪」、あるいはあなたが興味を持つ「鉄パイプ爆
弾製作」工程などだったりしないか。検索窓は、グーグル複合体が
どのように利用者にラベル付けしているかを理解するのに最高の場
のひとつだ。あなたが検索をかけた時、あなたのパソコンに設定さ
れた「クッキー」がパソコンのIPアドレス(あなたのパソコンを同
定するために使われ得る数字列)を記録するため、グーグルは多く
の場合において、利用者を特定できる。そしてグーグルは、グーグ
ルのどのアプリケーションにおいても利用者を特定できるのである。

これらすべて、パソコンをシャットダウンして外出すればそれまで
だと思うかも知れない。しかし、グーグルは 2008年に「位置情報」
アプリケーションとして、ギア位置情報API[*8]を公開した。ギア
を用いることで、「利用者の現在位置を取得」でき、「利用者の
位置が時間とともに移動するのを監視」でき、「利用者の最後に
確認された位置を迅速かつ安価に取得」できるというものだ。グー
グルの技術ブログは、ギアを使うことで「携帯電話ならば最寄りの
携帯電話中継塔または GPS[*9]を用い、あるいはノートパソコンな
らばコンピューターのIPアドレスを用いることで、あなたの位置を
特定できます」と説明する。2006年に『テクノロジー・レビュー』
誌[*10]に掲載されたある記事では、グーグルの研究部門取締役の
ピーター・ノーヴィグが、パソコンがある部屋のテレビでかかって
いる番組を割出し、ついてはそれに関連する広告をパソコン上に
表示するために、パソコンに備え付けのマイクを用いることまで
提案した、と報告されている。そのようなデータは音声指紋として
処理され、利用者の位置情報特定やプロファイリング[人物像作成]
の助けとなる可能性もあると思われる。(グーグル社広報担当のク
リスティーヌ・チェンは、「グーグルはそんな開発計画を立てたこ
とは過去も現在もありません」と電子メールにて回答した。)

[訳注:
[*8] API: ある機能を使うための入口となるもの。
 (アプリケーションの)機能を使うためのインターフェース。
[*9] GPS: 全地球測位システム。
[*10] マサチューセッツ工科大学(MIT)発行の技術革新に関する
 隔月刊誌。1899年創刊。
  http://www.technologyreview.com/
]

グーグルがデータベースを精査しようとする意欲はとどまるところ
を知らず、私たちの物理的そして精神的存在の核心にまで迫ろうと
している。『ザ・エコノミスト』誌によれば、グーグルの共同創業
者のセルゲイ・ブリンと彼の妻で生物工学の専門家であるアンヌ・
ヴイチツキーとは、人類遺伝子の高名な研究者少なくとも一人とと
もに「ブレーンストーミング」を行ない、遺伝学を「データベース
および計算上の問題」として取組んだという。これは、グーグル・
ヘルスとうまく関連づけられそうだ。グーグル・ヘルスは、健康状
態をオンライン上で記録保管する傾向が高まっていることを受けて、
多岐にわたる健康管理サービス業者とのやりとりを容易にするため
に、2008年に開始された枠組である。グーグルはアンヌ・ヴイチツ
キーの生物工学会社「23andMe」社[*11]に今までに 390万ドル
[約3億4000万円]を投資している。この 23andMe社は、「世界的に
信頼される個人遺伝情報の典拠となることを使命とし」、顧客の家
系、病気になる危険度、薬にたいする反応を探り出すための遺伝子
試験キットを提供する事業を展開している。グーグルの 2008年
「時代思潮」会議の席上において、ブリンは自身がパーキンソン病
の遺伝因子を保有していることを告白し、つづけて健康管理と医学
研究とを促進するために個々人の遺伝コードを記録することが大切
だと説いた。この論理的帰結としては、あなたの人体遺伝情報がそ
のうち出てくるであろう「グーグル・ゲノム」に登録され、その際
におそらくは 23andMe社に集積されたデータベースの力を借りる
ことになる、という成行きが予想される。またグーグルは、精神の
領域にさらに深く切り込むため、広告代理店業界の巨人、WPPと
協同して460万ドル[約4億円]をオンライン広告の研究に出資して
おり、その中には新興分野である「神経販売促進活動[ニューロマー
ケティング]」への奨励金も含まれる。これは、人が広告に接する
という外的刺激を受けた時に、オンライン上でどのような行動を
取るかということに始まり、はては脈拍、眼球の動き、脳波活動と
いった生体的反応の韻律学まですべてを追跡するものだ。グーグル
社のチェンは、これら研究の成果は産業界全体に供され、「グーグ
ルはこれら奨励金の援助を受けた研究成果について、そのいずれに
もなんらの特別な権利を持ちませんし、また成果を使用する予定も
ありません」と述べている。

[訳注[*11]: https://www.23andme.com/ ]

グーグルの立場としては、広告がグーグルの 230億ドルの年間総収
益の大半を占める以上、マーケティング(監視とは呼ばない)は情報
という収穫を得る目的そのものである。同社は、行動ターゲティン
グ広告の革新を推し進めている。すなわち消費者についての個人
情報を集めれば集めるほど、より有効に的を絞った広告を打ち出す
ことができ、広告の価値が上がり、収入が増えることになる(Gmail
の利用者ならば、最近送信したメールや検索に直接関連した広告が
ブラウザ上に現れることに気付くことがしばしばあろう)。そんな
行動ターゲティング広告手法の分派として政治広告があるのは驚く
に当たらず、実際、ワシントンにあるグーグルの選挙および課題宣
伝チームが新市場として開拓している。ネット上のキャンペーンは、
今や被選挙候補者や政治団体にとってテレビ放映やラジオ放送で
圧倒することと同じくらいの重みを持つようになってきていて、そ
れには人々の政治的行動を今まで以上に広範に調べることが要求
される。ちなみにこれは諜報組織の興味とも大いに重なりを持つ
ものだ。

電子フロンティア財団の顧問弁護士バンクストンは、2007年にグー
グル社と個人的な諍いを経験した。氏の個人事務所の外のサンフラ
ンシスコ 19番通りを歩いていた時、世界中の実質上すべての道の
写真をひそかに集めて回っているグーグルのストリートビュー撮影
班の一隊が、氏が喫煙しているのを捉えた。『ワイアード(Wired)』
誌編集者のケビン・ポウルセンは、シリコンアレー[*12]で開かれ
たあるパーティーでバンクストンを捕まえ、持参のノートパソコン
を取り出して言った「これを見て御覧なさい」。それを見てバンク
ストンは気分を害したという。「当時、私は、家族や周りの人々に、
喫煙量を減らし禁煙さえしている、と言っていました」とバンクス
トンは語る。バンクストンがグーグルに対して彼の顔にモザイクを
かけるよう電子メールで要求したところ、同社法律部の渉外担当者
は、運転免許証と本人であることの誓書とをファックスで送って
もらう必要がある、と答えた。「私は、自分のプライバシーを守る
ために、プライベート情報を引渡さなくてはならなかったのです」
とバンクストンは言う。1週間にわたって催促し、並行して『ワイ
アード』誌に二部構成の記事が載った後、グーグルはようやくバン
クストンが 19番通りで煙草をふかしている姿が写った画像を削除
した。そして[その 1年後の]2008年夏、グーグルはストリートビュー
に写る全ての顔にモザイクをかけた。

[訳注:
[*12] ニューヨーク市マンハッタンにあるインターネット関連の
 企業が集中している地域の愛称。サンフランシスコ郊外のハイテ
 ク企業が集まる地域シリコンバレーにかけた名前。
]

プライバシー関係専門の弁護士としてバンクストンがもっとも憂慮
するのは、グーグルに対して彼にはなんら明確な法的保護がなかっ
たことだ。バンクストンは言う。「法的な意味では、グーグルは
無法地帯にいます。法整備は未だ追いついていません」。この
法整備の遅れは、グーグルによる情報蓄積の方法が革命的である
ことによる。

グーグルは、ソフト会社としてマイクロソフトに比肩するほど成長
してきたが、両社には大きな違いがひとつある。すなわち、ほとん
どすべてのグーグルのソフトは、あなたのパソコン上ではなく、
グーグルの巨大コンピューター銀行に鎮座するサーバー上で稼働
することだ。これは、記録内容を所有するのはあなたではなくグー
グルであることを意味する。これが、「クラウド・コンピューター」
という発想の転換であり、クラウド[雲]という命名は的を射ている。
情報はあなたのノートパソコンやデスクトップから蒸散、「クラウ
ド[雲]」の中へ凝結し、利用者がそれら情報が雨として降り注ぐ
よういつなりと、あるいはどこからなりと望む時に備えて、そこに
保持される。顧客としては、デスクトップ上で実作業を行なうのに
比べて、その利点には魅力がある。顧客はほとんどのソフトを無料
か比較的安価に入手できる。バージョン更新は自動的になされる、
データは冗長性の確保された遠隔サーバーにバックアップされる
ため(言うまでもなくグーグルが潰れない限りにおいて)壊れる心配
がない。コンピューターやワイアレス機器を選ばず、どこからでも
アクセスできる。そして遠隔地にあるプロセッサーやデータストレー
ジ機器がほとんどの処理をこなすため、手元のデスクトップやノー
トパソコンへの負荷が少ない。最近登場した安価なハードウェア
(なかでも小型ネットブックはクラウドと連動して使うことを特に
念頭において開発されたものだ)がパソコン市場で成長著しく、
市場を席捲しつつあることも、クラウドへの移行をスムーズに行な
う助けとなっている。そのほとんどはウィンドウズ上で動くものだ。
しかし、グーグルは、独自のクローム(Chrome)・ブラウザを使った
時により効率的に動くことを目指して、クローム・ブラウザ共々
ネット接続して使う用途に最適化されている独自OS、クロームの
開発を宣言した。これは、マイクロソフト社への挑戦状となるもの
だ。

しかし、クラウドの大きな問題点であり危険性の一つは、合州国
憲法修正第四条で保障された捜索および押収に対する保護が適用
されないことにある。新しいアプリケーションをインストールする
際、関連する但書きは条項の奥深くに埋込まれていて、利用者は
たいてい読むこともなく「受入れる」をクリックする。しかしバン
クストンによれば、その結果は重大であり、「私的データがグーグ
ルのような第三者によって保持されている場合、最高裁は過去、
その人はデータが開示される『危険性を受入れている』と見なして
います」と説明する。電子メールを[グーグルの]Gmail、あるいは
ヤフーやホットメールなどの類似のクラウドに保存している時点で
「あなたは憲法に保障されている保護の権利をただちに失います」。
個人のデスクトップに保管されている情報を捜索し押収する際、
その法令の実行には、あるいは諜報機関は、判事または執政官に
正当な理由があることを示した上で、令状または大陪審による文書
提出命令を取得する必要がある。あるいは、(外国諜報監視法
[FISA: Foreign Intelligence Surveillance Act]に定められた
手続きによって)外国諜報監視裁判所(Foreign Intelligence
Surveillance Court)が発行する命令、あるいは連邦警察(FBI)また
は国防総省または CIAが発行する国家保安公文書(National
Security Letter)を取得する必要がある。しかし、グーグルのサー
バーに保存された同じ情報を得るのには近道がある。グーグルは、
他のプロバイダと同じく、政府が同情報が「緊急」に必要とされる
ものの一部だと主張できる限り、それら情報を自主的に提出する
かも知れないのだ。

「あなたのデータは、クラウドでは、他の場合に比べて法的な保護
に劣ります。これは、クラウドへデータをどんどん注ごうと推奨し
ているグーグルのような会社が存在する現状では、大きな問題です」
とバンクストンは言う。たとえば、グーグル・ヘルスに保存されて
いるデータを見てみよう。健康サービス業者や健康保険会社が保管
している医療記録のプライバシーは、「医療保険の相互運用性と
説明責任に関する法律」によって保護されている。しかし、同法は
第三者によって保管されているデータのプライバシーについては
当てはまらない。あるいは、バンクストンの喫煙の話を見てみると
よい。バンクストンは写真公開されたことに対して何らの賠償請求
権を有しない。グーグルは、声が大きくメディア上で強い抗議を
したプライバシー活動家の機嫌を取るために件の写真を削除したに
過ぎない。

検索入力語句については、法律がどう適用されるか全く不明だ。
おそらく 1986年に制定された「電子通信プライバシー法」が関わ
ることになるだろう。同法では、第三者によって保管されている
情報のプライバシーについて、その情報がどれくらい新しいかによっ
て異なる標準を要求している。「しかし、この項は法廷で議論され
たことは一度もありません。議会が、 23年前に制定されたこの
法律を修正して同法がどのように適用されるかを明確にすることは、
極めて重要だと私は思います。法が曖昧であればあるほど、利する
のは政府です」とバンクストンは言う。

政府にはグーグルのデータを入手するいくつもの方法があることは
確かだ。しかし、それらもまた未知のベールに覆われている。
たとえば、国家保安公文書を発行する過程は完全に機密扱いであり、
関係者すべてに箝口令が敷かれている。言葉を替えれば、あなたの
プライバシーがどう扱われるかはグーグルと政府とが非公開で決め
ている。「政府がグーグルの持つ情報を必要以上に入手していると
いう恐れは現実のものです」とバンクストンは言う。同社のプライ
バシーに関する方針は「場合によっては、弊社は、提携広告会社な
どの第三者のため、その指示に従って、個人情報を処理する可能性
がある(中略)。弊社は、弊社提供サービスを遂行または発展または
改善するために 個人情報を必要とするグーグルの従業員、契約会
社と代理人以外の者には同情報を提供しない」と記されていて、
安心できるものとは言えない。

グーグルと諜報機関とのつながりは、2004年にまで遡るかもしれな
い。1999年、CIAは特に諜報収集に的を絞ったコンピューター新技
術の研究と投資のためにインクテル(In-Q-Tel)と呼ばれるベンチャー
企業を設立した。インクテルが出資したキーホール株式会社は人工
衛星による地図作成技術を開発し、それは後の 2004年にグーグル・
アースに使われることとなった。インクテルの技術評価部門元取締
役のロブ・ペインターは、グーグル連邦の上級部長としてグーグル
に加わった。ペインターの主眼は、「諜報および国防関係団体の
多数の利用者に、グーグル社の手法の優秀性を説き、提供すること」
にあった。

今度は、グーグルの方が、その技術のいくつも、特にグーグル・アー
スを、数多くの米国機関に売った。買い手には、米国沿岸警備隊、
米国海洋大気庁、米国運輸省道路交通安全局、アラバマ州、ワシン
トン・コロンビア特別区が含まれる。グーグルは CIAに対しては、
諜報情報を内部で共有するために、ウィキペディアに似たイントラ
ネット・システムであるインテリペディアの支援運用サーバーを
提供した。『サンフランシスコ・クロニクル』紙が情報公開法を使っ
て 2008年に実施した調査によれば、グーグルは米国国家安全保障
局[NSA]に対して、四つの「検索機能設備」を提供し、その保守
契約を結んだ(グーグルのクリスティーヌ・チェンは、グーグルは
米国国家安全保障局あるいは他の諜報機関に対して他の製品やサー
ビス業務を提供したかという質問に対して、電子メールで「弊社が
いずれかの国家諜報機関と何らかの会話を交わしたかどうか、ある
いは仮にそういう事実があったとしてその会話について、弊社は
コメントを差し控えます」と回答した)。

CNet[*13] の元ブロガーで、インディアナ大学にてプライバシーと
コンピューターについて専攻し、グーグルについて研究してきた
博士課程学生のクリストファー・ソゴイアンは、諜報組織はグーグ
ルの監視用「バックドア[*14]」プログラムにとりわけ興味津々だ
ろうという。ソゴイアンは、グーグルのアプリケーションは、
ネット接続が維持されている限り(ワイアレスのブロードバンドが
至るところで利用できることを思えば、これは簡単な話である)、
遠隔サーバーにて処理とデータ保存とを行なっているが、起動され
た時にそれをユーザーに明示しない、と指摘する。グーグルのギア
などのソフトは、インターネット接続がなされていない場合であっ
てさえ、アプリケーションを走らせ、データをパソコンに保存し
(これまたただであり、簡単な話)、ネットに再接続された段階で
それら更新されたデータをグーグルにアップロードする、という
手段で、クラウドへの「オフライン」のアクセスを可能にする。
したがって、詳しくないユーザーは、情報を知らないうちに第三者
に転送することになる。非公然諜報活動の定義そのものに近い
やり口だ。

[訳注:
[*13] CNet: コンピューター関係の記事に特化したメディアの
 一つ。コンピューター関連業界のメディアとしては大手。
 2008年5月に CBS系列に買収された。
  http://www.cnet.com/
[*14] バックドア: コンピューターに密かに仕掛けられた裏口の
 ことで、それを設置した者が同コンピューターに(不法)アクセス
 するのを容易にするもの。
]

グーグルは政府系機関から情報を要求する文書提出命令と令状とを
おそらく毎年何千件も受取っている(AOL[*4]は民事および刑事事件
に関連する要求を月に約一千件受取っている)、とソゴイアンは
指摘する。そしてグーグルは、複数の法務省元高官および元米国
諜報員を、その処理にあたるための法人団体における法律監査役と
して雇っている。「政府としては、諜報あるいは法執行に関係する
団体出身で、政府がどのように働くかを知っていて、かつひょっと
すると政府の方針に同情的かも知れない人々を、政府要請を受取る
側に確保していることになります。グーグルは、アメリカ自由人権
協会(ACLU)[*15]の元弁護士を監査部門に雇ってはいません」と
ソゴイアンは言う。グーグルのチェンによれば、そのような人数は
非公開とされている。「当然、他の会社と同様、弊社も法に従いま
す。文書提出命令や裁判所の命令を受取った時には、弊社は命令に
従う前に同命令が法律の字義および精神の双方を満たすものである
かどうかを確認します。もし満たされない場合は、弊社は命令に
異議を申立てることも、要求範囲を限定するようにたずねることも
できます」とチェンは言う。グーグルは 2006年に法務省が何百万
件もの検索入力文字列の提出命令を出したことに対して、それは
利用者のプライバシー侵害にあたるとして法廷で争った、とチェン
は指摘する。その件はグーグルが勝訴した。

[訳注:
[*15] アメリカ自由人権協会(ACLU): 主に言論の自由を守ることを
 主眼にした、老舗の有力市民団体。
]

しかしながら、ソゴイアンは、協力したくなるよこしまな動機が
あり得ることを示唆する。法律上、グーグルやプロバイダは、
要した時間と労力とへの補償が保証されている。つまりスパイ要員
や警官に情報を与えることは、儲かる仕事になり得るわけだ。

グーグルはまた、有名どころではロッキード・マーチン、SRAイン
ターナショナルをはじめとした諜報産業界をリードする会社のいく
つかとも共働している。SRAインターナショナルはグーグルの
「共同事業経営者」として挙げられており、実際、グーグルのウェ
ブサイトでは百を超えるそうした共同経営者が列挙されている。
ロッキード、SRAのいずれもデータベース探索調査ソフトを設計し、
諜報機関に売っている。たとえば、SRAインターナショナルのソフ
ト NetOwl がある団体の勧誘フォーラムで使われているのを見て
いたペンシルバニア州立大学のあるブロガーは、同ソフトを指して
「グーグルを用いて、ある特定の人に関するありとあらゆる文書を
検索する」と描写している。これらソフトの詳しい情報について、
またそれらがグーグルと協同してどのように開発されたものか問い
合わせたところ、ロッキード・マーチンの広報官は「弊社がグーグ
ルと共に行なった仕事は、もっぱらグーグル・アースに関係した
ものです」と回答した。SRAインターナショナル渉外事務部長の
シーラ・ブラックウェルは「弊社は諜報関係顧客の業務の詳細に
ついてはコメントしません」と述べている。

CIA元高官のロバート・スティールは、CIAの研究開発事務局はある
時点でグーグルに資金援助していたことがある、と言う。同事務局
のパンフレットによれば、CIA研究開発事務局はその憲章において、
現在の最先端のさらに先を目指し、商用として実用化されているい
かなるものよりも優れた技術および装備を開発・応用する、と謳っ
ていて、それら技術・装備には、通信、感知装置、半導体、高速
計算、人工知能、画像認識、データベース処理が含まれるという。
スティールは、グーグルと研究開発事務局とのパイプ役はテロ対策
用データベース探索調査の専門家であり、長年にわたって CIAにて
アナリストを務めるリック・ステインハイザー博士だと言う(なお、
ステインハイザーの仕事について、中央情報局は沈黙を守っている)。

そして、マウンテン・ビューのグーグル本社では諜報関係高官が
働いていると言われる。技術関係の専門家、スティーヴン・アーノ
ルドが、2006年オープンソース・ソフトウェア会議でこの情報を
まず明らかにした。『ホームランド・セキュリティ・トゥデイ』誌
の諜報関係に経験豊かな記者であるアンソニー・キメリーがそれに
続き、グーグルと米国諜報との間に「秘密の関係」があると主張す
る報告を発表した。グーグルは「米国諜報機関に協力し、同社の
巨大なデータベースから国家と国土の安全保障に関連する利用者
情報を提供」していて、諜報機関の方は、「対テロ戦争における
『国家安全保障のための諜報上の利害』に関係する情報を同データ
ベースから収集する取組みの一環として『グーグルの(利用者)デー
タ監視能力にてこ入れする』よう働いている」という。言葉を替え
れば、グーグルの各種データベースあるいはその中で必要と狙いを
つけられた部分は、米国諜報機関の奈落の中へと直接放り込まれて
いるのかもしれない。

諜報産業複合体の他の巨大企業と同じくグーグルも、バージニア州
レストンにある連邦販売促進部がワシントンでロビー活動を行なう
のを支援してきている。2009年には 290万ドル[約2億5000万円]を
ロビー活動に使い、プライバシーがオバマ政権での優先事項になる
ことがないよう、念を入れた。グーグルは、産業界が支援するいく
つかの圧力団体とも協力している。これら団体には、米国対話型
広告事務局、米国技術政策研究所、進歩および自由財団[プログレ
ス・アンド・フリーダム財団]が含まれ、なかでも進歩および自由
財団は、その使命として、「政府の適切な役割についての古典保守
的観点において、技術が与えるよい影響力を正しく理解する(中略)。
これらの機会は、政府が、規制、課税、管理したくなる誘惑に負け
ないことによってのみ、初めて可能となる」を挙げている団体だ。
これらすべての団体は、通信関係の巨人たる有力会社連とならんで
グーグルから資金提供を受けている。その使命はこうだ。議会に
おいて、合州国憲法修正第四条のような禁止条項をデータベース
探索調査を業務とする民間企業にまで拡張するような法律を制定
する動きがあれば、すべて阻止する。米国技術政策研究所によれば、
その根拠はこうなる「プライバシーが優先されることがあれば、
(中略)情報流通が減り、広告の価値が下がり、したがって安価な
新規サービスを生み出すための資産が少なくなることになるだろう」。
言い替えれば、プライバシーは経済活動への脅威ということだ。

グーグルはまた、大統領官邸内にお気に入りをインストールする
ことにも成功している。グーグルの国際的公式方針および政府関係
事務部門の元部長で当時グーグルのロビー団体ネットパック
(NetPAC)の会計副課長も兼任していたアンドルー・マクローリンは、
プライバシー保護を訴える人々からの抗議にもかかわらず、オバマ
大統領のインターネット政策に関する技術副官に任命された。現在、
オバマ政権の行政管理予算局情報部長として配属されているヴィヴェッ
ク・クンドラは、以前は、ワシントン市役所の技術部長だった。
当時、クンドラは市政関係の業務においてマイクロソフト社のソフ
トを廃棄し、グーグルの製品への乗換えを実行した。懸念が強まっ
たのは、昨春、上院法案第 773番が発議された時で、「コンピュー
ターのセキュリティに関する緊急事態」が宣言された場合には関連
行政当局が民営ネットワークの接続を切ったり、一定の支配実権を
握ることを容認する、という法案だった。それは、ウイルスの攻撃
対象を隔離し、ウイルスを撃退する作戦となり得る。一方でそれは、
特定のサイトへの検閲の口実にもなり得、コンピューター・セキュ
リティ機関が従来立ち入りできなかったデータを探索調査する口実
にもなる。そのような緊急事態においては、グーグルは「最重要
基幹設備」と宣言されるかも知れないし、グーグル経営陣は上院
法案第773番に定義された連邦政府お墨付きの「コンピューター・
セキュリティ専門家集団」に一時的に任命されるかも知れない。
個々人の行動パターンを集積したグーグルの巨大データベースは
垂涎の的だが、それが米国国家安全保障局[NSA]のコンピューター
にコピー転送されることはあり得ない話ではない。そして、30年
以上にわたって多数の行政命令が積み重ねられてきたことを考慮す
れば、上院法案第 773番がなくても、「国家的緊急事態」において
行政当局が決定的に重要な通信網を接収するための土台を築いてき
ただろうことは想像に難くない。

そのような緊急事態宣言が議会を通過することが実際にあるかどう
かは別にして、それよりはるか以前の現在すでに、政府と契約する
データベース探索調査会社は政府と膝を突き合わせた話し合いの場
を持っている。商業・諜報複合体と安全保障・諜報複合体とは、
多くの点で利害や手法を共有する。たとえば、米国中央情報局
[CIA]の MKウルトラ計画[*16]にはじまり米国国家安全保障局
[NSA]で現在進行中の「認知神経科学研究」にいたるような、諜報
機関が長らく行なってきた思考操作の研究は、広告専門家集団に
よる「神経販売促進活動[ニューロマーケティング]」研究と相互に
補完しあうものとなる。米国国土安全保障省は反体制人物と
「潜在的テロリスト」とについて容易に拡大解釈できる定義を採用
しているが、これは、選挙広告を目的とした政治的行動に関する
プロファイリング[人物像作成]と補完しあうものとなる。

[訳注:
[*16] CIAによる洗脳の実験的研究の名称で、1950年代から少なく
 とも 1960年代末まで行なわれていたことが明らかにされている。
]

グーグルは、検索の過去ログから IPアドレス情報を匿名化する
時期を、従来の[検索実行後] 18カ月間保存という方針から、現在
は 9カ月へと短縮している。同社広報担当のチェンは「弊社は、デー
タを、提供する機能および利用者へのセキュリティ対策を改善する
ため、ならびに利用者のプライバシー保護のために用いることを
誓約します。そして、過去ログ保存に関する弊社の現在の方針は、
そのバランスをよく考慮した優れたものであると私どもは確信して
います」と述べている。これは、[検索実行後] 6カ月後には全ての
検索データを消去しているマイクロソフトとは好対照をなす。バン
クストンは語る。「完全に匿名化された検索入力情報であっても、
それらをつなぎあわせれば何らかの身元情報を導き出すことが可能
ということを忘れてはなりません。なぜ、グーグルは私たちのデー
タを永久保存する必要があるのでしょう。グーグルは、その点、
非常に曖昧です。」

実際、グーグルは、その気さえあれば、諜報機関とどのように協力
しているか、たとえば何件の情報開示要求を受取っているか、どの
政府部門からか、何件について要求に応じたかなど、ずっと多くの
情報を法に抵触することなく開示することが可能だ。バンクストン
は言う。「グーグルはそういった全てを話すことができます。しか
しそうはしていません。グーグルは利用者のプライバシーについて
それほど気にかけていないのかもしれません。しかし、利用者が
自身のプライバシーについてどう考えているかということは、おっ
そろしく気にしています。政府が個人データを入手する危険性が
あるということを公衆に知らせるなどということは、禁忌も禁忌と
いうわけです。」

クリストファー・ケッチャムは、ニューヨーク州ブルックリンの
個人記者で、分離独立運動と合州国解体についての本を執筆中。
christopherketcham.com にて氏の著作物を参照できる。

トラヴィス・ケリーはユタ州モウブの文筆家、漫画家であり、
ウェブ・デザイナーでもある。
traviskelly.com にて氏の仕事を参照できる。

この記事のための研究においては、ネーション研究所の研究基金の
援助を受けた。


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
原文:
"The Cloud Panopticon --- Google, Cloud Computing and
 the Surveillance-Industrial Complex",
by Christopher Ketcham and Travis Kelly,
CounterPunch, April 1-15, 2010, Vol.17, No.7, pp.1-5.
http://www.traviskelly.com/writing/Counterpunch-Google.pdf
http://www.theinvestigativefund.org/investigations/rightsliberties/1274/the_cloud_panopticon/?page=entire
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━


━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
TUP速報 http://www.tup-bulletin.org/
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電子メール: TUP-Bulletin-owner@y...

TUP速報の申し込みは:
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投稿者: Kana Koto  <kanakoto1@h...>
Date: 2010年8月23日(月) 午後3時29分
タイトル: 速報860号 戦争に「正義」はない

 
「三つの聖戦」――ハワード・ジン
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歴史学者ハワード・ジンが反戦の学者としてその名を知られるずっと前から、
FBIはすでにジンの潜在的影響力を探知し、大きな懸念を抱いていたようだ。今
年7月29日に情報公開になった243ページにおよぶFBI監視記録によると、ジンに
対する監視は第二次世界大戦直後の米ソ冷戦時代、彼がまだニューヨーク州立大
学の学生だった頃から始まり、コロンビア大学で博士号取得に勤しむ間も続い
た。60年代にはFBIはボストン大学に積極的に働きかけ、ジンを大学教授の職位
から解雇するように求めてさえいた。黒人解放運動の中核となっていたブラック
パンサー党員の逮捕・起訴についてジンが「政治犯を生み出している」と強く批
判したことや、「アメリカは警察国家になってしまった」という発言などが当時
のFBI長官エドガー・フーバーの機嫌を損ねたと言われている。 FBIによるハ
ワード・ジンに対する監視調査は1949年から1974までの25年間に三度行われた。

今年1月、亡くなる直前に出版された論文で、ジンは「国家権力の暴力に対する
最善の対策は、抵抗を続けること、その構造を暴露し続けることだ」と述べた。
歴史家としてのハワード・ジンは、アメリカの戦争の歴史と構造を階級闘争の観
点から最も明確に分析し、分りやすく説明した数少ない人物だ。

2009年、アメリカの先進派雑誌『プログレッシブ』誌発行百周年記念会議で、ハ
ワード・ジンは『三つの聖戦』という演題で講演した。この講演でジンは戦争と
いう「国家事業」に悪用される「正義」という大義名分の構造を明らかにしてお
り、特にアメリカの好戦的な歴史を批判した内容ではあるが、どこの国にとって
も「正義」という物言いは戦争とは切っても切れない関係にある。敗戦後65年
経った今、戦争の悲劇を語り継ぎ、反戦の知恵を綴っていく私たちにとっても、
忘れてはならない真実だろう。

いつでも気軽に丁寧に質問に応えてくれたハワード・ジン。時々お茶目な冗談や
つっこみも交えながら、反逆精神と市民運動の連帯の喜びを教えてくれたハワー
ド・ジン。あの名調子がいつまでも耳の奥に残っている。

翻訳:宮前ゆかり(TUP)
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三つの聖戦:『プログレッシブ』誌百周年記念集会での講演
掲載:2010年1月14日 ハワード・ジン

三つの聖戦

『プログレッシブ』誌百周年記念講演、2009年5月2日、ウィスコンシン州マ
ディソン市

マット・ロスチャイルド:本当に有名な方なのに、私の知るだれよりも謙虚な人
物、あるいは以前私が本人に言ったように、謙虚なそぶりが上手な方です。で
は、ハワード・ジンにお話を伺いましょう。

ハワード・ジン:こんにちは。ありがとう。ありがとうございます。マットさん
が言ったように、私はとても謙虚な人間です。この講演が終わるまで謙虚でいる
ように努めようと思いますが、なにしろ巨大な自尊心があるので簡単ではありま
せん。

でもマットさんは、私がどうして『プログレッシブ』誌に書くようになったかに
ついて、正しく説明してくださいました。しかし、これは言っておかなければな
りません。マット・ロスチャイルドのような編集者と仕事をしたことはありませ
んでした。本当に。

皆さんは、それはどういうことだろう、と思うかもしれませんね。私はバード
ウォッチングをやる編集者と出会ったことがありません。本当ですよ。とても重
要な点です。それにしても、彼は素晴らしい編集者です。なんでもすべて注意し
て読むんですよ。いろいろ注文をつけたりしませんし。それこそが優秀な編集者
の証拠です。というわけで私は喜んで『プログレッシブ』誌に記事を書いています。

『プログレッシブ』誌の読者はとても特別な読者です。そう、皆さんのことで
す。ここにいらっしゃる皆さんたちです。まったく、とても特殊な読者層、
ちょっと変わった読者層、ええ、いい意味で言っています。

というわけで、マットさんに紹介していただき嬉しいです。ウィル・ダーストさ
んと同じステージなのも大変嬉しいです。彼の話を直接聞いたことがなかったの
ですが、ええ、面白い方ですね。バーバラ・エーレンライクさんやボブ・レッド
フォードさんと一緒のプログラムなのも嬉しいです。光栄です。

さて、では少し真面目な話をしようと思います。ずっとああでもないこうでもな
いと考えていたあるアイデアを披露しようと思っていたのですが、この会場の皆
さんはこのアイデアを持ち出す相手としてぴったりだと考えました。

それは三つの聖戦についてです。私の頭の中ではそれがこの話の表題で、まぁ、
そんなに格式ばった話ではないですけれども。三つの聖戦。それはどういうこと
でしょうか。宗教戦争のことを話しているわけではありません。私が話している
のは、アメリカの歴史で不可侵とされる三つの戦争、批判できない三つの戦争、
すなわち独立戦争、南北戦争、第二次世界大戦のことです。

建国の父について、誰かが何か悪いことを言っているのを聞いたことがあります
か。南北戦争についてはどうでしょうか。「正義の戦争」、第二次世界大戦につ
いてはどうでしょう。私たちの文化の中でこれらの戦争についてどんな形であろ
うとも批判するのは、とても、とても、とっても難しい。

ええ、他の戦争について批判することはできますし、これこれの戦争はよくな
かったということはまあ言ってもいい。あれはよくなかったと。でも、いやい
や、独立戦争は違う、南北戦争は違う。

というわけで、じっくりと厳しい目で注意深くこれら三つの理想化された戦争を
見ることが大切だと私は考えました。多分「理想化された」という言葉で私の意
図が分るだろうと思います。三つの空想化された戦争。重要です。少なくとも疑
問を持とうとすることが重要なんです。まさか私がこれらの三つの戦争をただち
に非難するというわけでないですから、ええ、多分。

さて、これらの戦争について私が言おうとすることをどのように特徴づけたらい
いのか分りませんが、でも少なくとも他の皆が批判が不可能だと受け入れたこと
について、何か批判できるかもしれないという可能性を掲げることは大切だと考
えているということでしょうか。つまり、私たちは思考する人々であるはずで
す。何でも疑問を投げかけることができなければなりません。

さっきバーバラ・エーンライクが神に疑問を投げかけるのを聞きました。でも答
はありませんでした。お二方の間のインタビューをぜひ聞きたいですね。それを
マットさんが『プログレッシブ』誌上に掲載できますね。

もし私たちが思考をする人間であるならば、すべてに疑問を問いかける心積もり
がなくてはなりませんし、それには誰も何も悪いことを言わないこれらの戦争も
含まれます。ということで、では始めましょう。とても大きなトピックでほんの
少しの時間しかありませんから。注意されているんですよ。タイムキーパーがい
ましてね。見かけがいかにもごつくて、時間を守れと言ってくるわけです。だか
ら少ししか時間がない。いくつかのアイデアを紹介して、ちょっと考えるだけの
時間です。いいですか。

このようなアイデアのひとつは、実はマットさんが触れていたこと、アーウィ
ン・ノールのことです。皆さんのうち何人が彼のことを知っているのか、または
アーウィン・ノールが『プログレッシブ』誌の編集者だったときに何人の方たち
が『プログレッシブ』誌を読んでいたのか知りません。私はアーウィン・ノール
に会ったことがあるんです。アーウィン・ノールに初めて会ったとき、あること
について二人がまったく同じアイデアを持っていることをお互いに発見する出来
事がありました。ふたりとも正当な大義と正当な戦争とをしっかり区別していた
ということです。

つまり、何とかしたいと思うような悪い出来事が世界にはあり、それには正当な
大義があります。しかし、私たちの文化はあまりにも戦争好きなため、すぐに軽
率な行動に走って、非論理的な飛躍をしてしまう。「これは正当な大義がある、
だから戦争するに値する」と。

だめです。「おお、これは立派な目的だ」という話から飛躍して、この問題を解
決するためには戦争をしなければならない、となってしまうことについて、とて
も気をつけなければなりません。

実際のところ、1898年にキューバからスペインを追い出すことは正当な行動だっ
たと言う人がいるかもしれません。スペインはキューバを弾圧していました。で
もそれが必ずしも戦争をしなくてはいけないということを意味したでしょうか。
その戦争をよく調べて、どういう結果が生じたかを注意深く見る必要がありま
す。キューバを弾圧しているスペインを追い出すことができた私たちは、今度は
自分たちがキューバを弾圧できるようになったということ、それをよく見て、理
解する必要があります。というわけで、ぜひ注意してください。

北朝鮮が韓国を侵略するのを阻止すること、それには正当な大義があったと言う
人がいるかもしれません。北朝鮮はそんなことをするべきではない、悪い、間
違っている、と。そうだからといって、つまり、それを止めるために戦争に行く
べきだということになるでしょうか。朝鮮戦争は最も知られていない戦争のひと
つです。あの戦争で二百万人から三百万人もの朝鮮人が死にました。歴史から消
えてしまった戦争のひとつといって良いでしょう。もちろん、大義はあります。
北朝鮮は韓国を侵略するべきではなかった。ということで私たちは「解決法は何
か、戦争だ」となるわけです。結果は何でしょうか。二百万人から三百万人もの
朝鮮人が死にました。

さらに、韓国と北朝鮮との間の関係に何か特別な変化がありますか。いいえ。こ
れは韓国での独裁政治と北朝鮮の独裁政治から始まりました。二百万人の死者が
出た挙げ句の果てが、韓国での独裁政治と北朝鮮の独裁政治です。

ひとつのことから別のことへ、大義から正義の戦争へと急ぐことについて、非常
に注意しなければなりません。

アーウィン・ノールは私が会った人たちの中でこれとまったく同じ論理で物事を
考えていた唯一の人物です。私はいつも誰か自分と同じような論理で考える人を
探しています。それが私のやることです。あちこちに行って人を探すんですよ。
誰かを見つけたときはとっても嬉しい。

アメリカ独立革命、イギリスからの独立宣言、大義ある出来事。ここにいる植民
開拓者の集団がどうして占領されなくてはならないのか。そうだ、われわれは占
領されている。弾圧されている。だから、戦争をしよう。独立革命戦争を。

独立戦争で何人の人が死んだでしょうか。誰も正確なことは知りません。ところ
で、戦死者の統計を見ると分るのですが、何人の人が死んだのか正確には誰も知
らないのです。どうでもいいわけです。2万5000人から5万人くらい。低い数値を
取りましょうか。独立戦争当時の300万人の人口のうち2万5000人が戦死しまし
た。それは現在に置き直してみると、イギリスを追い出すための戦争で250万人
の人が死んだのと同じことになります。さて、その価値があったと考える人もい
れば、そう思わない人もいるでしょう。

カナダはイギリスから独立していますよね。そう思いますよ。そんなに悪くはな
い社会です。カナダには社会保障があります。カナダ人は私たちが持っていない
ものをたくさん持っています。カナダ人たちは血なまぐさい独立戦争を戦いませ
んでした。

なぜ私たちは流血の独立戦争を戦わなければイギリスを追い出せないと思ったの
でしょうか。知っていますか。私がいつも「知っていますか」と切りだすわけ
は、きっと知らないだろうから、この話をすると喜んでもらえると判断するから
です。最初の一発、あの有名な大砲が撃たれる前の最初の年のことです。あの、
世界中に響き渡った最初の一発。知っていますよね、レキシントン、コンコー
ド、1775年4月、独立戦争の開始。その前の年、西マサチューセッツの農民たち
は一発も撃たずに西マサチューセッツからイギリス政府を追い出していました。
何千、何万人もの人々が裁判所、正式な公館のまわりを取り囲み、乗っ取って英
国の政府高官たちに別れを告げました。非暴力の革命が起きたのでした。

しかしその後に起きたのがレキシントンとコンコードで、革命は暴力的になり、
さらに革命は農民によってではなく建国の父たちによって乗っ取られました。農
民はどちらかというと貧しい人たちでした。建国の父はどちらかというと裕福な
人たちでした。

独立革命戦争は最初自分が知っていると思うほど簡単なものではありません。ほ
う、英国からの独立。それはよい。そんな風に簡単なものではありません。

英国からの勝利で実際に利益を得たのは誰だったでしょうか。利益を得た人々が
いたことには疑いの余地はありません。しかし、特に戦争について検討する、あ
るいは戦争を評価する場合、誰が何を得たのかと疑問を呈すること、ある政策か
ら誰が利益を得たのか、人口の異なる層を区別して考えることが大変重要です。
この点、わが国ではこのような問いかけをすることにあまり慣れていませんが、
それは階級として物事を考えないからです。私たちは皆同じ利害を持っていると
考えています。私たちは英国からの独立という同じ利害を共有している、とね。
私たち全員が同じ利害を共有しているわけではありませんでした。

インディアンは英国からの独立について興味を持っていたと思いますか。いい
え。実際のところ、インディアンの人々は私たちが英国から独立を勝ち取ったこ
とを残念に思っていました。なぜかというと、英国は境界線を設けていたからで
す。それは1763年協定で、これによって地図上に線が引かれ、その線から西の方
に向ってインデアンの領地に入ってはいけないことになっていました。別にイン
ディアンのことを愛していたから入らなかったわけではありません。面倒を起こ
したくなかったわけですよね、きっと。独立戦争で英国が負けたとき、その境界
線は抹消されました。さて、これで植民開拓者にはこの大陸を西部に向って移動
する道が開かれ、実際、その後百年間にわたって西部を征服し、大虐殺を行い、
インディアンの文明を徹底的に破壊したわけです。ですから、アメリカ革命を見
るとき、ちゃんと考えに入れなければならない事実というものがあるのだぞ、と
言うことが出来ますね。インディアンの人たちにとっては、そうです、利益はあ
りませんでした。

黒人の人たちにとって革命からの利益はありましたか。奴隷制はその前に存在し
ていましたし、その後も存在しました。そう、私たちは革命後も奴隷社会だった
のです。それだけではなく、私たちは憲法に奴隷制を書き込みました。奴隷制を
合法化したのです。

では、階級分離についてはどうでしょうか。私たちにはなぜ思い込みがあるので
しょうか。いや、黒人や奴隷やインディアンのことは置いておいたとしても、例
えばの話ですが普通の白人の農民だったらどうでしょうか。このような人たちは
革命戦争について、例えばジョン・ハンコックとかモリス知事やマディソンや
ジェファソンや奴隷所有者や債券保有者などと同じ利害を持っていたでしょう
か。そんなことはないでしょう。これは、一般人がみな一緒になってイギリスと
戦ったというような話ではありません。実際のところ、ワシントンは軍隊を集め
るのにとても苦労しました。

金持ちたちは軍隊を集めた。人々に約束をしたんです。貧しい人々を集め、土地
を与えてやると約束しました。金持ちたちは人々を怒鳴りつけ、ええ、もちろん
人々を鼓舞しましたとも。独立宣言をやろう。わぁ、これこそが私たちの戦う目
的だ、とね。常として、人々を戦争に駆り出そうと思ったら何かいい文書があっ
て、いのち、自由、幸福の追求などのいい言葉を使うのがいい。そうだ、これこ
そ私たちが戦っている理由なのだ、と。

もちろん、こういう人たちが憲法を書く時には、いのち、自由、幸福の追求では
なくなりました。憲法を書いたときには、いのち、自由、所有物になっていまし
た。違いに気がつきましたか。気がつくべきですよ。こういう小さいことに注意
を払うべきです。

階級の分離がありました。ある戦争を査定し評価する場合、ある政策を査定し評
価する場合、この政策から「誰が何を得るのか」ということを問う必要がありま
す。私たちみんなにとってそれは同じではありません。はい、税金を上げること
になります、と。誰の税ですか。人口のどの部分に対して増税をするんですか。
お金を使います、と。誰に対してですか。

では、革命はどうでしょうか。革命の利益に階級の分離と言うものがあります
か。ええ、もちろんですとも。私たちは最初から階級社会でした。アメリカ社会
は、貧富のある社会として始まりました。膨大な土地を与えられていた人々と、
まったく土地を持たない人々がいました。暴動がありました。ボストンでパン暴
動や小麦粉暴動がありました。植民地のいたるところで、貧困層が富裕層に対し
て立ち上がり、借金を払えなくて牢獄に入れられていた人々を解放するために貸
借人たちが牢獄に押し入るという反逆行動が起きていました。階級闘争がありま
した。この国では、みんながひとつの幸せな大家族であるかのように振舞おうと
していますが、それはウソです。ですからアメリカ革命を見るとき、階級という
観点からこれを見る必要があります。

皆さん、知っていますか。(また、私の優越感が出てますね、「私の知っている
ことを君は知っているか」なんてね。まぁ、私の知らないことをあなたたちが
知っているわけですし、でもここで私が知っていることを盾にして殿様顔で皆に
も教えてさし上げましょうか)。革命軍内で兵士たちが士官に対して叛乱を起こ
したことがあるのを、皆さんご存知でしょうか。私が「知っていますか」と訊く
のは、私がアメリカ革命について勉強したとき、私がアメリカの歴史を勉強した
とき、これはただ小学校のことを話しているんじゃないですよ、私は大学院に
行っていたからです。それを皆さんに知って欲しい。私は歴史で博士号を取った
んです。ホントです。大学から大学院の教育全体を通して、アメリカ革命軍内の
叛乱について私は学んだでしょうか。いいえ。そうなんですよ。私が学ばなかっ
たことはたくさんあります。

学校を出てから、私はものごとを学び始めました。それが学習の始まりです。そ
うですよね。図書館に行きましょう。図書館ほど素晴らしい場所はありません。

普通の兵隊たちによる叛乱がありました。士官たちがどのように扱われていたか
を見た人たちでした。士官たちは上等な服、美味しい食べ物、高給を受け取って
いるのに、兵士たちは、ほら、バレーフォージで見たことがあるでしょう、兵士
たちは靴もなく、みすぼらしい服を着て、給料ももらっていませんでした。彼ら
は叛乱を起こしました。何千人もの兵士たちが、です。たったの5人や10人では
ない。何千人もの兵士たちが叛乱を起こしたのです。ペンシルバニア前線と呼ば
れるところで、余りにも多くの兵士たちが叛乱を起こしたので、ジョージ・ワシ
ントンはこのことを心配しました。手に負えなくなりました。これを抑えること
ができなくなったので、兵士たちに妥協しました。

しかし、その後、ニュージャージー前線でもっと小さな、何千人ではなくて何百
人という規模の叛乱が起きたとき、ワシントンはこう言ったのです。「指導者を
処刑しろ」と。何人かの反乱者たちを引き出し、彼らは士官の命令によって叛乱
の仲間たちの手で処刑されてしまいました。

私がこの話をするのは、アメリカ革命は私たち皆が一緒になって相手側全員に立
ち向かったというような単純な出来事ではなかったということを示すためです。
皆が革命の恩恵を受けるとは考えていなかった。もちろん、イギリスから自由に
なったことには利益がありました。しかし、今の人口にすれば250万人の人々
が死んだわけでしょう。そうですよね。

戦争について考えるとき、人間の犠牲というものを戦争から得る利益と比較して
評価する必要があります。その台帳の収支両方で問題が起きます。というのは、
人間の犠牲を考えるとき、普通は単なる抽象として考えられます。ああ、何人の
人が死にました、と。ただの数字です。ただ数字を出します。第二次世界大戦
[訳注:「第一次」のタイポと思われる]、40万人の人が死にました。南北戦争、
60万人、と。でも5000万人が第二次世界大戦で死んだのです、数でいうと。それ
は人間の立場として、どういうことを意味するのでしょうか。

というわけで、台帳のそっち側は、もし利益に対する犠牲の重みの正確な評価を
本当に求めるのであれば、その犠牲をちゃんと見る必要がある、抽象や統計では
なくて。死んでしまった一人一人の人間の立場で、手足を失った一人一人の人、
戦争の結果盲目になってしまった一人一人の人たち、戦争の結果精神的に傷害を
受けてしまった一人一人の人たちの立場で、それを見る必要がある。台帳のそっ
ち側つまり戦争の犠牲を評価するとき、「それだけの価値があったのか、正当な
戦争だったのか」と問う前に、こういったこと全体を把握する必要があります。
そうです、台帳のそっち側をちゃんと把握する必要があります。

ドゥリュー・ギルピン・ファウスト、彼女の本のこと皆さんご存知かどうか知り
ませんが、彼女が南北戦争のことを書いた本について、すばらしい本の優れた
点、そのひとつについて話します。彼女のこの本の素晴らしい点は、あの戦争で
人間に起きたことを、非常に具体的に、非常に人間的な有様を再現している点で
す。南北戦争は、戦場で麻酔薬もなしに切断につぐ切断につぐ切断が実行され
た、醜い、残酷な戦争でした。ですから、それを評価することには大変な注意が
必要です。これが犠牲なのです。これが本当の犠牲、本当の人間的犠牲だという
ことがお分かりでしょう。

利益については、私が独立革命戦争について質問したのと同じ質問を問いかける
必要があります。誰が得をして、誰が得をしなかったか、そしてどういう階級の
分離があったか。この階級は何を与え、その階級は何を与えたか。

(この人がついてきているかどうか、ちょっと見ているんですが。誰かが私の後
ろに忍び寄っているのを見たら、教えてくださいね)

南北戦争。皆さんは南北戦争について何を学びましたか。北と南との戦い。青対
灰色。戦闘、アンティータム運河、そしてゲティスバーグ。誰が北にいたか。誰
が南にいたか。どういう分離があったのでしょうか。これは奴隷を解放するため
の戦争だった、と。

しかし、同時に、それには、貧しい白人の人々が自分たちにとってそんなに意味
を持たない戦争へと徴集されていったという階級的要素がありました。これらの
人々は、裕福な人々が300ドル払えば徴兵を免れることができるような状況で徴
兵されたのでした。ですから、皆さんのうち何人かの方たちが聞いたことがある
ような叛乱が起きました。ニューヨークやその他の都市で南北戦争中に徴兵叛乱
がありました。

北部には階級闘争がありました。北部の人々の中には戦争中に裕福になった人た
ちがいました。財産を儲けた人たちがいました。J.P.モーガンは南北戦争中に一
財産儲けました。戦争とはそういうものです。戦争は誰かをとても裕福にし、貧
しい人たちはその戦争で戦いにでかけます。

OK、もちろんですとも。肯定的なことを無視するわけにはいきませんから、解
放、奴隷解放ということについて話を戻すことにしましょう。これは小さなこと
ではありません。これは台帳のそっち側の大きなことです。

しかし、南部連合国における階級闘争についてもうひとつ言っておきましょう。
南部連合国内には階級闘争がありました。ほとんどの白人は奴隷所有者ではあり
ませんでした。奴隷所有者は多分、白人6人のうち一人でした。白人が奴隷所有
者というわけではなかった。白人たちはこの戦争で戦っていた貧しい、貧しいお
馬鹿さんたちだった。何のためでしょうか。北部の兵士たちよりもずっと多くの
人たちが死んでいった。南部連合国の犠牲は北部に比べて非常に大きかったのです。

この大騒乱が起きている間、この流血の惨事が拡大していく中、植民地大農園の
所有者たちが食物ではなくて綿を栽培していたため、兵士の故郷の家族たちは飢
えに苦しんでいました。それで妻たち、娘たち、恋人たち、妹たちが叛乱を起こ
し始めました。彼女たちはジョージアやアラバマで叛乱を起こしました。彼女た
ちは自分たちの息子や夫たちが前線で死んでいるのに、大農園の所有者たちが金
持ちになっていることに抗議して叛乱を起こしました。南部連合軍に膨大な脱走
がありました。ですから、階級に関する出来事を調べる必要があります。

さて、南北戦争で起きた非常に肯定的な出来事について、奴隷解放について話を
戻そうと思うのですが、しかしこれは完全には解放ではありませんでした。え
え、ある意味では解放だったでしょう。別の意味ではそうではなかった。さぁ、
南北戦争で60万人の命が失われるというわけですから、これは重要な点で、現在
の人口の割合に換算すると500万人の人口に等しいわけですし、(この地で州と
州が戦って500万人の人たちが死ぬような戦争を想像してみてください)もしか
したら、その結果400万人の黒人の人々を解放して彼らに自由をもたらすなら、
価値のあることなのかもしれませんね。実際のところ、彼らには自由が与えられ
たとは言えません。彼らは準奴隷になっただけでした。

黒人たちは政治家たち、北部の資本家たちに裏切られました。約束につぐ約束を
されましたよ、でもね、もちろん、彼らは厳密にいえば奴隷だとはいえないけれ
ども、何の頼りになる道も与えられないままほったらかしにされた。結局は、彼
らを奴隷として所有していた同じ大農場主の思うままにされてしまい、今や農奴
となってしまいました。今度は小作人農夫になってしまった。今ではひとつの場
所から他へと移動することはできなくなってしまいました。黒人たちはいろいろ
な制限によって閉じ込められてしまった。彼らの多くは嘘の罪を着せられ牢獄に
入れられた。放浪規制が通過したため雇用主たちは黒人たちを道端で捕まえ仕事
を強要しました。奴隷労働の一種です。

私がこのようにあれこれ言って指摘するのは、ほら、私たちは奴隷制を止めたの
だから60万人もの人々が死んでもよかったのではないかということでしょうか。
いや、そうではない。60万人もの人々が死ななくても別の方法で奴隷制度を終え
ることは可能ではないでしょうか。そういう風には私たちは考えませんね。丁
度、流血の戦争をしなくても英国からの独立を勝ち取ることができたかもしれな
いと私たちが考えないのと同じようなことですよ。

流血の戦争とは、暴力で何かを勝ち取るということは、それは上からコントロー
ルされているということです。これは人民の戦争ではありません。革命独立戦争
であろうと、南北戦争であろうと、人民の戦争ではありません。上に立っている
人々がいて、その人たちはこの状態から最も利益を得る人たちです。

ですから、疑問を投げかける必要があります。奴隷制は別のやり方で終えること
はできなかったのか、と。西半球の他の国々で流血の内戦なしに奴隷制を終えた
国々があります。

(まだ、グリーンライトになってますね。第二次世界大戦の話までたどり着ける
でしょうかね。)

私は第二次世界大戦で志願兵になりました。ご存知だったかもしれませんが。も
しかしたら皆さん、私の履歴全部をご存知かもしれません。私自身よりも皆さん
のほうが私のことを知っているかもしれませんね。

私は第二次世界大戦で空軍に志願してヨーロッパの飛行爆撃作戦に参加しまし
た。私がそうしたのは「正義の戦争」だったからです。「正しい戦争」だった。
「正当な戦争」だった。

さてと、戦争が終わってから私はだんだんと考えに考えはじめました。私は調査
をはじめ、物事を確認し、ヒロシマとナガサキについて学びはじめました。それ
はいつヒロシマにその原爆が落とされたかということが原因でした。私はヨー
ロッパへの派遣を終えたばかりで、その後太平洋にでかけて爆弾投下を続けるこ
とになっていました。そうしたらヒロシマに原爆が落とされ、その後すぐに戦争
が終わりました。ああ、それはよかった。私はそれを歓迎したものでした。

私は本当にその爆弾がヒロシマに落とされたときに何が起きたのか知っていたで
しょうか。その人々に何が起きたのか知っていたでしょうか。そこにいた何十万
人にもおよぶ人々、それら男性、女性、子供たちにとってそれがどういうことを
意味していたか、私は分っていたでしょうか。いいえ。知りませんでした。それ
について考え始めたとき、それまで考えたことのなかった人たちのこと、自分が
落とした爆弾を受けた人々のことについて考え始めました。私にはその人たちの
ことが見えませんでした。3万フィートの高空を飛んでいれば誰も見えません。
ただ爆弾を落とすだけです。

現在の戦争は非常に冷淡この上ありません。人々は軽率に、まったくパイロット
もなしにプレデター・ミサイルなんかを撃ち込むのですよね。それは簡単なこと
です。ただ人を殺して、誰かが撃ち落される心配もいりません。

ナガサキ原爆の3ヶ月前、私たちは東京に焼夷弾を落とすために飛行機を飛ば
し、東京大空襲で10万人もの人々が一夜にして殺されました。

後で、私が日本を訪れたときにそこの人たちと話をしました。その後ヒロシマを
訪れ、ヒロシマの生存者の人たちと会いましたが、皆さんにも彼らのことを見て
ほしかったですよ、足や腕のない人たちや盲目の人々など。私がそれはどういう
意味かを実際に理解したとき、戦争、5000万人もの死者を出した戦争のこと。こ
う言えますね。さて、私たちはファシズムを負かしたと。さぁ、そうでしょう
か。本当にそうだったのでしょうか。

革命独立戦争はまた別物です。だって、革命独立戦争の後、すべてがそれほどう
まく行きませんでした。すべてが素晴らしい結果になったわけじゃないし、しか
もあれだけの多くの人たちが殺された戦争なのですからね。

では5000万人もの死者を出した第二次世界大戦はどうでしょうか。もちろんヒッ
トラーを退治しました。日本の軍国主義を倒し、ムッソリーニを退治しました。
しかし、世界のファシズムを退治したでしょうか。軍国主義をなくしたでしょう
か。人種差別を退治したでしょうか。戦争をなくしたでしょうか。私たちは戦争
につぐ戦争につぐ戦争をやってきました。これら5000万人の人たちは何のために
死んだのでしょうか。

私たちはこの戦争の問題について考え直す必要があります。

(会場でタイムキーパーをやっている人はきっと居眠りをしているんだろう、と
いう結論に達しました。大丈夫、私は彼を起こすようなことはしませんよ)

皆さんも私と同じような結論に達するべきでしょう。戦争はどんなことであろう
と受け入れることはできません。どんなことがあろうとも。どんな理由を与えら
れようとも。自由、民主主義、これ、あれ。戦争はその定義からして膨大な人数
の人々を不確定な目的のために無差別に殺戮することです。手段と結果とを考え
るとき、倫理的な問題を考え、それを戦争に当てはめます。手段は必ず悲惨なも
のです。結果は不確定です。それだけで、躊躇するべきことでしょう。

そして、もちろん、ある質問を必ず出してくる人たちがいます。そういう問いは
常に私に問いかけられてきたので、先手を打ちましょう。例えあなたたちの頭の
中に浮かんだだけの質問だとしても、皆さんから訊かれる前にね。「そうです
ね。でも他に私たちは何をするべきだったのでしょうか」こう訊かれるんです
よ。これこれ、あれそれについて、またはイギリスからの独立について、または
奴隷制度について、私たちは一体他に何をすればよかったのか、とね。ところ
で、奴隷制について興味深いことですが、ジョン・ブラウンは奴隷を解放するこ
とを望んでいました。それは南北戦争の一年前のことでしたよ。いいですか。
ジョン・ブラウンはそれをやろうとしていましたが、あまりうまくいきませんで
した。奴隷の叛乱を起こそうとして、それが大きく、次々と広がっていくことを
ジョン・ブラウンは望んでいました。そんな風にして奴隷制度を終えることがで
きたかもしれませんね。ジョン・ブラウンは合州国政府とバージニア州によっ
て、このような暴力を使ったという罪で処刑されました。その次の年、政府は60
万人もの死者を出した戦争を起こし、そんなやり方で奴隷制度を終えたというこ
とで皆がお祝いをしている。どういうことでしょうか。

ここで言っておきたいことがひとつあります。こういう質問があります。「あな
ただったらどうしたでしょうか」。こういうことを言う人たちがいます。「じゃ
あ、ヒットラーはどうだ。何かしなければならないだろう」。そうです。こうい
う事柄については何かをしなければなりません。抑圧されているならば、独立を
勝ち取るために何かをしなければなりません。奴隷制度があるならば、奴隷制度
について何かをしなければならない。ファシズムについて何かをしなければなら
ない。こういったすべての事柄について何かをしなければなりません。しかし、
戦争を起こす必要はありません。私たちに脳みそが少しでもあるんだったらね
(あるのかどうか、分りませんね)。私たちは賢いはずです。私たちは賢いんで
すよ。本当にたくさんのやり方があります。まったくのところ、戦争と無抵抗と
の間には何千もの可能性があることくらい理解できるはずですよ、そうでしょう。

いったんある歴史的事件が一定の形で起きたら、歴史が一定の形で進んでいった
ら、例えば、ヒットラーがチェコスロバキア、ポーランドに侵攻したとたん、私
たちは戦争に行く、ということになるのはおかしいです。戦争は何年も続きま
す。そして戦争が終わる。いったん戦争が一定の形で進んだら、ファシズムが終
わる、そんな風に物事が進んだら、他のやり方で物事が達成されたかもしれない
ということを想像することがとても難しくなる。歴史である物事が起きると、そ
れが必然的であるかのような雰囲気ができてしまう。こうなるしかなかった、
と。違います。

歴史の多くの場面で、想像もつかないような驚くべきことが本当にたくさん起き
ます。本当に。アフリカ民族会議がアパルトヘイトのシステムに対して流血の叛
乱戦争を起こすことに決めたとしたら、それは正当化されたかもしれません。ア
パルトヘイトを終えるために、そうだ、戦争をしなければならない。それでアパ
ルトヘイトが終わる。何百万もの人々が殺されるでしょう。ほとんどが黒人の人
たちでしょう。もしそのような形になったとしたら、あなたはこう言うかもしれ
ませんね。「まぁ、そうするしかなかったでしょう」と。でも、アパルトヘイト
が終わったのはアフリカ民族会議がこう決めたからです。「いいえ、私たちはそ
れを望みません。私たちは別のやり方で目的を実現します。私たちは無抵抗には
なりません。私たちはいろいろな方法で戦い返します。ストライキをやります。
あらゆる手段を考えます。経済的な圧力をかけます。私たちはありとあらゆる手
段でこの圧制を打倒し、その権力を崩していきます。しかし、私たちは結局自分
たち自身がほとんどその犠牲になるような流血の戦争はしません」と。

というわけでやっと終わりました。皆さん、救われましたね。ま、私の言いたい
ことはお分かりになったでしょう。私の言いたいことはこれだけです。

原文:
http://www.zmag.org/zvideo/3322
ビデオリンク:
http://www.youtube.com/watch?v=3zUS_oh4XeU

TUPのウェブサイト掲載リンク:
http://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=884

■ハワード・ジン『爆撃』が2010年8月3日刊行されました。
(岸本和世・荒井雅子訳、TUP協力、岩波ブックレット)
ジンが65回目の原爆忌のために準備していた遺著で、自身が爆撃手として従軍し
た「正義の戦争」第二次世界大戦に関する検証です。
http://www.tup-bulletin.org/

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TUP速報 http://www.tup-bulletin.org/
配信担当 古藤加奈
電子メール: TUP-Bulletin-owner@y...

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■『冬の兵士──イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』
(TUP翻訳、岩波書店、2009年8月18日発売)
http://www.tup-bulletin.org/modules/main/index.php?content_id=32
■TUPアンソロジー『世界は変えられる』(七つ森書館)
JCJ市民メディア賞受賞!!
http://www.pen.co.jp/syoseki/syakai/0480.html
■『世界は変えられるII』も好評発売中!!
http://www.pen.co.jp/syoseki/syakai/0375.html

過去のTUP速報を読む:
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908

投稿者: Kana Koto  <kanakoto1@h...>
Date: 2010年8月23日(月) 午後0時35分
タイトル: 速報860号 戦争に「正義」はない

 
「三つの聖戦」――ハワード・ジン
======================================

歴史学者ハワード・ジンが反戦の学者としてその名を知られるずっと前から、
FBIはすでにジンの潜在的影響力を探知し、大きな懸念を抱いていたようだ。今
年7月29日に情報公開になった243ページにおよぶFBI監視記録によると、ジンに
対する監視は第二次世界大戦直後の米ソ冷戦時代、彼がまだニューヨーク州立大
学の学生だった頃から始まり、コロンビア大学で博士号取得に勤しむ間も続い
た。60年代にはFBIはボストン大学に積極的に働きかけ、ジンを大学教授の職位
から解雇するように求めてさえいた。黒人解放運動の中核となっていたブラック
パンサー党員の逮捕・起訴についてジンが「政治犯を生み出している」と強く批
判したことや、「アメリカは警察国家になってしまった」という発言などが当時
のFBI長官エドガー・フーバーの機嫌を損ねたと言われている。 FBIによるハ
ワード・ジンに対する監視調査は1949年から1974までの25年間に三度行われた。

今年1月、亡くなる直前に出版された論文で、ジンは「国家権力の暴力に対する
最善の対策は、抵抗を続けること、その構造を暴露し続けることだ」と述べた。
歴史家としてのハワード・ジンは、アメリカの戦争の歴史と構造を階級闘争の観
点から最も明確に分析し、分りやすく説明した数少ない人物だ。

2009年、アメリカの先進派雑誌『プログレッシブ』誌発行百周年記念会議で、ハ
ワード・ジンは『三つの聖戦』という演題で講演した。この講演でジンは戦争と
いう「国家事業」に悪用される「正義」という大義名分の構造を明らかにしてお
り、特にアメリカの好戦的な歴史を批判した内容ではあるが、どこの国にとって
も「正義」という物言いは戦争とは切っても切れない関係にある。敗戦後65年
経った今、戦争の悲劇を語り継ぎ、反戦の知恵を綴っていく私たちにとっても、
忘れてはならない真実だろう。

いつでも気軽に丁寧に質問に応えてくれたハワード・ジン。時々お茶目な冗談や
つっこみも交えながら、反逆精神と市民運動の連帯の喜びを教えてくれたハワー
ド・ジン。あの名調子がいつまでも耳の奥に残っている。

翻訳:宮前ゆかり(TUP)
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三つの聖戦:『プログレッシブ』誌百周年記念集会での講演
掲載:2010年1月14日 ハワード・ジン

三つの聖戦

『プログレッシブ』誌百周年記念講演、2009年5月2日、ウィスコンシン州マ
ディソン市

マット・ロスチャイルド:本当に有名な方なのに、私の知るだれよりも謙虚な人
物、あるいは以前私が本人に言ったように、謙虚なそぶりが上手な方です。で
は、ハワード・ジンにお話を伺いましょう。

ハワード・ジン:こんにちは。ありがとう。ありがとうございます。マットさん
が言ったように、私はとても謙虚な人間です。この講演が終わるまで謙虚でいる
ように努めようと思いますが、なにしろ巨大な自尊心があるので簡単ではありま
せん。

でもマットさんは、私がどうして『プログレッシブ』誌に書くようになったかに
ついて、正しく説明してくださいました。しかし、これは言っておかなければな
りません。マット・ロスチャイルドのような編集者と仕事をしたことはありませ
んでした。本当に。

皆さんは、それはどういうことだろう、と思うかもしれませんね。私はバード
ウォッチングをやる編集者と出会ったことがありません。本当ですよ。とても重
要な点です。それにしても、彼は素晴らしい編集者です。なんでもすべて注意し
て読むんですよ。いろいろ注文をつけたりしませんし。それこそが優秀な編集者
の証拠です。というわけで私は喜んで『プログレッシブ』誌に記事を書いています。

『プログレッシブ』誌の読者はとても特別な読者です。そう、皆さんのことで
す。ここにいらっしゃる皆さんたちです。まったく、とても特殊な読者層、
ちょっと変わった読者層、ええ、いい意味で言っています。

というわけで、マットさんに紹介していただき嬉しいです。ウィル・ダーストさ
んと同じステージなのも大変嬉しいです。彼の話を直接聞いたことがなかったの
ですが、ええ、面白い方ですね。バーバラ・エーレンライクさんやボブ・レッド
フォードさんと一緒のプログラムなのも嬉しいです。光栄です。

さて、では少し真面目な話をしようと思います。ずっとああでもないこうでもな
いと考えていたあるアイデアを披露しようと思っていたのですが、この会場の皆
さんはこのアイデアを持ち出す相手としてぴったりだと考えました。

それは三つの聖戦についてです。私の頭の中ではそれがこの話の表題で、まぁ、
そんなに格式ばった話ではないですけれども。三つの聖戦。それはどういうこと
でしょうか。宗教戦争のことを話しているわけではありません。私が話している
のは、アメリカの歴史で不可侵とされる三つの戦争、批判できない三つの戦争、
すなわち独立戦争、南北戦争、第二次世界大戦のことです。

建国の父について、誰かが何か悪いことを言っているのを聞いたことがあります
か。南北戦争についてはどうでしょうか。「正義の戦争」、第二次世界大戦につ
いてはどうでしょう。私たちの文化の中でこれらの戦争についてどんな形であろ
うとも批判するのは、とても、とても、とっても難しい。

ええ、他の戦争について批判することはできますし、これこれの戦争はよくな
かったということはまあ言ってもいい。あれはよくなかったと。でも、いやい
や、独立戦争は違う、南北戦争は違う。

というわけで、じっくりと厳しい目で注意深くこれら三つの理想化された戦争を
見ることが大切だと私は考えました。多分「理想化された」という言葉で私の意
図が分るだろうと思います。三つの空想化された戦争。重要です。少なくとも疑
問を持とうとすることが重要なんです。まさか私がこれらの三つの戦争をただち
に非難するというわけでないですから、ええ、多分。

さて、これらの戦争について私が言おうとすることをどのように特徴づけたらい
いのか分りませんが、でも少なくとも他の皆が批判が不可能だと受け入れたこと
について、何か批判できるかもしれないという可能性を掲げることは大切だと考
えているということでしょうか。つまり、私たちは思考する人々であるはずで
す。何でも疑問を投げかけることができなければなりません。

さっきバーバラ・エーンライクが神に疑問を投げかけるのを聞きました。でも答
はありませんでした。お二方の間のインタビューをぜひ聞きたいですね。それを
マットさんが『プログレッシブ』誌上に掲載できますね。

もし私たちが思考をする人間であるならば、すべてに疑問を問いかける心積もり
がなくてはなりませんし、それには誰も何も悪いことを言わないこれらの戦争も
含まれます。ということで、では始めましょう。とても大きなトピックでほんの
少しの時間しかありませんから。注意されているんですよ。タイムキーパーがい
ましてね。見かけがいかにもごつくて、時間を守れと言ってくるわけです。だか
ら少ししか時間がない。いくつかのアイデアを紹介して、ちょっと考えるだけの
時間です。いいですか。

このようなアイデアのひとつは、実はマットさんが触れていたこと、アーウィ
ン・ノールのことです。皆さんのうち何人が彼のことを知っているのか、または
アーウィン・ノールが『プログレッシブ』誌の編集者だったときに何人の方たち
が『プログレッシブ』誌を読んでいたのか知りません。私はアーウィン・ノール
に会ったことがあるんです。アーウィン・ノールに初めて会ったとき、あること
について二人がまったく同じアイデアを持っていることをお互いに発見する出来
事がありました。ふたりとも正当な大義と正当な戦争とをしっかり区別していた
ということです。

つまり、何とかしたいと思うような悪い出来事が世界にはあり、それには正当な
大義があります。しかし、私たちの文化はあまりにも戦争好きなため、すぐに軽
率な行動に走って、非論理的な飛躍をしてしまう。「これは正当な大義がある、
だから戦争するに値する」と。

だめです。「おお、これは立派な目的だ」という話から飛躍して、この問題を解
決するためには戦争をしなければならない、となってしまうことについて、とて
も気をつけなければなりません。

実際のところ、1898年にキューバからスペインを追い出すことは正当な行動だっ
たと言う人がいるかもしれません。スペインはキューバを弾圧していました。で
もそれが必ずしも戦争をしなくてはいけないということを意味したでしょうか。
その戦争をよく調べて、どういう結果が生じたかを注意深く見る必要がありま
す。キューバを弾圧しているスペインを追い出すことができた私たちは、今度は
自分たちがキューバを弾圧できるようになったということ、それをよく見て、理
解する必要があります。というわけで、ぜひ注意してください。

北朝鮮が韓国を侵略するのを阻止すること、それには正当な大義があったと言う
人がいるかもしれません。北朝鮮はそんなことをするべきではない、悪い、間
違っている、と。そうだからといって、つまり、それを止めるために戦争に行く
べきだということになるでしょうか。朝鮮戦争は最も知られていない戦争のひと
つです。あの戦争で二百万人から三百万人もの朝鮮人が死にました。歴史から消
えてしまった戦争のひとつといって良いでしょう。もちろん、大義はあります。
北朝鮮は韓国を侵略するべきではなかった。ということで私たちは「解決法は何
か、戦争だ」となるわけです。結果は何でしょうか。二百万人から三百万人もの
朝鮮人が死にました。

さらに、韓国と北朝鮮との間の関係に何か特別な変化がありますか。いいえ。こ
れは韓国での独裁政治と北朝鮮の独裁政治から始まりました。二百万人の死者が
出た挙げ句の果てが、韓国での独裁政治と北朝鮮の独裁政治です。

ひとつのことから別のことへ、大義から正義の戦争へと急ぐことについて、非常
に注意しなければなりません。

アーウィン・ノールは私が会った人たちの中でこれとまったく同じ論理で物事を
考えていた唯一の人物です。私はいつも誰か自分と同じような論理で考える人を
探しています。それが私のやることです。あちこちに行って人を探すんですよ。
誰かを見つけたときはとっても嬉しい。

アメリカ独立革命、イギリスからの独立宣言、大義ある出来事。ここにいる植民
開拓者の集団がどうして占領されなくてはならないのか。そうだ、われわれは占
領されている。弾圧されている。だから、戦争をしよう。独立革命戦争を。

独立戦争で何人の人が死んだでしょうか。誰も正確なことは知りません。ところ
で、戦死者の統計を見ると分るのですが、何人の人が死んだのか正確には誰も知
らないのです。どうでもいいわけです。2万5000人から5万人くらい。低い数値を
取りましょうか。独立戦争当時の300万人の人口のうち2万5000人が戦死しまし
た。それは現在に置き直してみると、イギリスを追い出すための戦争で250万人
の人が死んだのと同じことになります。さて、その価値があったと考える人もい
れば、そう思わない人もいるでしょう。

カナダはイギリスから独立していますよね。そう思いますよ。そんなに悪くはな
い社会です。カナダには社会保障があります。カナダ人は私たちが持っていない
ものをたくさん持っています。カナダ人たちは血なまぐさい独立戦争を戦いませ
んでした。

なぜ私たちは流血の独立戦争を戦わなければイギリスを追い出せないと思ったの
でしょうか。知っていますか。私がいつも「知っていますか」と切りだすわけ
は、きっと知らないだろうから、この話をすると喜んでもらえると判断するから
です。最初の一発、あの有名な大砲が撃たれる前の最初の年のことです。あの、
世界中に響き渡った最初の一発。知っていますよね、レキシントン、コンコー
ド、1775年4月、独立戦争の開始。その前の年、西マサチューセッツの農民たち
は一発も撃たずに西マサチューセッツからイギリス政府を追い出していました。
何千、何万人もの人々が裁判所、正式な公館のまわりを取り囲み、乗っ取って英
国の政府高官たちに別れを告げました。非暴力の革命が起きたのでした。

しかしその後に起きたのがレキシントンとコンコードで、革命は暴力的になり、
さらに革命は農民によってではなく建国の父たちによって乗っ取られました。農
民はどちらかというと貧しい人たちでした。建国の父はどちらかというと裕福な
人たちでした。

独立革命戦争は最初自分が知っていると思うほど簡単なものではありません。ほ
う、英国からの独立。それはよい。そんな風に簡単なものではありません。

英国からの勝利で実際に利益を得たのは誰だったでしょうか。利益を得た人々が
いたことには疑いの余地はありません。しかし、特に戦争について検討する、あ
るいは戦争を評価する場合、誰が何を得たのかと疑問を呈すること、ある政策か
ら誰が利益を得たのか、人口の異なる層を区別して考えることが大変重要です。
この点、わが国ではこのような問いかけをすることにあまり慣れていませんが、
それは階級として物事を考えないからです。私たちは皆同じ利害を持っていると
考えています。私たちは英国からの独立という同じ利害を共有している、とね。
私たち全員が同じ利害を共有しているわけではありませんでした。

インディアンは英国からの独立について興味を持っていたと思いますか。いい
え。実際のところ、インディアンの人々は私たちが英国から独立を勝ち取ったこ
とを残念に思っていました。なぜかというと、英国は境界線を設けていたからで
す。それは1763年協定で、これによって地図上に線が引かれ、その線から西の方
に向ってインデアンの領地に入ってはいけないことになっていました。別にイン
ディアンのことを愛していたから入らなかったわけではありません。面倒を起こ
したくなかったわけですよね、きっと。独立戦争で英国が負けたとき、その境界
線は抹消されました。さて、これで植民開拓者にはこの大陸を西部に向って移動
する道が開かれ、実際、その後百年間にわたって西部を征服し、大虐殺を行い、
インディアンの文明を徹底的に破壊したわけです。ですから、アメリカ革命を見
るとき、ちゃんと考えに入れなければならない事実というものがあるのだぞ、と
言うことが出来ますね。インディアンの人たちにとっては、そうです、利益はあ
りませんでした。

黒人の人たちにとって革命からの利益はありましたか。奴隷制はその前に存在し
ていましたし、その後も存在しました。そう、私たちは革命後も奴隷社会だった
のです。それだけではなく、私たちは憲法に奴隷制を書き込みました。奴隷制を
合法化したのです。

では、階級分離についてはどうでしょうか。私たちにはなぜ思い込みがあるので
しょうか。いや、黒人や奴隷やインディアンのことは置いておいたとしても、例
えばの話ですが普通の白人の農民だったらどうでしょうか。このような人たちは
革命戦争について、例えばジョン・ハンコックとかモリス知事やマディソンや
ジェファソンや奴隷所有者や債券保有者などと同じ利害を持っていたでしょう
か。そんなことはないでしょう。これは、一般人がみな一緒になってイギリスと
戦ったというような話ではありません。実際のところ、ワシントンは軍隊を集め
るのにとても苦労しました。

金持ちたちは軍隊を集めた。人々に約束をしたんです。貧しい人々を集め、土地
を与えてやると約束しました。金持ちたちは人々を怒鳴りつけ、ええ、もちろん
人々を鼓舞しましたとも。独立宣言をやろう。わぁ、これこそが私たちの戦う目
的だ、とね。常として、人々を戦争に駆り出そうと思ったら何かいい文書があっ
て、いのち、自由、幸福の追求などのいい言葉を使うのがいい。そうだ、これこ
そ私たちが戦っている理由なのだ、と。

もちろん、こういう人たちが憲法を書く時には、いのち、自由、幸福の追求では
なくなりました。憲法を書いたときには、いのち、自由、所有物になっていまし
た。違いに気がつきましたか。気がつくべきですよ。こういう小さいことに注意
を払うべきです。

階級の分離がありました。ある戦争を査定し評価する場合、ある政策を査定し評
価する場合、この政策から「誰が何を得るのか」ということを問う必要がありま
す。私たちみんなにとってそれは同じではありません。はい、税金を上げること
になります、と。誰の税ですか。人口のどの部分に対して増税をするんですか。
お金を使います、と。誰に対してですか。

では、革命はどうでしょうか。革命の利益に階級の分離と言うものがあります
か。ええ、もちろんですとも。私たちは最初から階級社会でした。アメリカ社会
は、貧富のある社会として始まりました。膨大な土地を与えられていた人々と、
まったく土地を持たない人々がいました。暴動がありました。ボストンでパン暴
動や小麦粉暴動がありました。植民地のいたるところで、貧困層が富裕層に対し
て立ち上がり、借金を払えなくて牢獄に入れられていた人々を解放するために貸
借人たちが牢獄に押し入るという反逆行動が起きていました。階級闘争がありま
した。この国では、みんながひとつの幸せな大家族であるかのように振舞おうと
していますが、それはウソです。ですからアメリカ革命を見るとき、階級という
観点からこれを見る必要があります。

皆さん、知っていますか。(また、私の優越感が出てますね、「私の知っている
ことを君は知っているか」なんてね。まぁ、私の知らないことをあなたたちが
知っているわけですし、でもここで私が知っていることを盾にして殿様顔で皆に
も教えてさし上げましょうか)。革命軍内で兵士たちが士官に対して叛乱を起こ
したことがあるのを、皆さんご存知でしょうか。私が「知っていますか」と訊く
のは、私がアメリカ革命について勉強したとき、私がアメリカの歴史を勉強した
とき、これはただ小学校のことを話しているんじゃないですよ、私は大学院に
行っていたからです。それを皆さんに知って欲しい。私は歴史で博士号を取った
んです。ホントです。大学から大学院の教育全体を通して、アメリカ革命軍内の
叛乱について私は学んだでしょうか。いいえ。そうなんですよ。私が学ばなかっ
たことはたくさんあります。

学校を出てから、私はものごとを学び始めました。それが学習の始まりです。そ
うですよね。図書館に行きましょう。図書館ほど素晴らしい場所はありません。

普通の兵隊たちによる叛乱がありました。士官たちがどのように扱われていたか
を見た人たちでした。士官たちは上等な服、美味しい食べ物、高給を受け取って
いるのに、兵士たちは、ほら、バレーフォージで見たことがあるでしょう、兵士
たちは靴もなく、みすぼらしい服を着て、給料ももらっていませんでした。彼ら
は叛乱を起こしました。何千人もの兵士たちが、です。たったの5人や10人では
ない。何千人もの兵士たちが叛乱を起こしたのです。ペンシルバニア前線と呼ば
れるところで、余りにも多くの兵士たちが叛乱を起こしたので、ジョージ・ワシ
ントンはこのことを心配しました。手に負えなくなりました。これを抑えること
ができなくなったので、兵士たちに妥協しました。

しかし、その後、ニュージャージー前線でもっと小さな、何千人ではなくて何百
人という規模の叛乱が起きたとき、ワシントンはこう言ったのです。「指導者を
処刑しろ」と。何人かの反乱者たちを引き出し、彼らは士官の命令によって叛乱
の仲間たちの手で処刑されてしまいました。

私がこの話をするのは、アメリカ革命は私たち皆が一緒になって相手側全員に立
ち向かったというような単純な出来事ではなかったということを示すためです。
皆が革命の恩恵を受けるとは考えていなかった。もちろん、イギリスから自由に
なったことには利益がありました。しかし、今の人口にすれば250万人の人々
が死んだわけでしょう。そうですよね。

戦争について考えるとき、人間の犠牲というものを戦争から得る利益と比較して
評価する必要があります。その台帳の収支両方で問題が起きます。というのは、
人間の犠牲を考えるとき、普通は単なる抽象として考えられます。ああ、何人の
人が死にました、と。ただの数字です。ただ数字を出します。第二次世界大戦
[訳注:「第一次」のタイポと思われる]、40万人の人が死にました。南北戦争、
60万人、と。でも5000万人が第二次世界大戦で死んだのです、数でいうと。それ
は人間の立場として、どういうことを意味するのでしょうか。

というわけで、台帳のそっち側は、もし利益に対する犠牲の重みの正確な評価を
本当に求めるのであれば、その犠牲をちゃんと見る必要がある、抽象や統計では
なくて。死んでしまった一人一人の人間の立場で、手足を失った一人一人の人、
戦争の結果盲目になってしまった一人一人の人たち、戦争の結果精神的に傷害を
受けてしまった一人一人の人たちの立場で、それを見る必要がある。台帳のそっ
ち側つまり戦争の犠牲を評価するとき、「それだけの価値があったのか、正当な
戦争だったのか」と問う前に、こういったこと全体を把握する必要があります。
そうです、台帳のそっち側をちゃんと把握する必要があります。

ドゥリュー・ギルピン・ファウスト、彼女の本のこと皆さんご存知かどうか知り
ませんが、彼女が南北戦争のことを書いた本について、すばらしい本の優れた
点、そのひとつについて話します。彼女のこの本の素晴らしい点は、あの戦争で
人間に起きたことを、非常に具体的に、非常に人間的な有様を再現している点で
す。南北戦争は、戦場で麻酔薬もなしに切断につぐ切断につぐ切断が実行され
た、醜い、残酷な戦争でした。ですから、それを評価することには大変な注意が
必要です。これが犠牲なのです。これが本当の犠牲、本当の人間的犠牲だという
ことがお分かりでしょう。

利益については、私が独立革命戦争について質問したのと同じ質問を問いかける
必要があります。誰が得をして、誰が得をしなかったか、そしてどういう階級の
分離があったか。この階級は何を与え、その階級は何を与えたか。

(この人がついてきているかどうか、ちょっと見ているんですが。誰かが私の後
ろに忍び寄っているのを見たら、教えてくださいね)

南北戦争。皆さんは南北戦争について何を学びましたか。北と南との戦い。青対
灰色。戦闘、アンティータム運河、そしてゲティスバーグ。誰が北にいたか。誰
が南にいたか。どういう分離があったのでしょうか。これは奴隷を解放するため
の戦争だった、と。

しかし、同時に、それには、貧しい白人の人々が自分たちにとってそんなに意味
を持たない戦争へと徴集されていったという階級的要素がありました。これらの
人々は、裕福な人々が300ドル払えば徴兵を免れることができるような状況で徴
兵されたのでした。ですから、皆さんのうち何人かの方たちが聞いたことがある
ような叛乱が起きました。ニューヨークやその他の都市で南北戦争中に徴兵叛乱
がありました。

北部には階級闘争がありました。北部の人々の中には戦争中に裕福になった人た
ちがいました。財産を儲けた人たちがいました。J.P.モーガンは南北戦争中に一
財産儲けました。戦争とはそういうものです。戦争は誰かをとても裕福にし、貧
しい人たちはその戦争で戦いにでかけます。

OK、もちろんですとも。肯定的なことを無視するわけにはいきませんから、解
放、奴隷解放ということについて話を戻すことにしましょう。これは小さなこと
ではありません。これは台帳のそっち側の大きなことです。

しかし、南部連合国における階級闘争についてもうひとつ言っておきましょう。
南部連合国内には階級闘争がありました。ほとんどの白人は奴隷所有者ではあり
ませんでした。奴隷所有者は多分、白人6人のうち一人でした。白人が奴隷所有
者というわけではなかった。白人たちはこの戦争で戦っていた貧しい、貧しいお
馬鹿さんたちだった。何のためでしょうか。北部の兵士たちよりもずっと多くの
人たちが死んでいった。南部連合国の犠牲は北部に比べて非常に大きかったのです。

この大騒乱が起きている間、この流血の惨事が拡大していく中、植民地大農園の
所有者たちが食物ではなくて綿を栽培していたため、兵士の故郷の家族たちは飢
えに苦しんでいました。それで妻たち、娘たち、恋人たち、妹たちが叛乱を起こ
し始めました。彼女たちはジョージアやアラバマで叛乱を起こしました。彼女た
ちは自分たちの息子や夫たちが前線で死んでいるのに、大農園の所有者たちが金
持ちになっていることに抗議して叛乱を起こしました。南部連合軍に膨大な脱走
がありました。ですから、階級に関する出来事を調べる必要があります。

さて、南北戦争で起きた非常に肯定的な出来事について、奴隷解放について話を
戻そうと思うのですが、しかしこれは完全には解放ではありませんでした。え
え、ある意味では解放だったでしょう。別の意味ではそうではなかった。さぁ、
南北戦争で60万人の命が失われるというわけですから、これは重要な点で、現在
の人口の割合に換算すると500万人の人口に等しいわけですし、(この地で州と
州が戦って500万人の人たちが死ぬような戦争を想像してみてください)もしか
したら、その結果400万人の黒人の人々を解放して彼らに自由をもたらすなら、
価値のあることなのかもしれませんね。実際のところ、彼らには自由が与えられ
たとは言えません。彼らは準奴隷になっただけでした。

黒人たちは政治家たち、北部の資本家たちに裏切られました。約束につぐ約束を
されましたよ、でもね、もちろん、彼らは厳密にいえば奴隷だとはいえないけれ
ども、何の頼りになる道も与えられないままほったらかしにされた。結局は、彼
らを奴隷として所有していた同じ大農場主の思うままにされてしまい、今や農奴
となってしまいました。今度は小作人農夫になってしまった。今ではひとつの場
所から他へと移動することはできなくなってしまいました。黒人たちはいろいろ
な制限によって閉じ込められてしまった。彼らの多くは嘘の罪を着せられ牢獄に
入れられた。放浪規制が通過したため雇用主たちは黒人たちを道端で捕まえ仕事
を強要しました。奴隷労働の一種です。

私がこのようにあれこれ言って指摘するのは、ほら、私たちは奴隷制を止めたの
だから60万人もの人々が死んでもよかったのではないかということでしょうか。
いや、そうではない。60万人もの人々が死ななくても別の方法で奴隷制度を終え
ることは可能ではないでしょうか。そういう風には私たちは考えませんね。丁
度、流血の戦争をしなくても英国からの独立を勝ち取ることができたかもしれな
いと私たちが考えないのと同じようなことですよ。

流血の戦争とは、暴力で何かを勝ち取るということは、それは上からコントロー
ルされているということです。これは人民の戦争ではありません。革命独立戦争
であろうと、南北戦争であろうと、人民の戦争ではありません。上に立っている
人々がいて、その人たちはこの状態から最も利益を得る人たちです。

ですから、疑問を投げかける必要があります。奴隷制は別のやり方で終えること
はできなかったのか、と。西半球の他の国々で流血の内戦なしに奴隷制を終えた
国々があります。

(まだ、グリーンライトになってますね。第二次世界大戦の話までたどり着ける
でしょうかね。)

私は第二次世界大戦で志願兵になりました。ご存知だったかもしれませんが。も
しかしたら皆さん、私の履歴全部をご存知かもしれません。私自身よりも皆さん
のほうが私のことを知っているかもしれませんね。

私は第二次世界大戦で空軍に志願してヨーロッパの飛行爆撃作戦に参加しまし
た。私がそうしたのは「正義の戦争」だったからです。「正しい戦争」だった。
「正当な戦争」だった。

さてと、戦争が終わってから私はだんだんと考えに考えはじめました。私は調査
をはじめ、物事を確認し、ヒロシマとナガサキについて学びはじめました。それ
はいつヒロシマにその原爆が落とされたかということが原因でした。私はヨー
ロッパへの派遣を終えたばかりで、その後太平洋にでかけて爆弾投下を続けるこ
とになっていました。そうしたらヒロシマに原爆が落とされ、その後すぐに戦争
が終わりました。ああ、それはよかった。私はそれを歓迎したものでした。

私は本当にその爆弾がヒロシマに落とされたときに何が起きたのか知っていたで
しょうか。その人々に何が起きたのか知っていたでしょうか。そこにいた何十万
人にもおよぶ人々、それら男性、女性、子供たちにとってそれがどういうことを
意味していたか、私は分っていたでしょうか。いいえ。知りませんでした。それ
について考え始めたとき、それまで考えたことのなかった人たちのこと、自分が
落とした爆弾を受けた人々のことについて考え始めました。私にはその人たちの
ことが見えませんでした。3万フィートの高空を飛んでいれば誰も見えません。
ただ爆弾を落とすだけです。

現在の戦争は非常に冷淡この上ありません。人々は軽率に、まったくパイロット
もなしにプレデター・ミサイルなんかを撃ち込むのですよね。それは簡単なこと
です。ただ人を殺して、誰かが撃ち落される心配もいりません。

ナガサキ原爆の3ヶ月前、私たちは東京に焼夷弾を落とすために飛行機を飛ば
し、東京大空襲で10万人もの人々が一夜にして殺されました。

後で、私が日本を訪れたときにそこの人たちと話をしました。その後ヒロシマを
訪れ、ヒロシマの生存者の人たちと会いましたが、皆さんにも彼らのことを見て
ほしかったですよ、足や腕のない人たちや盲目の人々など。私がそれはどういう
意味かを実際に理解したとき、戦争、5000万人もの死者を出した戦争のこと。こ
う言えますね。さて、私たちはファシズムを負かしたと。さぁ、そうでしょう
か。本当にそうだったのでしょうか。

革命独立戦争はまた別物です。だって、革命独立戦争の後、すべてがそれほどう
まく行きませんでした。すべてが素晴らしい結果になったわけじゃないし、しか
もあれだけの多くの人たちが殺された戦争なのですからね。

では5000万人もの死者を出した第二次世界大戦はどうでしょうか。もちろんヒッ
トラーを退治しました。日本の軍国主義を倒し、ムッソリーニを退治しました。
しかし、世界のファシズムを退治したでしょうか。軍国主義をなくしたでしょう
か。人種差別を退治したでしょうか。戦争をなくしたでしょうか。私たちは戦争
につぐ戦争につぐ戦争をやってきました。これら5000万人の人たちは何のために
死んだのでしょうか。

私たちはこの戦争の問題について考え直す必要があります。

(会場でタイムキーパーをやっている人はきっと居眠りをしているんだろう、と
いう結論に達しました。大丈夫、私は彼を起こすようなことはしませんよ)

皆さんも私と同じような結論に達するべきでしょう。戦争はどんなことであろう
と受け入れることはできません。どんなことがあろうとも。どんな理由を与えら
れようとも。自由、民主主義、これ、あれ。戦争はその定義からして膨大な人数
の人々を不確定な目的のために無差別に殺戮することです。手段と結果とを考え
るとき、倫理的な問題を考え、それを戦争に当てはめます。手段は必ず悲惨なも
のです。結果は不確定です。それだけで、躊躇するべきことでしょう。

そして、もちろん、ある質問を必ず出してくる人たちがいます。そういう問いは
常に私に問いかけられてきたので、先手を打ちましょう。例えあなたたちの頭の
中に浮かんだだけの質問だとしても、皆さんから訊かれる前にね。「そうです
ね。でも他に私たちは何をするべきだったのでしょうか」こう訊かれるんです
よ。これこれ、あれそれについて、またはイギリスからの独立について、または
奴隷制度について、私たちは一体他に何をすればよかったのか、とね。ところ
で、奴隷制について興味深いことですが、ジョン・ブラウンは奴隷を解放するこ
とを望んでいました。それは南北戦争の一年前のことでしたよ。いいですか。
ジョン・ブラウンはそれをやろうとしていましたが、あまりうまくいきませんで
した。奴隷の叛乱を起こそうとして、それが大きく、次々と広がっていくことを
ジョン・ブラウンは望んでいました。そんな風にして奴隷制度を終えることがで
きたかもしれませんね。ジョン・ブラウンは合州国政府とバージニア州によっ
て、このような暴力を使ったという罪で処刑されました。その次の年、政府は60
万人もの死者を出した戦争を起こし、そんなやり方で奴隷制度を終えたというこ
とで皆がお祝いをしている。どういうことでしょうか。

ここで言っておきたいことがひとつあります。こういう質問があります。「あな
ただったらどうしたでしょうか」。こういうことを言う人たちがいます。「じゃ
あ、ヒットラーはどうだ。何かしなければならないだろう」。そうです。こうい
う事柄については何かをしなければなりません。抑圧されているならば、独立を
勝ち取るために何かをしなければなりません。奴隷制度があるならば、奴隷制度
について何かをしなければならない。ファシズムについて何かをしなければなら
ない。こういったすべての事柄について何かをしなければなりません。しかし、
戦争を起こす必要はありません。私たちに脳みそが少しでもあるんだったらね
(あるのかどうか、分りませんね)。私たちは賢いはずです。私たちは賢いんで
すよ。本当にたくさんのやり方があります。まったくのところ、戦争と無抵抗と
の間には何千もの可能性があることくらい理解できるはずですよ、そうでしょう。

いったんある歴史的事件が一定の形で起きたら、歴史が一定の形で進んでいった
ら、例えば、ヒットラーがチェコスロバキア、ポーランドに侵攻したとたん、私
たちは戦争に行く、ということになるのはおかしいです。戦争は何年も続きま
す。そして戦争が終わる。いったん戦争が一定の形で進んだら、ファシズムが終
わる、そんな風に物事が進んだら、他のやり方で物事が達成されたかもしれない
ということを想像することがとても難しくなる。歴史である物事が起きると、そ
れが必然的であるかのような雰囲気ができてしまう。こうなるしかなかった、
と。違います。

歴史の多くの場面で、想像もつかないような驚くべきことが本当にたくさん起き
ます。本当に。アフリカ民族会議がアパルトヘイトのシステムに対して流血の叛
乱戦争を起こすことに決めたとしたら、それは正当化されたかもしれません。ア
パルトヘイトを終えるために、そうだ、戦争をしなければならない。それでアパ
ルトヘイトが終わる。何百万もの人々が殺されるでしょう。ほとんどが黒人の人
たちでしょう。もしそのような形になったとしたら、あなたはこう言うかもしれ
ませんね。「まぁ、そうするしかなかったでしょう」と。でも、アパルトヘイト
が終わったのはアフリカ民族会議がこう決めたからです。「いいえ、私たちはそ
れを望みません。私たちは別のやり方で目的を実現します。私たちは無抵抗には
なりません。私たちはいろいろな方法で戦い返します。ストライキをやります。
あらゆる手段を考えます。経済的な圧力をかけます。私たちはありとあらゆる手
段でこの圧制を打倒し、その権力を崩していきます。しかし、私たちは結局自分
たち自身がほとんどその犠牲になるような流血の戦争はしません」と。

というわけでやっと終わりました。皆さん、救われましたね。ま、私の言いたい
ことはお分かりになったでしょう。私の言いたいことはこれだけです。

原文:
http://www.zmag.org/zvideo/3322
ビデオリンク:
http://www.youtube.com/watch?v=3zUS_oh4XeU

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909

投稿者: Kana Koto  <kanakoto1@h...>
Date: 2010年8月30日(月) 午前1時02分
タイトル: 速報861号 機密と嘘:安保、イラク戦争での日本の役割と憲法

 
草の根運動こそ歴史を変えていく力
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
自衛隊イラク派遣の検証作業に向けての取り組みにみられるように、日本でも
市民の力によって少しずつ歴史が動かされてきました。民主主義の本質は日頃
のそういった運動の中で直接行動に出る人々の努力の積み重ねによって生まれ
る変化の状態のことであり、数年に一度行われる選挙投票だけが民主主義の姿
ではありません。

現に、昨年に選挙で多くの国民の支持を得て政権の座についた日本民主党は早
くも行き詰まり、鳩山の突然の首相辞任、後任の菅による一方的な政策方針の
転換で、結果、有権者の意志に背くかたちとなりました。そして、私たちの生
活はさらなる日米軍事同盟の強化の過程の中におかれたままです。自民党政権
時代から続いてきた政府によるこうした行為は民主主義を否定し、戦争放棄が
理念である日本の平和憲法までもが長いあいだ違憲状態にあるということを物
語っています。

しかし、9条が平和の意志の表れである以上、今こそ私たち一人一人がそれを
体現しなければなりません。紙の上に書かれたその条文を、ただ眺めているだ
けの時代から脱却しなければなりません。そのためには、マスコミの政局報道
に惑わされず、同じ問題意識を持つ仲間をみつけ、民主主義状態をつくり出し
、その中に身をおき、時には政治を動かす力にもなるその草の根運動こそ、私
たち自身の将来のための問題解決手段であると信じ、行動し続けることが大切
です。

今年初めにジャーナリストのディビッド・マックニールによって書かれたこの
記事は、それを思い出させるものです。なによりも、記事の中の活動家らが直
面してきた困難は、同じ社会にいる誰もが直面することであり、私たちはこれ
まで以上にそのことを自覚するべきです。そして、ここから先に進むも後戻り
するも私たち次第です。

最後に、記事の翻訳はいつものようにTUPメンバー同士が協力して行ったもの
で、そのことも一人でも多くの人に知ってもらいたい事実であり、少しでも平
和運動の広がりにつながれば幸いです。

前文と翻訳: 服部健(TUP)

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
機密と嘘:安保、イラク戦争での日本の役割と憲法

ディビッド・マックニール

日本は1月19日、反対勢力が違法で日本の非戦憲法に違反したと主張する日本
自衛隊イラク派遣に関する調査を求める声が高まる中、日米安全保障条約調印
から50周年を迎えました。しかし、米国とイギリス両国による2003年イラク
侵攻の原因と正当性を巡る激しい論議とは対照的に、日本での公の論議は沈黙
し、公式調査が行われることはないでしょう。

公式調査のない中、戦争の暗い隅で掘り起こし続ける行為のほとんどは、草の
根の活動家達によって行われてきました。近藤ゆり子は、国の民主的機構がよ
うやく結果を産み出したことについて、彼女の驚きを振り返ります。

彼女が3年にわたって求めていた、イラクでの「人道的任務」を支援するため
の何十億円もの納税者のお金を日本政府が2004年1月から2008年の終わりま
でにどのように使ったのかという情報は、おそきに失するとはいえ、部分的に
開示されました。そしてそれは待つことに価するものでした。

2009年9月下旬、新防衛大臣の北沢俊美は情報公開法に基づき、2006年7月
と2008年12月のあいだに航空自衛隊によって輸送された26,000人の兵士の
およそ67パーセントが米国の軍服を着ていたことについて公表する短い書類
の公開を突然認めました。つまり、航空自衛隊が米軍を戦闘地域の内外へと運
んでいたというものです。

問題点がわからないといけないので、岐阜県大垣市出身で60歳のベテラン平
和活動家の近藤は、日本国憲法は自衛隊が戦闘行為に参加することや戦争地域
で兵器または砲弾を輸送することを禁止していると丁寧に説明しました。彼女
は、自衛隊は2年間、「法律を鼻先であしらい」、そして政府は墨消しされた
書類と、それらの情報を公表することは「活動を妨害し」、「日本の評判を傷
つける」という趣旨の、いつもの防衛省の言葉の壁で違法性を隠蔽した、と批
判します。

日本のいわゆる戦争放棄の憲法に触れ、彼女は、「自衛隊をイラクに送ったこ
とは、ばかげていて違法だった」、「この書類がそれを証明した」と言います
。

近藤の見解は一つの画期的な判決によって支持されました。2008年4月、名
古屋高裁は、航空自衛隊による連合軍の空輸は違憲であり、憲法第9条(戦争
放棄)と、2003年にとりわけあわただしく書かれた「イラク復興支援特措法」
の双方に違反すると言明しました。「イラク復興支援特措法」は、日本の軍隊
が「非戦闘地域」の中でのみ行動することを条件に、自衛隊派遣について法的
な体裁を繕うために制定されたものです。

「現代の戦争行為では、人員と補給品の輸送は戦闘のカギの部分を構成する」
と、裁判官の青山邦夫は結論づけ、「バグダードへの多国籍軍の輸送は・・・
他国による兵力の使用に加担することになる」としました。

その当時自民党主導だった政府は異議を唱え、それどころか、名古屋高裁に持
ち込まれた集団訴訟の1,100人の原告による補償の申し立てを破棄したことを
理由に、その判決は勝訴だと宣言しました。

内閣官房長官の町村信孝は違法性の批判を無視し、非現実的にもバグダードが
「非戦闘地域」だったと主張しました。航空自衛隊の乗組員達は、2008年12
月までクウェイトに滞在し続け、そこでその問題は北沢のその爆弾発言ともい
える声明まで従前どおりでした。そしてそれは2009年8月30日の地滑り選挙
で圧勝して政権を獲た日本民主党が、政府が公然と何年も続けてきた偽りのイ
ラク政策を覆すことを選ぶ可能性を示唆しているのかもしれません。

近藤は、発表はおそらく、新しい民主党政権の圧力に起因したとの見方には同
感するものの、単に防衛省がもはや自衛隊について人々がどう思っているかを
気にしていないと考えています。「防衛省が基本的にこの情報の公開が将来そ
の計画を妨害しないであろうと推測した」と、彼女は言います。

防衛省がこの推論を採用したのは、すでに政府が大衆の反対を無視し、憲法を
軽視し、その戦争が引き起こしたわずかなメディアの批判を無視できると証明
したからだ、と近藤は考えています。前例がつくられたことにより、海外での
さらなる軍事的冒険のための道が敷かれ、「もし、政府が将来、私達は以前に
これをやったのだと言えば、日本の市民はそれを受け入れるでしょう」と、彼
女は論じます。

自衛隊派遣について政府調査を求めるロビー活動を行っている弁護士の川口創
は、「私達が日本の歴史の中のこの事件の真相をきわめなければ、その代償を
支払うことになる、しかし、政府に挑戦することの必要性の意識はなく、誰も
関心があるようにみえない」と言います。

川口は、公文書がさらに多くのことを伝えることができるかもしれないと考え
ています。イラク南部のサマーワに拠点を置いた自衛隊の歩兵部隊は、地元住
民への「人道的援助」のみ携わっていたのでしょうか?地元の反勢力は、何人
もの人が信じるように、日本の部隊を攻撃するのを防ぐために買収されていた
のでしょうか?そして財政面では、その全5年の任務がどれほど日本の納税者
の負担になったのでしょうか?日本政府はそのイラク行動の費用の見積もりを
公開していません。

2003年3月20日に開始されてからほぼ7年、米国の導いたイラク戦争は、欺
瞞で壮大な愚行であると広く認識されています。

現在、だれもが知っているように、侵略のために正当化の理由として真っ先に
使われた大量破壊兵器(WMDs)は、一度も実証されませんでした。同様に、ア
ル=カーイダとの重要なつながりは一度も見つかりませんでしたし、民主主義
と繁栄を約束されたその国家は現在、破壊され、宗派分立し、細分化された国
になってしまい、民族浄化によって、スンナ派とシーア派のイスラーム教徒が
隣同士あるいは同市内に住む可能性が事実上、排除されています。国連難民高
等弁務官によると、200万人以上のイラク人が海外に逃避、おそらく他の270
万人が国内の他の場所へ移住していて、最も信ぴょう性のある全体の死者数は
10万人をはるかに超え、100万人をも上回っています。

米国内でのさらに幅広い「テロとの戦争」の影響もまた深刻です。その影響に
は、拷問の正当化、政府の監視の広がり、人身保護法の破棄、グアンタナモ、
いわゆる特例拘置引き渡しの組織化、CIAの卑劣な手段、そして巨額のコスト
-- 経済学者でノーベル賞受賞者のジョゼフ・スティグリッツによれば、イラ
クとアフガニスタンに3兆ドルが費やされ、今も増え続けている-- が含まれ
ています。スティグリッツは、戦争をするというジョージ・W・ブッシュの決
断の代償を、平均的アメリカ人が何十年間にも渡って支払うことになると指摘
します。

しかし、少なくとも米国とその主要な軍事パートナーのイギリス国内では、あ
る種の精算が行われています。継続中の公の論議から発し、バラク・オバマ大
統領から拷問とグアンタナモについて自らの過失を認める及び腰の発言と、イ
ラク侵略時のイギリスの首相トニー・ブレアによる、大量破壊兵器があっても
なくてもイラクを侵略するつもりだったとの驚きの告白があります。そして、
それは2009年6月にゴードン・ブラウン首相によって発表されたもので、20
10年6月に報告期限が設定された政府による現在のイラク検証に関する証言に
先立つものです。

日本では、自衛隊は最終的に2008年12月にイラクから撤退しましたが、政府
調査やその戦争への前段階の主な発掘は無く、そして何が起こったのかを掘り
起こす作業に主流メディアによる関心は無いと、日本共産党「しんぶん赤旗」
のジャーナリスト竹下岳は嘆きます。

イラクでの自衛隊の役割

竹下は昨年、2004年3月と2008年12月のあいだに航空自衛隊によって輸送さ
れた4万5千人のうち、わずか6パーセントが国連のために働いていたことの証
拠を明らかにしました。航空自衛隊の活動の大半は米軍を運ぶことに関連して
いました。イラク戦争を日本の一般の人々に受け入れさせる根拠だった「人道
的復興支援」の任務など、そんなものだと彼は結論づけています。

民主党幹部議員の近藤昭一は、その派遣のための最終的な値札は誰も知らない
と認め、彼が支持するようなイギリス方式の調査はありそうもないと考えてい
ます。彼の評価によれば、実際には彼の党の「半数以上」がイラクに侵略する
決断を受け入れがたく思っていたということです。「しかし、そのような調査
に対する圧力があるようで、結局、日米関係に与える衝撃に懸念を持つ多くの
人達がいる」と彼は考えています。

それでも近藤は、前党首(2000-04)**で現在の財務大臣の菅直人と鳩山由紀
夫首相を含む民主党幹部のメンバーは、イラクでの戦争の遂行に反対でしたが
、官僚機構と1960年1月19日に調印された日米安全保障条約が政治のプロセ
スに重くのしかかっていると言います。

**訳注: 実際には菅直人が党首だったのは2002年12月から2004年5月、また
この原稿が書かれた時点はまだ鳩山政権下で菅直人が財務大臣だった

昨年11月、民主党内閣官房長官の平野博文は、自衛隊派遣が合法的であると言
明し、そのイラクへの自衛隊派遣の事後分析の一切の希望を事実上にぎり潰し
、2004年に党首としてそれを憲法違反だと言った菅の結論を覆しました。平
野は、「野党として我々は彼等が送られたその地域が非戦闘地域かどうか、決
めることができなかった」、「しかし、我々は(現在)それが非戦闘地域である
と認識するため、そこでの自衛隊の活動は合憲だったと判断した」と、言いま
した。

平和活動家の近藤ゆり子は、その声明を「信じられない」と言います。しかし
、彼女は政治家と同じくらいジャーナリストを非難します。「マスコミが政府
が責任を覆い隠すことができる理由であり、新聞の大見出しにならないものは
なんでも取り下げ、情報を掘り起こさないし、長期調査報告を行わない、これ
が日本の市民が過去を忘れることを許してしまう」と、彼女は見ています。

近藤、竹下、川口も、また彼らに対抗する航空自衛隊前航空幕僚長の田母神俊
雄のような新保守主義者達も、少なくとも一つのことに関しては同じ考えです
。それは、日本の秘密主義で複雑に入り組んだ防衛政策の根源が、憲法第9条
「戦争放棄」をつくった戦後、米国主導の連合国による占領があるということ
です。

平和主義者達や反戦活動家達は、9条が近代国家の新しいタイプになるように
みえたもの、すなわち明確に帝国主義と戦争を拒否する国家をつくり上げる助
けになったので、それにこだわります。

田母神空将、9条と憲法

日本が白人であるヨーロッパ人の、アジアにおける植民地政策を終わらせた功
績が十分に認められなかったと公の場で主張したため、2008年に解職された
田母神は、まったく同じ理由で9条を嫌います。彼は「その狙いは日本を弱体
化することだった」と言います。

「それが日本の自衛隊が法律によって束縛され、自衛隊自らが望むように動く
ことが許されない理由であり、国が集団的自衛権を行使し、攻撃的行動をとる
、あるいは武器輸出をすることができない理由であり、それが非核三原則によ
って束縛されている理由であり、その占領からずっと国は手足を束縛されたま
まである」と、彼は、12月に筆者が行ったインタビューの中で述べました。

田母神は憲法に反対する見解を持つ著名な政治や軍関係者でも最新の人物です
。彼は自衛官の「三分の二」が彼の見解を支持していると断言しました。「私
は多くの政治家によってもまた支えられているが、彼等にトラブルを起こすか
もしれないので彼等の名前は言えない」(安倍晋三前首相[2006-07]と麻生太
郎前首相[2008-09]が彼の支持者であったかどうかを聞かれるとすぐ、田母
神はそうだと暗示しました。)

米国の防衛関係者は長い間、9条を維持するために戦ってきた日本の平和主義
者よりも、イデオロギー的に田母神と彼のたぐいに近かったのです。1946年
、米国演出による戦後の「平和」憲法が公布されるやいなや、日本の新しい
軍事同盟国は、中国とロシアの共産主義に直面して再軍備を迫り始めました。
その脅威は、その地域中に米国の力と軍事基地のおびただしい発展を招き入れ
ました。

安保と日本の非核三原則

1967年に佐藤栄作首相によって概略され、1971年に国会によって正式に採
択された、日本が決して核兵器の製造、所持、あるいは国内への持ち込みを
許さないと誓う原則の、日本のいわゆる非核三原則でさえ、平和主義の外面を
維持するために必要だった政治的試算から安泰ではありませんでした。

その非核ルールは、1969年に佐藤とリチャード・ニクソン大統領によって署
名された米国政府と日本政府のあいだの密室での取り決めによって、台無しに
されました。その起源は、少なくとも4年、1965年7月に東京の米国大使館で
署名されたメモにまでさかのぼります。

数十年のうわさを経て、核兵器搭載の米国船舶と航空機を日本の領域上どこで
も通過、あるいは行き来することを認めるその密約が、昨年夏に日本の外務省
高官によって確認されました。結果的に、自民党が何年も協定の存在について
嘘をついていたことは争う余地がないようにみえます。事実、鳩山が密約を調
査する任務を課したチームは、昨年11月にその存在を証明するファイルを外
務省で発見したことを報告しました。

1960年に日米安全保障条約を書き直すための困難な交渉のあいだに合意され
たその取り決めは、一つの「誤った解釈」に依存していたと言われています。
日本政府は、どのような核搭載艦の入港、あるいは上空飛行の前でも、事前の
相談を受けることになると考えていたと断言しましたが、米国政府にはそのよ
うな理解がありませんでした。

自民党は反対の事実を知った時、黙認しました。「立場の変化を公的に認める
かわりに」と、大手のリベラル寄りの朝日新聞は昨年言いました。実際に、自
民党政治家達は1971年に日本の国会が正式に非核原則を採択した後でさえ、
くり返しその取り決めを否定し、佐藤前首相は「日本の核兵器計画のためのど
のような計画にも反対」したとされて1974年のノーベル平和賞を受賞しさえ
しました。

今日、官僚の公式のせりふは、未だに、協定は存在しないということです。

憲法に保障された自由をなし崩しにしていくこと

米国と同様に、イラクで冒険的な行動を行った日本の負担は財政だけに限られ
ていません。弁護士達や人権活動家達は、反戦活動家に対するいくつものテス
トケースに驚き、9/11後の日本国家が憲法の自由を攻撃していると言ってい
ます。

2009年11月30日に最高裁判所は、2004年12月に東京の分譲マンションで
反戦ビラを配った62歳の住職の荒川庸生を不法侵入の有罪と表明しました。
荒川の23日間公判無しの拘留、あるいは、苦情を言ったらしい一人の怒った
住人の平穏よりも、すべての人々にとってもっと重要なことが危険にさらされ
ているという彼の主張について、裁判所はほとんど何も言いませんでした。

その前の年、最高裁判所はまた、国と東京西部の立川に拠点を置く三人のベテ
ラン平和活動家達とのあいだの4年の法廷闘争も終わらせました、2004年2月
に彼等が自衛隊員の郵便箱に反戦ビラを入れたことにより不法侵入したと判決
を下した時にです。平和的で大部分が力のない運動が何年も続いたあと、その
三人の逮捕、彼等の75日間の拘留と歴史的な有罪判決は、当局がイデオロギ
ー上の敵に対して戦争に踏み切ることを決めていたと見せつけるようでした。

有罪の活動家の一人、52歳の給食調理員の大洞俊之は、「彼等は、彼等が求
める9条の終焉を勝ち取る前に、私達のような人々を骨抜きにする必要があ
る」と、言いました。

大洞や運動を行っている弁護士の川口創は、同じテクニックが他の標的に使わ
れるであろうと予測しており、その通りであることがわかりました。

1月、日本では増加する失業と貧富の格差拡大への怒りの真っただ中で、東京
の中心部新宿区では小さな反貧困の抗議者集団が警察によって妨害され、彼等
はビラを配布することで逮捕されることもありえることが伝えられました。

市民ジャーナリストの国際ネットワーク、グローバル・ボイスのインターネッ
ト上で引用された目撃者の証言によると、一人の警察官が、「言論の自由を保
障するために、日本の人々の平和を維持するために、(我々はこれを行ってい
る)」と言いました。

他の活動家達は同様に標的にされています。法律家達は、自民党の元で導入さ
れた東京都安全・安心まちづくり条例の2009年の改訂は、市民の抗議を抑え
るもう一つの試みだと言います。

「もし軍隊を海外に送るなら、本国での自由は衰退する」と、川口は言います
。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
ディビッド・マックニールは、インディペンデント紙と、アイリッシュ・タイ
ムズ紙とクロニクル・オブ・ハイヤー・エデュケーションを含む他の出版物に
執筆しています。彼は、アジアパシフィック・ジャーナルのコーディネーター
です。これは、2010年1月24日にジャパン・タイムズに載った記事の改訂、
拡大版です。
http://search.japantimes.co.jp/cgi-bin/fl20100124x1.html

推奨引用: ディビッド・マックニール、『機密と嘘:安保、イラク戦争での日
本の役割と憲法』、アジア-パシフィック・ジャーナル、7-5-10、2010年
2月15日付。

原典: David McNeill, "Secrets and Lies: Ampo, Japan's Role in the
Iraq War and the Constitution," The Asia-Pacific Journal, 7-5-10,
February 15, 2010.
http://www.japanfocus.org/-David-McNeill/3305

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910

投稿者: tup_bulletin  <tup@l...>
Date: 2010年11月30日(火) 午前0時25分
タイトル: 速報862号 ドナより ファッルージャの赤ん坊と私の誕生日の願い事

 
私たちがやらなければならないことは、すべて私たちにできることです
===================================
オーストラリア人女性ドナ・マルハーンは、2003年の春にはイラクで
「人間の盾」に参加した。04年春にはイラクで米軍包囲下のファッルージャ
に入り、その帰路地元レジスタンスによる拘束を経験し、つぶさにその報告を
してくれた。04年冬から05年春にかけてはイラク・パレスチナ「巡礼の
旅」を伝えてきた。05年8月には、シンディ・シーハンのキャンプ・ケー
シーに駆けつけ、アメリカからの報告は、ほとんど実況中継だった。05年1
2月にはオーストラリアがイラク戦争に最も貢献してきたパイン・ギャップ秘
密基地に侵入し、「市民査察」を強行して逮捕されたが、08年2月に無罪判
決を勝ち取った。09年末から10年初頭には、イスラエルによる包囲封鎖に
苦しむパレスチナ・ガザ地区に入って援助を届け、現地から報告してきた。1
0年2月に、『普通の勇気――わが旅、人間の盾としてバグダードへ』を出版
した。

今回は、来年早々にもドナが、異常出産が続発するファッルージャに行くとい
う話です。これまで劣化ウランとファッルージャでの異常出産の関連はTUP速
報でも報告されてきました。劣化ウラン研究会の山崎久隆氏による速報841
号です。
http://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=873
自分自身もイラク滞在中に劣化ウランに被爆しているドナが、ファッルージャ
住民からじかに話を聞くと言い、支援を訴えます。

なお本稿では、「生物として外見上先天的な形態異常を示していること」だけ
を意味し、それ以外のことを意味することも示唆することもない言葉として
「畸形」という表記を使っています。「奇形」ではなく「畸形」とした理由を
御理解いただきたいと思います。
(翻訳:福永克紀/TUP)
===================================

ファッルージャの赤ん坊と私の誕生日の願い事
ドナ・マルハーン
2010年11月16日

お友達の皆さんへ

今日(16日)は私の誕生日ですので、一緒にお祝いしてくださるように皆さ
んを招待したいと思います!

もっと具体的に言うと、何にもまして是非いただきたいと思っているプレゼン
トがあるのです。それは、緊急に語る必要のある話を語る機会、自分たちの話
をほとんど聞いてもらえない人々に声を与える機会です。その人たちとは、戦
火に引き裂かれた埃っぽい中東の町で、戦争を生き抜くために足掻いている女
性や子供たちのことです。彼らにとって戦争は決して終わっていません。

それどころか、新たな戦争が毎日ファッルージャ市立病院の産科病棟で始まっ
ており、そこの婦人科医は毎日平均して3人の重度畸形児が生まれていると
言っています。現在では比較的小さくなってしまったこの町で、これは年間1
000人以上という数字です。多くの胎児が死産となり、数時間後に死亡する
嬰児も多く、生き残った者の大多数が数カ月しか生きられない、それほど赤ん
坊の異常が重度なのです。ファッルージャの墓地には小さな「赤ん坊」の墓が
いくつもあります。1歳の誕生日を迎えられた子供たちは、専門的な集中看護
を残る生涯必要とするでしょう。

ファッルージャの女性たちに対する産科医の医学的助言は、いたってシンプル
です。「止めなさい」。子供を作るのは止めなさい、妊娠するのは止めなさ
い、なぜなら健康な赤ん坊を産まない可能性が高いから。

こういう言葉にはショッキングな示唆が含まれています。母親になることもな
い若い女性の一大世代。光を見ることも、笑うことも、愛を感じることもない
赤ん坊の、小さな人類の一大世代。

これがファッルージャの今の生活、ニューカッスルやウロンゴングと同じよう
な大きさのかつて栄えていた町の生活です。増大する家族、賑わう市場、華麗
なモスク、競技場、学校、産業、そして有名なイラク全土「最上のファラフェ
ル」などで、かつて活気に満ちていた町。

今や毒に冒され、戦争で疲弊し、実質的なゴーストタウンであるこの町の住人
は、この町から逃げ出すことさえ購えないか、どこにも行き場のない人たちで
す。

ファッルージャの畸形児誕生が劇的に上昇し始めたのは2005年で、それは
この町に対する米軍の激しい攻撃が2004年4月と、再度2004年11月
に加えられた翌年でした。この攻撃では黄リン弾(別名白リン弾)ばかりか劣
化ウラン弾が広範に使用され、こういった物質の有毒性とその結果による地元
生態系への汚染こそが、成人の癌や白血病の増加も畸形児出産の増加もその原
因であると言われています。これは人間に対する劣化ウランの影響に関して私
たちが保有する証拠に従えば、論理的結論だと思われます。しかし米軍は、
ファッルージャでの劇的な畸形児の増加と化学兵器の使用との間に関連を示す
明確な証拠などないと主張して、問題があるとは認めていません。米軍の主張
は、種々の報告は散発的な事例であり、米軍が応えるべき正確な数字や調査な
どないというものです。そのように、世界中の医者、イラクおよび国際的な人
権団体、医療NGOの嘆願にもかかわらず、米軍はそれに応えることをWHO(世界
保健機関)と同様に拒否しています。同時に軍事占領が、調査を行なうために
西側研究者がファッルージャに行くことをほとんど不可能にしています。そう
した事態にも関わらず、英国科学者クリス・バズビー教授率いる調査団が実際
にこの町に入り、大規模調査を敢行しました。その調査結果は政府と真っ向か
ら対峙して政府の対応を求めるものです。保健に関するある国際的な専門誌に
今年発表されたその調査が、ファッルージャにおける出生異常ならびにその他
の癌や白血病などの健康問題は、原爆が使用された後のヒロシマやナガサキの
生存者よりも悪いと結論付けました。

繰り返します。ファッルージャの健康問題は、ヒロシマとナガサキのその後の
状態よりももっと悪いと考えられる。このバズビー教授の報告は以下で手に入
れることができます。
http://www.mdpi.com/1660-4601/7/7/2828/pdf

この問題に関する報道記事と短編ドキュメンタリーは以下で見つけられます。
http://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/toxic-legacy-of-us-assault-on-fallujah-worse-than-hiroshima-2034065.html
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/8549745.stm
http://www.youtube.com/watch?v=PFqyK8kB1Vk

この話がオーストラリアや米国メディアのレーダーには引っ掛かっていないこ
とは、皆さんもお気づきかもしれません。しかし皆さんも、これは広く語ら
れ、迅速な行動で応えるべき話題であると合意してくださるはずだと思いま
す。ファッルージャの赤ん坊たちは正当に扱われるべきであり、ファッルー
ジャの女性たちには希望を持ってもらうべきです。

ここに皆さんが登場する場面があります。非常勤の教授であり作家でもあるリ
チャード・ヒル博士と私自身が共同して、ファッルージャの赤ん坊の話を家族
たち自身の観点から伝えていこうと決めました。このようなことが二度と起き
ないように、劣化ウラン兵器(DU)を禁止する世界規模のキャンペーンに貢献
するために、私たちは本やドキュメンタリーや資料を作りたいと思っていま
す。

これを実行するためには、私たちはファッルージャに行かなければなりませ
ん。その目的は、バズビー教授の科学的データおよびその他のデータを使い、
子供の話や母親の嘆き、家族の苦闘や町の長老の意見などを通してそれに人間
的な側面を添えることです。しかし、皆さんもご想像できるように、ファッ
ルージャ入りを果たすには実行上の大きな難題があって、そこに皆さんがたの
援助を必要とする理由があります。この派遣団の費用と特別な危険予防策に必
要な費用は、私たち自身で都合できないほどの非常に大きな予算を意味しま
す。

私の最初のお誘いは、リチャードと私を来年早々にもファッルージャに送り出
してこれを実現する手伝いを皆さんにお願いすることです。一緒になってこの
話が必ず語られるようにできるのです。正義と説明責任と劣化ウラン兵器の使
用の終焉を確実にするこのキャンペーンにまだまだ足りない部分にも、皆さん
が手を貸すようにお招きします。私たちが必要とする援助には、ウェブサイ
ト、国連新決議を成立させるための政府に対する働きかけ、情報の伝達拡大、
グラフィックデザイン、各自グループ内でのこの問題の宣伝などがあるでしょ
う。

その内にもっとたくさんのことが必要になるでしょうが、まず始めに、私の誕
生日に、最も役に立つプレゼントを私に与えてくださることができます――ど
うかこの実行手段の支援を求める訴えに、あなたが出せる額の献金を願いしま
す。20ドル[訳注:約1600円]、50ドルなど、小額でも皆さんの多く
が応えてくだされば、この企画が可能になります!

この企画は、劣化ウラン禁止国際キャンペーンに多大な貢献をするものだと信
じています。(現在私たちはクラスター爆弾を禁止する国際的条約を実現させ
たのですから、劣化ウラン兵器にも同様なことができます。)この企画は、
ファッルージャに正義を確立する手助けができ、何にもまして、しばしば政府
と商業メディアから見放されてきた人々の苦痛を理解する手助けとなります。
この企画は、皆さんすべてになり代って、「許してください、私たちは変化の
ために働きます」と言える機会を与えてくれるでしょう。

私にとってこれは個人的なことです。皆さんの多くは、私の劣化ウランとの密
接な繋がりを御存じでしょう。2003年に私がバグダードで出会った赤ん坊
のヌーラ、劣化ウランに汚染されて手も足もなく生まれたこの赤ちゃんとの私
の関係。この子は胴体と頭部だけですが、彼女の笑顔とエネルギーが私に深遠
な影響を与えてくれました。それからアリアン、バグダード小児病院で会った
バスラ出身の女の子で、1991年の湾岸戦争で使われた劣化ウラン弾のため
に白血病で瀕死の状態でした。私とこの子の交流は強力であり、また神聖であ
り、私には決して忘れえないものでしょう。私の本『普通の勇気』は彼女の思
い出にささげられています。というのは彼女の手助けで、私たちがやらなけれ
ばならないことはすべて私たちにできることだ、と理解できたのですから。今
回のようなショッキングな状況に遭遇した時には、それが私たちを力づけてく
れることになります。

私は、米軍の攻撃が行なわれた時の2004年4月にファッルージャにいまし
た、そしてそこで行なわれた市民大虐殺の目撃証人です。

さらに、イラク滞在中に私が劣化ウランに曝露されている事実があり、それが
私の出産選択肢に影響を与えてきました。(この説明は私の本の最後の章にあ
ります)

ファッルージャの女性の話は私の話なのです。彼女たちの赤ん坊は私たちの赤
ん坊なのです。

アリアンが、瀕死のイラク人少女が、白血病に冒された全身で、会ったその日
に私に希望を与えてくれました。それは、自分には彼女を救えないけれど、自
分ができないことでいつまでも泣いていてはいけないと教えてくれたからで
す。自分に何ができるかを考えよと勇気づけてくれました……自分が誰である
かを考えよと、そして変化に寄与するためには実際に何ができるかを考えよ
と。

私は医者ではありません、でも私にはメモ帳とカメラがあります。私は科学者
ではありません、でもファッルージャに行くことはできます(その道は知って
います)、そこで人々の話を聞くことができます、その話に声を与える手助け
ができます。それが私にできることです。

そしてそれは始まりにすぎません。皆さんがた全員と一緒に、それ以上のこと
をやりましょう。

皆さんの巡礼者
ドナより

追伸:もし私の誕生日の願い事に寄与できるなら、銀行口座詳細は以下です。
Commonwealth Bank(コモンウェルス銀行)、a/c name: Donna Mulhearn -
volunteer expenses(口座名 ドナ・マルハーン――ボランティア費用)、
BSB(銀行コード)062 181、a/c number(口座番号)1030 5704、もし小切手
などの従来型をお望みなら、このメールに返信してくだされば私の住所を送り
ます。

追追伸:リチャード・ヒル博士は、シドニー大学平和・紛争研究センターの名
誉会員です。それ以前にはリチャードはサザンクロス大学、クイーンズランド
工科大学、サンシャイン・コースト大学、ジェイムズ・クック大学、ヨーク大
学で教鞭をとってきました。彼は、犯罪学、子供と家族の福利厚生、若者研
究、平和・紛争研究の分野で広く刊行してきました。同時に彼は大きな心を
持った偉大な男です!

追追追伸:劣化ウラン使用に反対する国連決議をオーストラリア政府が支持す
るように圧力をかける方法については、近いうちに報告します。最新の投票で
は、131カ国が支持した決議に、政府は棄権しました。米国は反対票を投じ
ました。どうしてわが国は棄権したのでしょう。

追伸x4:もし私の本を入手したければ、今では直接私から買うことができま
すので、書店価格(32.95ドル)を支払う必要はなく「優待」価格(25
ドル)でお分けできます。折り返しEメールしていただければ、私が本を送り
ます。参照 http://www.ordinarycourage.org

追伸x5:「彼女の苦しみを見ていると、気持ちが完全に落ち込みました。世
界を憎みました。ノイローゼになっているように感じます。最近あの子は眠ら
なくなり、怒って泣いています」――二つの頭を持って生まれたファッルー
ジャの赤ん坊ティバの母親。ティバはすでに逝ってしまった。

原文:The Fallujah Babies and my birthday wish
URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/247

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
TUP速報 http://www.tup-bulletin.org/
配信担当 古藤加奈
電子メール: TUP-Bulletin-owner@y...

TUPへの問い合わせ:
http://www.tup-bulletin.org/modules/main/index.php?content_id=8
過去の TUP速報:
http://www.tup-bulletin.org/modules/contents/

■『冬の兵士──イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』
(TUP翻訳、岩波書店、2009年8月発売)
http://www.tup-bulletin.org/modules/main/index.php?content_id=32
■『ガザ通信』
(岡 真理、TUP翻訳、青土社、2009年3月発売)
http://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?tag=%E7%A9%BA%E8%A5%B2%E4%B8%8B%E3%82%AC%E3%82%B6%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E5%A0%B1%E5%91%8A
■TUPアンソロジー『世界は変えられる』 (七つ森書館)
JCJ市民メディア賞受賞
http://www.pen.co.jp/syoseki/syakai/0480.html
■『世界は変えられるII』も好評発売中
http://www.pen.co.jp/syoseki/syakai/0375.html
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
911

投稿者: tup_bulletin  <tup@l...>
Date: 2010年12月22日(水) 午前0時42分
タイトル: 速報863号 ドナより ファッルージャの赤ん坊と私の誕生日の願い事

 
事情により、前回配信した「ドナより ファッルージャの赤ん坊と私の誕生日
の願い事」を、速報863号と改めて再送させていただきます。
                            配信担当:古藤            
______________________________________________________________________

私たちがやらなければならないことは、すべて私たちにできることです
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オーストラリア人女性ドナ・マルハーンは、2003年の春にはイラクで
「人間の盾」に参加した。04年春にはイラクで米軍包囲下のファッルージャ
に入り、その帰路地元レジスタンスによる拘束を経験し、つぶさにその報告を
してくれた。04年冬から05年春にかけてはイラク・パレスチナ「巡礼の
旅」を伝えてきた。05年8月には、シンディ・シーハンのキャンプ・ケー
シーに駆けつけ、アメリカからの報告は、ほとんど実況中継だった。05年1
2月にはオーストラリアがイラク戦争に最も貢献してきたパイン・ギャップ秘
密基地に侵入し、「市民査察」を強行して逮捕されたが、08年2月に無罪判
決を勝ち取った。09年末から10年初頭には、イスラエルによる包囲封鎖に
苦しむパレスチナ・ガザ地区に入って援助を届け、現地から報告してきた。1
0年2月に、『普通の勇気――わが旅、人間の盾としてバグダードへ』を出版
した。

今回は、来年早々にもドナが、異常出産が続発するファッルージャに行くとい
う話です。これまで劣化ウランとファッルージャでの異常出産の関連はTUP速
報でも報告されてきました。劣化ウラン研究会の山崎久隆氏による速報841
号です。
http://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?content_id=873
自分自身もイラク滞在中に劣化ウランに被爆しているドナが、ファッルージャ
住民からじかに話を聞くと言い、支援を訴えます。

なお本稿では、「生物として外見上先天的な形態異常を示していること」だけ
を意味し、それ以外のことを意味することも示唆することもない言葉として
「畸形」という表記を使っています。「奇形」ではなく「畸形」とした理由を
御理解いただきたいと思います。
(翻訳:福永克紀/TUP)
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ファッルージャの赤ん坊と私の誕生日の願い事
ドナ・マルハーン
2010年11月16日

お友達の皆さんへ

今日(16日)は私の誕生日ですので、一緒にお祝いしてくださるように皆さ
んを招待したいと思います!

もっと具体的に言うと、何にもまして是非いただきたいと思っているプレゼン
トがあるのです。それは、緊急に語る必要のある話を語る機会、自分たちの話
をほとんど聞いてもらえない人々に声を与える機会です。その人たちとは、戦
火に引き裂かれた埃っぽい中東の町で、戦争を生き抜くために足掻いている女
性や子供たちのことです。彼らにとって戦争は決して終わっていません。

それどころか、新たな戦争が毎日ファッルージャ市立病院の産科病棟で始まっ
ており、そこの婦人科医は毎日平均して3人の重度畸形児が生まれていると
言っています。現在では比較的小さくなってしまったこの町で、これは年間1
000人以上という数字です。多くの胎児が死産となり、数時間後に死亡する
嬰児も多く、生き残った者の大多数が数カ月しか生きられない、それほど赤ん
坊の異常が重度なのです。ファッルージャの墓地には小さな「赤ん坊」の墓が
いくつもあります。1歳の誕生日を迎えられた子供たちは、専門的な集中看護
を残る生涯必要とするでしょう。

ファッルージャの女性たちに対する産科医の医学的助言は、いたってシンプル
です。「止めなさい」。子供を作るのは止めなさい、妊娠するのは止めなさ
い、なぜなら健康な赤ん坊を産まない可能性が高いから。

こういう言葉にはショッキングな示唆が含まれています。母親になることもな
い若い女性の一大世代。光を見ることも、笑うことも、愛を感じることもない
赤ん坊の、小さな人類の一大世代。

これがファッルージャの今の生活、ニューカッスルやウロンゴングと同じよう
な大きさのかつて栄えていた町の生活です。増大する家族、賑わう市場、華麗
なモスク、競技場、学校、産業、そして有名なイラク全土「最上のファラフェ
ル」などで、かつて活気に満ちていた町。

今や毒に冒され、戦争で疲弊し、実質的なゴーストタウンであるこの町の住人
は、この町から逃げ出すことさえ購えないか、どこにも行き場のない人たちで
す。

ファッルージャの畸形児誕生が劇的に上昇し始めたのは2005年で、それは
この町に対する米軍の激しい攻撃が2004年4月と、再度2004年11月
に加えられた翌年でした。この攻撃では黄リン弾(別名白リン弾)ばかりか劣
化ウラン弾が広範に使用され、こういった物質の有毒性とその結果による地元
生態系への汚染こそが、成人の癌や白血病の増加も畸形児出産の増加もその原
因であると言われています。これは人間に対する劣化ウランの影響に関して私
たちが保有する証拠に従えば、論理的結論だと思われます。しかし米軍は、
ファッルージャでの劇的な畸形児の増加と化学兵器の使用との間に関連を示す
明確な証拠などないと主張して、問題があるとは認めていません。米軍の主張
は、種々の報告は散発的な事例であり、米軍が応えるべき正確な数字や調査な
どないというものです。そのように、世界中の医者、イラクおよび国際的な人
権団体、医療NGOの嘆願にもかかわらず、米軍はそれに応えることをWHO(世界
保健機関)と同様に拒否しています。同時に軍事占領が、調査を行なうために
西側研究者がファッルージャに行くことをほとんど不可能にしています。そう
した事態にも関わらず、英国科学者クリス・バズビー教授率いる調査団が実際
にこの町に入り、大規模調査を敢行しました。その調査結果は政府と真っ向か
ら対峙して政府の対応を求めるものです。保健に関するある国際的な専門誌に
今年発表されたその調査が、ファッルージャにおける出生異常ならびにその他
の癌や白血病などの健康問題は、原爆が使用された後のヒロシマやナガサキの
生存者よりも悪いと結論付けました。

繰り返します。ファッルージャの健康問題は、ヒロシマとナガサキのその後の
状態よりももっと悪いと考えられる。このバズビー教授の報告は以下で手に入
れることができます。
http://www.mdpi.com/1660-4601/7/7/2828/pdf

この問題に関する報道記事と短編ドキュメンタリーは以下で見つけられます。
http://www.independent.co.uk/news/world/middle-east/toxic-legacy-of-us-assault-on-fallujah-worse-than-hiroshima-2034065.html
http://news.bbc.co.uk/2/hi/middle_east/8549745.stm
http://www.youtube.com/watch?v=PFqyK8kB1Vk

この話がオーストラリアや米国メディアのレーダーには引っ掛かっていないこ
とは、皆さんもお気づきかもしれません。しかし皆さんも、これは広く語ら
れ、迅速な行動で応えるべき話題であると合意してくださるはずだと思いま
す。ファッルージャの赤ん坊たちは正当に扱われるべきであり、ファッルー
ジャの女性たちには希望を持ってもらうべきです。

ここに皆さんが登場する場面があります。非常勤の教授であり作家でもあるリ
チャード・ヒル博士と私自身が共同して、ファッルージャの赤ん坊の話を家族
たち自身の観点から伝えていこうと決めました。このようなことが二度と起き
ないように、劣化ウラン兵器(DU)を禁止する世界規模のキャンペーンに貢献
するために、私たちは本やドキュメンタリーや資料を作りたいと思っていま
す。

これを実行するためには、私たちはファッルージャに行かなければなりませ
ん。その目的は、バズビー教授の科学的データおよびその他のデータを使い、
子供の話や母親の嘆き、家族の苦闘や町の長老の意見などを通してそれに人間
的な側面を添えることです。しかし、皆さんもご想像できるように、ファッ
ルージャ入りを果たすには実行上の大きな難題があって、そこに皆さんがたの
援助を必要とする理由があります。この派遣団の費用と特別な危険予防策に必
要な費用は、私たち自身で都合できないほどの非常に大きな予算を意味しま
す。

私の最初のお誘いは、リチャードと私を来年早々にもファッルージャに送り出
してこれを実現する手伝いを皆さんにお願いすることです。一緒になってこの
話が必ず語られるようにできるのです。正義と説明責任と劣化ウラン兵器の使
用の終焉を確実にするこのキャンペーンにまだまだ足りない部分にも、皆さん
が手を貸すようにお招きします。私たちが必要とする援助には、ウェブサイ
ト、国連新決議を成立させるための政府に対する働きかけ、情報の伝達拡大、
グラフィックデザイン、各自グループ内でのこの問題の宣伝などがあるでしょ
う。

その内にもっとたくさんのことが必要になるでしょうが、まず始めに、私の誕
生日に、最も役に立つプレゼントを私に与えてくださることができます――ど
うかこの実行手段の支援を求める訴えに、あなたが出せる額の献金を願いしま
す。20ドル[訳注:約1600円]、50ドルなど、小額でも皆さんの多く
が応えてくだされば、この企画が可能になります!

この企画は、劣化ウラン禁止国際キャンペーンに多大な貢献をするものだと信
じています。(現在私たちはクラスター爆弾を禁止する国際的条約を実現させ
たのですから、劣化ウラン兵器にも同様なことができます。)この企画は、
ファッルージャに正義を確立する手助けができ、何にもまして、しばしば政府
と商業メディアから見放されてきた人々の苦痛を理解する手助けとなります。
この企画は、皆さんすべてになり代って、「許してください、私たちは変化の
ために働きます」と言える機会を与えてくれるでしょう。

私にとってこれは個人的なことです。皆さんの多くは、私の劣化ウランとの密
接な繋がりを御存じでしょう。2003年に私がバグダードで出会った赤ん坊
のヌーラ、劣化ウランに汚染されて手も足もなく生まれたこの赤ちゃんとの私
の関係。この子は胴体と頭部だけですが、彼女の笑顔とエネルギーが私に深遠
な影響を与えてくれました。それからアリアン、バグダード小児病院で会った
バスラ出身の女の子で、1991年の湾岸戦争で使われた劣化ウラン弾のため
に白血病で瀕死の状態でした。私とこの子の交流は強力であり、また神聖であ
り、私には決して忘れえないものでしょう。私の本『普通の勇気』は彼女の思
い出にささげられています。というのは彼女の手助けで、私たちがやらなけれ
ばならないことはすべて私たちにできることだ、と理解できたのですから。今
回のようなショッキングな状況に遭遇した時には、それが私たちを力づけてく
れることになります。

私は、米軍の攻撃が行なわれた時の2004年4月にファッルージャにいまし
た、そしてそこで行なわれた市民大虐殺の目撃証人です。

さらに、イラク滞在中に私が劣化ウランに曝露されている事実があり、それが
私の出産選択肢に影響を与えてきました。(この説明は私の本の最後の章にあ
ります)

ファッルージャの女性の話は私の話なのです。彼女たちの赤ん坊は私たちの赤
ん坊なのです。

アリアンが、瀕死のイラク人少女が、白血病に冒された全身で、会ったその日
に私に希望を与えてくれました。それは、自分には彼女を救えないけれど、自
分ができないことでいつまでも泣いていてはいけないと教えてくれたからで
す。自分に何ができるかを考えよと勇気づけてくれました……自分が誰である
かを考えよと、そして変化に寄与するためには実際に何ができるかを考えよ
と。

私は医者ではありません、でも私にはメモ帳とカメラがあります。私は科学者
ではありません、でもファッルージャに行くことはできます(その道は知って
います)、そこで人々の話を聞くことができます、その話に声を与える手助け
ができます。それが私にできることです。

そしてそれは始まりにすぎません。皆さんがた全員と一緒に、それ以上のこと
をやりましょう。

皆さんの巡礼者
ドナより

追伸:もし私の誕生日の願い事に寄与できるなら、銀行口座詳細は以下です。
Commonwealth Bank(コモンウェルス銀行)、a/c name: Donna Mulhearn -
volunteer expenses(口座名 ドナ・マルハーン――ボランティア費用)、
BSB(銀行コード)062 181、a/c number(口座番号)1030 5704、もし小切手
などの従来型をお望みなら、このメールに返信してくだされば私の住所を送り
ます。

追追伸:リチャード・ヒル博士は、シドニー大学平和・紛争研究センターの名
誉会員です。それ以前にはリチャードはサザンクロス大学、クイーンズランド
工科大学、サンシャイン・コースト大学、ジェイムズ・クック大学、ヨーク大
学で教鞭をとってきました。彼は、犯罪学、子供と家族の福利厚生、若者研
究、平和・紛争研究の分野で広く刊行してきました。同時に彼は大きな心を
持った偉大な男です!

追追追伸:劣化ウラン使用に反対する国連決議をオーストラリア政府が支持す
るように圧力をかける方法については、近いうちに報告します。最新の投票で
は、131カ国が支持した決議に、政府は棄権しました。米国は反対票を投じ
ました。どうしてわが国は棄権したのでしょう。

追伸x4:もし私の本を入手したければ、今では直接私から買うことができま
すので、書店価格(32.95ドル)を支払う必要はなく「優待」価格(25
ドル)でお分けできます。折り返しEメールしていただければ、私が本を送り
ます。参照 http://www.ordinarycourage.org

追伸x5:「彼女の苦しみを見ていると、気持ちが完全に落ち込みました。世
界を憎みました。ノイローゼになっているように感じます。最近あの子は眠ら
なくなり、怒って泣いています」――二つの頭を持って生まれたファッルー
ジャの赤ん坊ティバの母親。ティバはすでに逝ってしまった。

原文:The Fallujah Babies and my birthday wish
URL: http://groups.yahoo.com/group/ThePilgrim/message/247

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TUP速報 http://www.tup-bulletin.org/
配信担当 古藤加奈
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過去の TUP速報:
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■『冬の兵士──イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』
(TUP翻訳、岩波書店、2009年8月発売)
http://www.tup-bulletin.org/modules/main/index.php?content_id=32
■『ガザ通信』
(岡 真理、TUP翻訳、青土社、2009年3月発売)
http://www.tup-bulletin.org/modules/contents/index.php?tag=%E7%A9%BA%E8%A5%B2%E4%B8%8B%E3%82%AC%E3%82%B6%E3%81%8B%E3%82%89%E3%81%AE%E5%A0%B1%E5%91%8A
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912

投稿者: tup_bulletin  <tup@l...>
Date: 2010年12月22日(水) 午前0時56分
タイトル: 速報864号 ウィキリークスとジャーナリズム

 
2010年春、無防備のイラク市民を米軍兵士たちがヘリコプターから無差別に射殺
する衝撃的なビデオを公開して以来、ウィキリークスは「アフガニ スタン戦争
日記」「イラク戦争ログ」、そして「大使館ファイル」と立て続けに膨大な量の
内部告発データを公開してきた。ウィキリースの創始者・編 集長ジュリアン・
アサンジは、ペンタゴンによるその暗殺計画が明るみに出、スウェーデン政府か
ら国際指名手配が出ているにも関わらず、次のプロ ジェクトでアメリカの巨大
銀行の汚職を暴露すると、ひるむことなく公言する。

資本主義と戦争という大規模な多国籍「組織犯罪」を暴露するウィキリークスの
情報公開活動については、評価が大きく分かれている。「ジャーナリズ ムとは
何か」「情報公開の是非を判断するのは誰か」という「報道の自由」の基本的な
前提が、いま改めて問われているのではないか。

NHKの放送と「大使館ファイル」の公開を機にウィキリークスへの関心が高まる
いま、月刊『世界』2010年9月号(岩波書店刊)に寄稿したウィ キリークスに関
する記事をTUP速報として再配布し、この問いかけをTUP読者の皆さんと共有しよ
うと思う。現在、その後の情勢の変化も追った続 編を執筆中であり、それにつ
いてもいずれ紹介できればと考えている。

TUP:宮前ゆかり

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国境を越える言論の自由―ウィキリークスの挑戦

宮前ゆかり
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国家と多国籍企業の利害を追求し、国境を越えて触手を広げる戦争事業。戦争の
背後にある権力者たちの犯罪や汚職を暴くために、民主社会の言論の自 由確保
を求める内部告発者たちの活動も国境を越えて連帯が広がっている。

■国家による犯罪と内部告発者の役割
アメリカ大統領命令によって自国市民の暗殺が秘密裏に許されていると今年一月
に『ワシントンポスト』紙が報道した。「テロに加担している」と大統 領が主
張するだけで、確認プロトコルも告訴もなく、裁判や議会による検証もないま
ま、世界中どこにいようとアメリカ市民の暗殺が正当化され、その 執行権がCIA
とペンタゴンに与えられているという。

ブッシュ政権が「テロ」の疑惑を振りかざして正式な告訴や裁判もなく外国市民
を誘拐しブラックサイトに拘留していることが暴露されたとき、大統領 行政権
の過剰な拡大に強い抗議の声があがった。しかし「チェンジ」を掲げて政権交代
を果たし立法・行政とも民主党が主導する政治環境で、オバマ政 権はさらに大
統領権限を拡大し、前政権時代よりも攻撃的で陰湿な独裁的構図を構築している。

六月、『ニューヨークタイムズ』紙の報道では、イランに対する諜報活動を含
め、オバマ政権は外国での秘密軍事作戦の展開をさらに拡大しているとい う。
『ワシントンポスト』紙は最近、特別作戦部隊が七五カ国で展開されていること
を明らかにした。

武器取引や傭兵採用の他に、諜報活動、プロパガンダ広報戦略、情報操作を通し
て、アメリカの軍事政策は各国への内政干渉を強化し、他国の主権を侵 し、国
境を無視して肥大し続けている。イラク・アフガンでの戦争も同時進行している
のだから、その組織的動員規模は巨大だ。

「正義の戦争」という大義名分を鵜呑みにしてアメリカ国民が許容しつづける
「戦争マシン」を止めることはほとんど不可能に思える。貧しい若者たち や移
民人口の志願兵に依存する現在の戦争では、戦場の犠牲となる人々の実態から国
民の多くが隔離されている。

しかしこの巨大な戦争マシンの中枢に挑戦する人々がいる。良心に駆られ、戦争
の真実を一般市民に知らせようと身の危険を冒して行動する内部告発者 たちだ。

今年の四月、世界中の人々がアメリカの戦争犯罪の証拠を目撃した。米軍兵士た
ちが〇七年七月に無防備のイラク市民を軍事ヘリコプターから容赦なく 無差別
に射撃し、ロイター報道機関の社員二人を含む一二人を殺戮した場面を生々しく
記録した画像が、「ウィキリークス」というウェブサイトに公開 された。当
初、軍は「敵との戦闘中に九人の武装兵とともに二人のジャーナリストが亡く
なった」と発表していた。この米軍機密ビデオに映されていた 戦争の一コマは
世界的な反響を呼び、ペンタゴンの秘密に小さな風穴があいた。この殺戮を行っ
た部隊に参加していた二人の米軍兵士がビデオ公開後に 自ら名乗り出て罪を認
め、謝罪し、普段は無関心な一般市民に戦争の悲劇の背景を身近に知らせること
となった。

暗号化され機密扱いされていたこのビデオをウィキリークスに渡したのは、イラ
ク戦争の現場で諜報分析活動をしていたブラドレー・マニングという二 二歳の
若い技術兵だ。マニングは密告後にインターネットで知り合ったハッカー出身の
エイドリアン・ラモに何らかの形で漏洩を自白したとされ、その 経緯が『ワイ
ヤード』誌に掲載された。マニングはラモに漏洩の動機をこのように述べてい
る。「誰であろうとも私は皆に真実を見て欲しい。情報なく しては誰も正しい
公共政策への意思決定ができないからだ」

マニングは六月にアメリカ軍に逮捕され、現在クウェイトに拘束されている。無
差別殺戮のビデオ漏洩の他に、五二件の国務省通信を漏洩した容疑で、 七月初
旬ペンタゴンはマニングを正式に告訴した。

現在、軍事弁護士がマニング訴訟での弁護を担当している。ウィキリークス関係
者や内部告発行為を支持する賛同者たちは、マニングの安全な身柄確保 のため
に費用を集め、現在クウェイトに民事弁護団を送り込もうとしている。

■エルスバーグの系譜

ベトナム戦争終結のきっかけとなった「ペンタゴンペーパー」を漏洩したダニエ
ル・エルスバーグは、当時ニクソン大統領補佐官・国家安全保障担当官 だった
キッシンジャーに「アメリカで最も危険な男」と呼ばれた人物だ。「内部告発
者」として政府機関からの恐喝や暗殺の危険をくぐりぬけて生きて きたエルス
バーグは、マニングの逮捕に際してインタビューでこう述べている。「私がやっ
たのと同じ規模で、でも私よりも素早く情報を公開してくれ る人物が現れるこ
とをずっと望んでいました。マニングさんはこの四〇年間でそれをやってくれた
最初の人物です。感謝しています。彼が最後の人とな らないことを願っています」

一九七三年五月に政府の起訴内容すべてが却下されて以来、エルスバーグは政府
機関で働く人々に政府内不正を暴く内部告発行動を呼びかけてきた。 ネットが
普及してからは、もしペンタゴン・ペーパーズが今手に入ったとしたら迷わず
ネット上で公開するだろうと述べ、「告発の決心まで私のように 時間をかけて
はなりません。今すぐに実行してください」と内部告発の緊急的役割を強調して
きた。その声に応えるように最近は、重要な情報が漏洩と いう形で一般市民に
公開され始めている。アフガニスタン戦争正当化に都合の悪いアイケンベリー米
国大使の本音を伝える国務省宛ての通信が漏洩さ れ、ネット上で広く閲覧され
たのもその一例だ。ウィキリークスのサイトにはエルスバーグに無罪を言い渡し
た最高裁裁定声明がモットーとして掲げら れている。

「自由で制限のない報道のみが政府の欺瞞を暴露する効力を持つ」

イラクでの殺戮ビデオ公開について、ウィキリークスの創設者で編集長のジュリ
アン・アサンジは、報道機関の怠慢を指摘している。ビデオはすでに二 年前に
『ワシントンポスト』紙に渡っており、公開暴露のチャンスはいくらでもあった
のだ。エルスバーグ時代にペンタゴンペーパーズを公に知らしめ た著名な報道
機関がその本来の役割を怠るようになった事情を鑑み、ウェブでの漏洩という手
段をとることを余儀なくされたという。

■国際社会で連帯する内部告発者たち

国家が国民に知られずに犯罪を犯しているとき、そして報道機関が十分な権力監
視能力を発揮していないとき、民主国家の原則である「情報を十分に把 握した
市民の意思決定による政治判断」を確保するためには、キャリアや命の危険を冒
して内部告発をする人々の保護体制を確立する必要がある。アメ リカ市民であ
るマニングの場合、エルスバーグの判断では、逃亡して行方不明になるよりは現
場で逮捕され、公に身柄が拘束されたほうが安全性が高い かもしれないという。

しかし、オーストラリア市民のジュリアン・アサンジの場合は事情が違うよう
だ。ごく最近、ペンタゴンの秘密工作部隊がアサンジの身元を秘密裏に追 跡し
ていることが発覚した。アサンジ暗殺の危機を憂慮し、エルスバーグはテレビや
ラジオの場でアメリカの軍事秘密工作の監視を呼びかけた。アサン ジは六月二
二日にオーストラリアのABCニュースでエルスバーグと画面上で対話したり、七
月一四日の『ガーディアン』紙のインタビューや TED.comの番組に登場するなど
可視性を維持している。

内部告発サイト、ウィキリークスは〇六年に開始され、〇七年七月から本格的な
活動を行ってきた。責任分担する五人の編集者、約八〇〇人の無給のボ ラン
ティアなどによって運営されているという。

子供の頃からハッカーとして知られていたアサンジは現在三九歳前後とされ、情
報の信憑性とサイトへの掲載可否について最終的判断を下してきた。ア サンジ
は〇九年にアムネスティー・インターナショナルによりメディア賞を贈られている。

中国、旧ソ連、アフリカ、イスラエルなど反民主的な人権侵害や圧政、弾圧の存
在する地域からウィキリークスに匿名で寄せられた政府、企業、宗教に 関わる
内部告発情報は、これまでに一二〇万件以上にも及ぶと言われている。国境を超
越して世界中で戦争を繰り広げるアメリカ帝国の軍事機密情報も 例外ではな
い。もちろん提供される情報には扇動かく乱情報や誤報が混在するため、ウィキ
方式の相関的編集システムの他に、独自の情報検証プロセス の充実に力を入れ
ている。

■アイスランドの画期的メディア政策

今年六月、アイスランド議会は「アイスランド現代メディア構想」法案を満場一
致で通過させた。スコットランド、英国、フランス、ベルギー、ノル ウェー、
スウェーデン、アメリカなど世界各国の「言論の自由」擁護の法律の中から特に
優れた内容を取り入れ、内部告発者や調査報道を保護し、表現 の自由や開かれ
たコミュニケーションを保障する画期的な法案だ。アサンジもこの法案作成に参
加していた。さらに、この法案には表現の自由擁護分野 における「ノーベル
賞」級の新しい世界的規範設立が含まれている。

法案の作成と立法化に取り組んできたブリギッタ・ヨンスドティル議員は、イラ
クでの殺戮ビデオを編集しウィキリークスで公開したプロデューサーの 一人
だ。調査報道機関のサーバーをアイスランド管轄圏に保護したり、ジャーナリズ
ムのハブとなる教育機構を構築したり、世界各国の内部告発者を擁 護するため
の法律的なシステムを確立するなど、アイスランドが世界の「言論の自由」の
メッカとなるための本格的な取り組みがすでに始まっており、 国境を越えた民
主主義の新しい展望が生まれようとしている。

アイスランドはリーマンショックの大打撃を受け、国庫を危機にさらした苦い体
験を持っている。米英の金融汚職に対する調査報道に怠慢があり、規制 監視体
制も弱体化していた。経済機構も含め、民主主義体制と基本的人権を擁護するた
めには、国境を越えた情報公開の連帯が必須である。なぜなら、 民主主義を破
壊し、基本的人権を踏みにじる権力者たちこそが国境を越えた犯罪を日々犯して
いるからである。

〇八年にスイスのジュリアス・ベアー銀行が英領ケイマン諸島を通じて行ってい
た不正金融行為もその例だろう。国際的な違法金融行為を行っていた顧 客の情
報の公開を阻止しようとして、同銀行はウィキリークスのドメイン禁止命令を求
めていた。米国連邦地裁が「言論の自由」を掲げてドメイン使用 禁止命令を撤
回したことで、ウィキリークスの重要な役割がさらに明確になった。

七月二五日にウィキリークスが公開し世界中を揺るがせた二〇万ページ以上の
「戦争日記」は、アフガン前線で戦う兵士たちによる記録。カルザイ暗殺 計画
や一般市民虐殺を網羅し、ペンタゴン・ペーパーズの規模を上回る。『ガーディ
アン』紙、『シュピーゲル』誌、『ニューヨーク・タイムズ』紙が 分析検証記
事をウェブで公開している。七月二六日、アサンジは久々に人々の前に姿を現し
た記者会見で機密文書公開の意図とその意義を語った。

「情報は力」である。従来の報道機関の監視能力が衰退する今、ネットの民主的
影響力は否定できない。しかし、ネットは本来ペンタゴンが開発したシ ステム
に由来していることから、ネットそのものをシャットダウンできる「インター
ネット・キルスイッチ」と呼ばれる究極的な権限をアメリカ大統領 に付与する
法案が議会で審議されている。

巨大な軍事力による威圧や弾圧に依存し、情報の自由な流通を恐れる大国アメリ
カ。個人の良心をよりどころに内部告発行為の擁護を求める小国アイス ラン
ド。この構図は、自由という大義名分を振りかざすアメリカにとって痛烈な皮肉
ではなかろうか。

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投稿者: tup_bulletin  <tup@l...>
Date: 2010年12月22日(水) 午前1時04分
タイトル: 速報865号 戦争終結を求め、内部告発者を支持する平和運動の共同声明

 
◎ウィキリークスに応える市民の行動
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
ウィキリークスが暴露した米政府外交公電について、チョムスキーは、米国の
体制エリートの民主主義に対する軽蔑が表れていると言っています。公電で
サウジアラビア国王が米国にイラン攻撃を求めたとされたことに関して、H・
クリントン米国務長官は、イランが各国から脅威と見られていることを裏付ける
ものだと強弁しましたが、ブルッキングズ研究所によれば、アラブ諸国での
世論調査で主な脅威と見られているのはイスラエル(88%)、米国(77%)なのに
対して、イランを主な脅威と見る人は10パーセントとされ(*)、アラブ市民は
明らかに戦争など求めていません。“国家”つまり官僚・軍機構は市民を軽視し、
秘密主義のベールの影で政策を遂行してきました。以下は、こうした秘密主義が
破られることを求めるとともに、現在も行われているイラク、アフガニスタン、
パキスタン、イエメンの戦争終結を求め、アラブ諸国・イラン・米国をはじめ
どの国の市民も反対する新たな戦争を許さない、市民平和運動の声明です。
(前書き・翻訳:荒井雅子/TUP)
(*) 2010 Arab Public Opinion Poll
http://www.brookings.edu/~/media/Files/rc/reports/2010/08_arab_opinion
_poll_telhami/08_arab_opinion_poll_telhami.pdf )
凡例:[  ]:訳者による補足
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

ウィキリークスを出発点にどこへいくのか
――平和運動は応える
シンディ・シーハン
2010年12月1日

ウィキリークスによる米政府機密文書暴露を受けて、平和運動グループとして、
戦争終結の要求を強めるとともに、内部告発者への支持を表明します。

ウィキリークスによって公開が予定されている米政府外交公電のうち、これまでに
目にすることができるようになったのはごく一部ですが、すでに引き出せる結論が
あります。今回の公電と[10月公開]イラク戦争現場報告、[7月公開]アフガニスタン
戦争報告によって、米市民は米国政府の正体をありのままに見る機会を得ました。

見えてくるのは、世界のあらゆる地域に影響を及ぼし自国の市民を欺く地球規模の
軍事・スパイ帝国を支配する、米国政府の姿です。秘密主義とスパイ行為と敵意が
米国政府全体に染みつき、外交部門はCIAと軍の一部門と化しています。だからこそ
アフガニスタンでの非軍事的取り組みを率いるリチャード・ホルブルックは、
そうした取り組みを「軍に対する支援」と言ったのです。

秘密裏の戦争計画、隠された戦争、そして戦争に関する嘘は日常茶飯事になって
います。米国はイエメンで、秘密裏かつ違法に戦争を行い、それについて嘘をつく
よう同国政府を説得しました。ホンジュラスでは、クーデターを支援し、それに
ついて嘘をつきました。

対テロ戦争がテロを減らすのではなくむしろ増大させるということは、ずっと
前からわかっていました。今回の暴露によって、サウジアラビアが最大のテロ支援
国家であること、同国の独裁者アブドゥッラー国王が、収監者の処遇に関して
米国政府ときわめて緊密な関係にあることがわかりました。国王はグアンタナモ
収容所から釈放される収監者にマイクロチップを埋め込んでおくよう米国に要請
しました。国王はまた、米国が国際法に反してイランを侵略攻撃することも求めて
います。米議会は、米国史上最大の武器売却となる、サウジアラビアへの600億ドル
[約5兆円]の武器売却を直ちに差し止めるべきです。議会はまた、憲法に違反して
さらなる戦争を開始することを大統領に認めている、2001年の武力行使許可の
「更新」という考えを一切捨てるべきです。同盟国が米国大統領に求めるのが
どんな類いの戦争なのか、わかっています。

独裁者が戦争を強く求める一方で、政府の別の部門、市民、そして証拠となる
事実は、戦争反対へ強く傾いていることがわかります。公電からわかったことに
よれば、今年二月、ヨーロッパを標的にできるミサイルをイランが保有している
という米国の主張に対して、ロシアが反駁しました。2009年9月の公電からは、
米英両国が、事実と一致しようがしまいがおかまいなくイランの核開発を示唆する
報告書を出させるために、当時国際原子力機関(IAEA)次期事務局長に選出されて
いた天野之弥に圧力をかけたこと、また国家安全保障担当大統領補佐官ジェームズ・
ジョーンズ大将が、何の根拠もなしにイランの核開発計画を北朝鮮の核開発計画と
結びつけるプロパガンダ戦略を提案していたこともわかりました。

戦争への圧力の多くは、米国内から来ているように見えます。米国を代表する
人々は、スパイし、嘘をつき、搾取するべき敵として、全世界を扱っています。
世界に対する米国の態度が変わるには、こういうふるまいを許す秘密主義を破る
必要があります。オバマ大統領の公約である透明性の実現に貢献してきた人々は、
仕返しを受けないよう保護されなくてはなりません。その一方で、外交上の信頼
という立場を悪用して、スパイ行為と戦争計画の政策を推進してきた人々は、
責任を問われる必要があります。

ウィキリークス創設者ジュリアン・アサンジに居住資格と保護を申し出る国が
あるかもしれませんが、氏の仕事から最も恩恵を受けているのは米国です。
米国の諸都市に、アサンジ氏の安全が確保される場所の提供を要望します。

米司法省は、侵略戦争、誘拐、拷問、暗殺、正当な権限のないスパイ行為に
免責を認めてきた一方で、ブラッドリー・マニングに対してはウィキリークスに
文書をリークしたとして刑事訴追を行っています。米国政府が、私たちを危険に
さらしたのは国防総省ではなくアサンジの仕事だと主張し続け、アサンジの告発
あるいは世界のどこかからスウェーデンへの引き渡し・移送を支持するので
あれば、米国の道義的立場は、さらに最低に堕すことになります。

米国政府は、ジュリアン・アサンジに対して馬鹿げた刑事訴追を行うため、
スウェーデンにそうするよう圧力をかけるため、またウィキリークスの
サーバーに対する妨害を行うためにとっている行動を一切やめるべきです。
リークを隠蔽すれば、一層大規模なリークとスキャンダルという形で裏目に
出るという歴史が、米政府にはあります。米国務省は、外交と国際社会との
互恵的連携に力を注ぐべきです。

市民を代表する政府と独立したメディアがするべき仕事を代わって行っている
方々に、私たち署名者は感謝を表明します。私たちは、公然と行われている戦争
と秘密裏の戦争のすべての終結、国務省職員および請負業者をスパイ行為や
戦争行為に利用するのを禁止すること、そして、ウィキリークスの公電が
明るみに出した事実の徹底的な調査を求めます。

12月16日午前10時にホワイトハウスで、現在の戦争に対する抗議行動が
計画されています。私たちはそれを支持します。

署名者

シンディ・シーハン Cindy Sheehan's Soapbox [子息ケーシーの2004年の
イラクでの戦死後、2005年8月ブッシュの牧場前にキャンプして戦争反対を訴えた]
メーディア・ベンジャミン [反戦団体]「コードピンク」
レスリー・ケイガン [反戦団体連合United for Peace and Justice]
ティム・カーペンター Progressive Democrats of America [ウィスコンシン
州議会議員(民主党)]
ガエル・マーフィー United for Peace and Justice
デービッド・スワンソン WarisaCrime.org [イラク開戦に関する英労働党政権の
秘密会議覚書「ダウニングストリートメモ」を紹介、ブッシュ、チェイニーの
弾劾要求を展開した]
デブラ・スウィート [ブッシュの退陣を求めた]World Can't Wait
ケビン・ジーズ Voters for Peace
アン・ライト Veterans for Peace [退役軍人・元国務省職員、イラク戦争に
抗議して米国務省を辞任した]

原文
http://www.informationclearinghouse.info/article26964.htm
Where To Go From Wikileaks?
The Peace Movement Responds
By Cindy Sheehan
December 01, 2010 

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投稿者: Kana Koto  <kanakoto1@h...>
Date: 2010年12月22日(水) 午前1時17分
タイトル: 速報866号 日本語で聞く〈冬の兵士〉の声――帰還米兵の証言朗読会

 
<テロリストと戦っているはずだったのに本物のテロリストは私だった>
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
日本語で聞く〈冬の兵士〉の声――イラク・アフガン帰還兵の証言朗読会(12.23)
 〜『イラク戦争の子どもたち』写真展も同時開催(12.22〜27)〜

その女性は私たちに食べ物を届けようとしていた。
それなのに、私たちはその人を
チリヂリの肉片に吹き飛ばしてしまいました。
(ウォッシュバーン海兵隊伍長 28歳)

2006年4月18日、私は、初めて公式に確認のとれた殺人を犯しました。
何の罪もない男でした。
名前は知りません。
(ターナー海兵隊上等兵 22歳)

〜*〜*〜*〜

『冬の兵士 イラク・アフガン帰還米兵が語る戦場の真実』
 反戦イラク帰還兵の会/アーロン・グランツ著 TUP訳 岩波書店刊

2009年8月の発売以来、ありのままの戦場の姿を伝える「冬の兵士」の証言は
版を重ね、現在第5刷、合計刷部数は6500部に迫るまでになりました。この書
籍の元になった証言集会を開催した反戦イラク帰還兵の会から、実際の証言者
を含む多数の元兵士が様々な機会に来日し、各地の証言集会などで戦場での体
験を語っています。

自らが見聞きし、時には手を貸した苦い体験を、淡々と、また怒りをこめて兵
士たちは語ります。初めて人を殺したときのこと、民間人でいっぱいの町に迫
撃砲を撃ち込んだ日のこと、老人や子どもを路傍に放り出した時のこと。そう
いった体験のひとつひとつが繰り返し夢に表れ、帰還兵の心と日常を蝕んでい
ます。

絞り出すように語られる体験を日本語で聞く機会をもうけました。派手なアク
ションも火薬の臭いもないけれど、かれらの言葉の端々にはまぎれもない「戦
場」があります。12月23日6時、お誘い合わせのうえ渋谷においでください。
(藤澤みどり/TUP)

時 :2010年12月23日木曜日(祝日)18時〜20時(開場17時50分)
場所:渋谷アップリンク・ファクトリー(定員70名)
   http://www.uplink.co.jp/info/map.html
料金:700円(メール予約)/1000円(当日)
   予約アドレス:fuyunoheishi@y...
出演者(順不同):
   根岸季衣、田根楽子、西山水木、隈井士門、河村寛之、
   万田祐介、飯島啓介、木村徹(シグマ・セブンe)、
   桐木仁(シグマ・セブンe)、松坂朗(映画人九条の会)

〜*〜*〜*〜

[同時開催]

森住卓写真展『イラク戦争の子どもたち』

イラク戦争はほんとうに終わったのだろうか。日本が国として、いち早く支持
を表明し、税金を使って軍を送り込んだ戦争で何が行われたのか。
『イラク戦争の子どもたち』は2003年3月〜4月、大規模戦闘が続くイラクで
撮影されました。写真に写る子どもたちの全員が、その後ひとりの家族も失わ
ずにイラクで生きている可能性は多くはくない。

時 :2010年12月22日(水)〜27日(月)12.00〜22.00
場所:渋谷アップリンク・ファクトリーギャラリー
   http://www.uplink.co.jp/gallery/
料金:無料

森住卓氏のプロフィール等については氏のホームページをご参照ください。
http://www.morizumi-pj.com/

お誘い合わせのうえお出かけください。
会場でお会いしましょう。
お問い合わせは fuyunoheishi@y... まで。 


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(TUP翻訳、岩波書店、2009年8月発売)
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(岡 真理、TUP翻訳、青土社、2009年3月発売)
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投稿者: Kana Koto  <kanakoto1@h...>
Date: 2011年1月7日(金) 午後11時44分
タイトル: 速報867号 ハイチ、拡大するコレラ被害に国連軍の出国要請

 
天災につづく人災、コレラ感染被害に苦しむ市民の怒り
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12月6日、ハイチ保健省の発表によるとコレラの犠牲者は2000人を超え、感染
者は92000人近くにのぼり、いっこうに感染の拡大が収まる気配がみえません。

大地震以後、多くの国からの援助にもかかわらず首都のポルトープランスには
いまだ130万人がテント暮らしを余儀なくされています。いったい何故この地の
衛生管理がここまで機能しないのか。なぜ基幹設備がいつまでも整わないのか。
これは「貧しい国」だから仕方のないことなのでしょうか?

現地を基軸に活動する著者が英国ガーディアン紙に発表した記事を紹介します。

前書きと翻訳:金克美(KIM Keukmi)/TUP
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英国ガーディアン紙 2010年11月18日

困窮するハイチの人々が国連軍を追い出したい理由

ハイチの危機は数十年の経済的搾取とヒモ付き援助の結果――市民の怒りは当然

イザボー・ドゥセ

今や国家非常事態となったコレラ流行を食い止める努力が、ハリケーンに
よって妨げられた後、ハイチでここ数日起きている市民暴動について耳に
しているかもしれない。こういったすべては、酷くけなされがちなこの国
のイメージ、つまり圧倒的な貧困、蔓延する汚職、そして、暴力の脅威が
絶え間ないためハイチ人が互いを引きちぎらないようにするには国際平和
維持軍が必要なのだといったイメージにぴったりくるかもしれない。

そう、貧困と汚職は本当のことかもしれない。しかし、この木曜日には、
ミヌスタ[*1]として知られる国連軍の出国を求めるデモンストレーション[*2]
が、学生、草の根組織、選挙からしめだされた反対派、そして最も重要な
こととして、ハイチで拡大する悪夢をただちに終わらせるという共通の理
由で団結した市民によって、ハイチの首都ポルトープランス全域で行われ
ようとしている。

[*1]MINUSTAH:国連ハイチ安定化ミッション。フランス語で Mission des
Nations Unies pour la stabilisation en Haitiの頭字語。
[*2]デモのビデオ http://www.youtube.com/watch?v=wqqlFA1BaMo&feature=player_embedded

公共投資があまりに欠如しているために衛生基幹設備といえばゴミと人
間の排泄物でいっぱいにあふれた開放型下水道しかない、たくさんの地
域では、コレラの大流行で死亡者が急上昇し1000人を超えてから、住民
の間に恐怖が根をおろしている。

地震の前にこの国に流れ込んだ数十億ドルという国際援助にもかかわら
ず、こういった地域は、ハイチのどの都市や町でも見ることができる。
10カ月経ち、さらなる数十億ドルが加わった後にも状況はずっと悪化し、
沈黙の中で耐えてきた市民も、選挙をわずか二週間後に控え、もうたく
さんだということになったのだろう。

「防水シートの下で生活している間は、選挙を拒否する」などのシュプ
レヒコールは「国連平和維持部隊とコレラは兄弟」に置き換わっている。
違いは、いまや各地でシュプレヒコールは、炎上した車、炎を上げたタ
イヤ、ガラスの破片に伴なわれ、コレラの犠牲者の棺が通行を妨げ、
援助関係者は作業の中断を余儀なくされ、人々が路上で死ぬにまかされ
ているということである。

国連軍ネパール部隊がコレラに感染した糞便をアルティボニト川に投棄
したと多くの人が非難し、いまやすべての国連軍の出国を要求する声が
高まっている。当局は抗議について、選挙日程を混乱させる政治的な試
みであると主張し、コレラ災害にもかかわらず選挙を断行しようとして
いる。投票が最終的に延期される場合、もし最終的にそうなった場合、
国際的なメディアは、ハイチ人は民主主義には向かない、いまだにデュ
バリエ独裁から逃れられない、または民意を組織し表明するにはあまり
にも深く無政府状態に侵されている、と片付けるに違いない。

これはお馴染みのパターンだ。1980年代にエイズがはじめて世界の注目
を集めたとき、ハイチ人は4つのH[*3]、すなわちHomosexuals(同性愛
者)、Hemophiliacs(血友病)、Heroin users(ヘロイン使用者)そし
てHaitian(ハイチ人)の一つとして、米国に病気を持ち込むものと烙印
を押されたものだった。だがコレラと同じで、エイズはハイチに固有の
ものではないし、誰かが持ち込んだおかげで現在被害がでているだけだ。
ハイチ人がまたもや近隣諸国から烙印を押されているが、非難は世界が
受けなければならない。

[*3]4Hについてさらに詳しい記事(英文)は
After the Quake: HIV/AIDS in Haiti
(地震の後/ハイチのHIV/AIDS[仮訳])
http://pulitzercenter.org/projects/caribbean/after-quake-hivaids-haiti

本当の問題は、なぜ?ということだ。なぜ、壊滅的に貧困なのか?
なぜ、水が、衛生や医療の基幹設備がないのか?

10年前、欠陥のある水道設備のために資金が用意されていた。2000年に、
米州開発銀行(IDB)から 5400万ドル(3400万ポンド)[当時の1ドルを103円
とすると、約55兆円]によって、都市部と農村部両方の水道設備を修復する
ための資金がハイチ政府に融資されるはずだったのに、それは、民主的に
選出されたアリスティド政権を動揺させる米国外交政策の目的に都合の悪
いものだった。情報筋(*原注)が示唆するところでは、米政府は、水道設備
投資に加えて健康、教育、衛生基幹設備への投資もあわせて合計で1億4600万
ドルにのぼる IDBの融資について、選挙の諍いが続く間の凍結を求めた、
とされている。しかも、選挙問題が解決した後も援助は引続き凍結された
ままだった。2002年の英国のある研究によれば、ハイチの水事情は世界で
も最悪と評価されている。

(*原注)
Who removed Aristide?
(アリスティドを引きずり下ろしたのは誰だ?[仮訳])
http://www.lrb.co.uk/v26/n08/paul-farmer/who-removed-aristide

ミヌスタの便所に独立機関の調査を入れるべきである。とはいえ、同様の
ことはどこで起こってもおかしくなかった。ハイチへの国際的な政策は数
十年も変化がないのでコレラが蔓延する条件は満たされていた。経済的搾
取、政治的介入、NGOのひも付き援助、メディアの偽伝、同じ過ちが何度も
何度も行われている。残念なことに、大地震もこれらを変えるにはいたら
なかったようだ。加熱する抗議行動でハイチの人々が怒りを表しているこ
とは驚くにはあたらない。

(c) 2010 Guardian News and Media Limited

イザボー・ドゥセは、ハイチのポルトープランスに拠点を置くジャーナリ
ストです。彼女は、ハイチリベルテ、CSモニターでキャンプと復興プロセ
スの状況について書いており、アルジャジーラのプロデュースをしていま
す。ロンドン大学ゴールドスミスの人類学の大学院生です。

◎ガーディアン紙の厚意により、翻訳配布許可を取得しています。

Article printed from guardian.co.uk
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/2010/nov/18/haiti-crisis-un-troops

原文:
Published on Thursday, November 18, 2010 by The Guardian/UK
Why Desperate Haitians Want to Kick Out UN Troops
The crisis in Haiti follows decades of economic exploitation and gifts
with chains attached - no wonder its citizens are angry

by Isabeau Doucet

www.CommonDreams.org
URL to article: http://www.commondreams.org/view/2010/11/18-12


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